弔 辞  謹んでお別れのご挨拶を申し上げます。  ばんちゃんは、九十一年の生涯の中で、四分の三が、光を閉ざされた生活でしたね。長い間、私たちの想像できないほどの苦悩があったことでしょう。けれども、ちっとも苦しさを聞いたこともありませんでした。そして、最後まで私たちにやさしいばんちゃんでした。  思い起こせば、ばんちゃんは、私たちに限りない思い出を残してくれました。  ばんちゃんと二人で、トゲのある木から木の芽をつんで作った「うこぎご飯」。小さな板の間で一生懸命あんこを練って、柏の葉を蒸して、できあがった柏もち。ふかし釜においしそうに入っていたゆべしやちまき。梅の時期には梅干し作り、白ささぎで作る栗きんとん。  いたずら心で、作っている最中に一つ手を出すと、「出来上がってからあげるから」とたしなめられ、「ばんちゃんの目、見えるの?」と疑うほどでした。  それぞれの季節の味と、ばんちゃんの思い出が昨日のようによみがえって来ます。