──まとめ──  第一次ゲームと第二次ゲームという全く耳慣れない言葉を説明す るのにずいぶん頁を費しました。ここでまとめをしておきます。 要するに「個」(利害の一致する個人または団体)が複数あれば 第一次ゲームであり、「個」が一つであれば正式な競技は不可能な ので二次的な競技にならざるを得ず、そういうものを「第二次ゲー ム」と名付けただけのことです。また第二章で述べたゲームの性質・ 特質は第一次ゲームにはそっくりあてはまりますが第二次ゲームに はそうはいきません。  第一次・第二次ゲームという観点から見て、非常に興味深いゲー ムがあってので一つ御紹介しましょう。それはゲームセンターに置 かれていた「双子龍」(これで「ダブルドラゴン」と読むそうです) というゲームです。このゲームは一人または二人で行います。一人 の時は当然第二次ゲームなのでどうということはありませんが、面 白いのは二人でプレイした場合です。画面に現れた二人のプレーヤ ーはさらわれたマドンナを救出すべく一致協力してコンピューター の繰り出す「悪漢」(人工的な敵)に対処して行きます。二人の利 害は一致しており「個」は一つですからこれも第二次ゲームのよう に思えるのです。ところが終盤にマドンナを救出すると、一人のマ ドンナに二人の男は多すぎるというわけで、今の今まで協力してき た二人が一転して敵対関係となり武器を手にどちらかが倒れるまで 格闘を始めてしまう。ゲーム論的に見ると最後の最後で利害が真っ 二つに割れてしまい「個」が二つとなり、それまでの第二次ゲーム がパッと第一次ゲームへと変身してしまうことになります。ゲーム 論的には極めて面白いゲームだと言えるでしょう。第一次・第二次 の違いはあくまで「個」が単数か複数かによるのであって、ゲーム 中の敵対関係によっては同じゲームの中に第一次と第二次ゲームが 混在することもあるのを示したまことに珍しい例だと思います。  ──理論編のまとめ──  ゲーム理論もこの章で終ります。そこでこれまでの考察をざっと まとめておきましょう。 ゲーム=遊び、というのが世間の常識でありほとんどの人はそれ を鵜呑みにしていて大して疑わずにいるようです。ボードゲームを 「盤上遊戯」と訳する習慣からもそれが窺えます。けれどもこれま で見てきたように「ゲーム=遊び」というのは間違いであって、「ゲ ーム=競技」と考えなければならない。つまりオリンピックでの真 剣そのものの競技も家族だんらんのババ抜きも、勝負にかける意気 込みこそまるで違うけれどもどちらも同じ「競技」の仲間なのだと いうことです。素人には理解できない難解な専門書も幼児向けの絵 本も中身こそまるで異なるがどちらも同じく「本」の仲間であるの と同じ理屈です。  このことを理解する為には「ゲーム」という言葉に染みついてい る「遊び」というイメージを徹底的に漂白する必要があります。こ の本で言うと第一章はそのことに力点をおいています。その上でゲ ーム(第一次ゲーム)の持つ特性を第二章で解説し、更に「準ゲー ム」とでも言うべき第二次ゲームの性質を第三章で詳説しました。 第一次・第二次の区別を説明するにあたっては、ほとんど例のない ことですが、ゲームを図解することを試みました。これも「ゲーム =競技」という考えから出たものです。ただ、第三章の終わりの部 分は「ゲームの目的は勝つこと」というそれまでの主題を一転して 否定しているので違和感があったかも知れません。要するに「勝つ」 という言葉は第一次ゲームのみに用いるべきだということを言いた かったに過ぎないのですが。 余り他に例を見ないゲーム論はいかがだったでしょうか。酔狂な、 と思われる人があるかも知れませんが、コンピューターゲーム機の 隆盛を見ても分るように、やがては欧米のように大人も堂々とコン ピューターゲームやボードゲームを楽しむ時代がやって来るでしょ うし、ここらで大まじめな「ゲーム論」が登場してもおかしくはな いでしょう。もちろんゲームを真面目に考えているのは私だけでは なく、これほどまとまったものではないにしろ「ゲームとは何か」 というような文章を見かけることはあるのですが、何といっても「ゲ ーム=競技」ということが分らず「ゲーム=遊び」という常識に染 まっている為に、不十分かつ感情的なゲーム論に終始している場合 が多く見受けられるのです。例えば次の章で述べるロールプレイン グ=ゲームは本質的に第二次ゲームであり、それ故に純粋なゲーム 性(競技性)には多少欠けるところがあります。しかしそんな理屈 など知るよしもないロールプレイング=ゲームの愛好者たちは、そ の薄まったゲーム性をもってすべてのゲームを説明しようとするよ うな誤りを犯してしまうのです。  ともあれ、この章で「理論編」を終え、次の章からは「実際のゲ ーム編」と題して、実在するゲームを例にとりながらいろいろと注 釈を加えていくことにします。理論めいたこともかなりお話しする ことになるでしょう。