ファレイヌ2 第40話「メダリオンイーグル」後編 7 会議 警視庁・防衛庁合同緊急対策本部。 ここでは警察幹部、自衛隊幹部が集まり、謎の殺人兵器への対策 が議論されていた。 「一体、現場はどうなってるおるのかね。報告が全くないではない か」 警視総監が言った。 「現在わかっている限りの情報を申し上げます」 奈緒美が幹部たちを見回して、静かに言った。 奈緒美は美佳に救われた後、一路対策本部の置かれている警視庁 に戻ってきたのである。 「謎の殺人兵器の正体ですが、当初言われていたような戦闘機では ありません」 「というと?」 「この兵器はメダリオンイーグルと呼ばれ、第二次大戦中、ドイツ の科学者ザイス・ゲッペナーが開発したものです。その特徴はあら ゆるものに変形、合体が可能で、動力を必要としません」 奈緒美の説明に周囲がざわめいた。 「そんなものは聞いたことがないな」 「いや、確かにこのような兵器が設計されたという噂を聞いたこと がある。しかし、この兵器は設計だけで、完成されていないと言う 話だったが」 自衛隊の幹部が言った。 「これは私の推測ですが、メダリオンイーグルによる最初の池袋爆 撃は、メダリオンイーグルが自衛隊の戦闘機と合体したものだと思 われます」 「その根拠は?」 「管制塔のレーダーの記録を取ってみたのですが、午後12時27 分にまず池袋上空で未確認飛行物体の確認がなされています。そし て、その31分後にY基地より二機の自衛隊機がスクランブル発進 しました。そして、さらに23分後の1時21分、自衛隊機が未確 認飛行物体を発見し、交戦。数分後、未確認飛行物体が姿を消し、 自衛隊機が僚機を撃墜し、さらに池袋へ爆撃を行っています」 「なるほど」 「その後、メダリオンイーグルは自衛隊機から分離し、市民の殺戮 活動、さらに駆けつけた警官隊への攻撃を行い、現在に至っていま す」 「そのメダリオンイーグルの原型はどんな形なのかね」 「写真を撮ってきました。これです」 奈緒美は二枚の写真をボードに貼った。 「こちらの人型のが原型です。こちらが装甲車と合体した時のもの です」 奈緒美が写真を指さして、説明した。 「たった一体かね」 「はい」 「たった一体のためにこれだけの被害を出したというのか」 「メダリオンイーグルは弾丸もミサイルもいっさい効果がありませ ん。それに合体しなくても恐ろしく強力なパワーを持っています。 ですから、例え一体であっても、止めることが出来ないんです」 「何か手はないのか?」 防衛庁長官が言った。 「現在、現場に戦闘ヘリ二機を派遣しています」 自衛隊幹部が言った。 「恐らくその戦闘ヘリは戻ってこないと思いますよ」 奈緒美が言った。 「何てことを言うんだ。あれは最新型の戦闘ヘリだぞ」 「そんなものを派遣して、もしメダリオンイーグルがそれと合体し たらどうなさるおつもりですか」 「バカな、そんなことが……」 自衛隊幹部に焦りの色が見えた。 「至急、連絡を取りたまえ」 防衛庁長官が言った。 「はっ」 自衛隊幹部は部屋を出ていった。 「話を戻すが、牧田警部、何か手はないのかね」 「今はただ待つしかありません」 「待つ?何を待つのだ」 「……」 奈緒美はこれ以上は答えることが出来なかった。 8 アンジェラ 「ちっ、ここにもいないぜ」 ソフィーは愚痴った。 ソフィーとマイクはビルの一室にいた。 ソフィーたちはペトラルカを捜すため、ヘリコプターを降りて、 建物という建物を回っているのである。 「こんな手間のかかることしてたら、ペトラルカを見つける前に美 佳が殺されるわ」 「確かにこれだけの建物の中からペトラルカを捜すのは困難ですね 」 マイクは考え込んだ。 ソフィーたちは部屋を出た。 「ソフィー」 その時、ソフィーを呼ぶ声がした。 「ん?」 声の方を見ると、アンジェラが立っていた。 「アンジェラ、どうしてこんなところに?」 「マリーナが殺されました」 「え?」 「あの時、言わなかったんですけど、ペトラルカはカイルを倒した ら、マリーナに自分ごとメダリオンイーグルを四次元に封印しても らうはずだったんです」 「何ですって」 「わたし、気になって昨日、みんなと別れた後、マリーナとペトラ ルカが会う場所へ行ってみたんです。そうしたら、マリーナは殺さ れていました」 「ペトラルカの意識がマリーナと会うまで残っていなかったのね」 「ごめんなさい……黙っていて」 「今更、謝られたってしょうがないわよ。それより、そんなことを 言うためにここへ来たの?」 「わたし、ペトラルカの居場所、わかります」 「え?」 「ペトラルカは万一のためにピアスに発信器をつけていたんです」 「あんたね、そんなことまで黙ってたの」 「ごめんなさい。マリーナが死ぬとわかるまでペトラルカに言わな いようにって言われてたんです」 「バカッ。そのおかげで何人の人間が死んだと思ってんのよ」 ソフィーは怒鳴った。 「ソフィー、今は言い争ってる場合じゃない。早くペトラルカのと ころへ行こう」 「わかったわ。アンジェラ、居場所はわかるのね?」 「受信機を持っています」 「じゃあ、行くわよ」 ソフィーたちはビルの廊下を駆け出した。 9 敗北 その頃、戦闘ヘリと合体したメダリオンイーグルとキティの戦い は依然続いていた。 しかし、戦いの主導権はメダリオンイーグルに完全に移っていた 。 既に特殊能力の多様とイーグルの攻撃によるダメージでキティの 体は弱り、イーグルのミサイルと機関砲の連続攻撃にただ逃げるし かなかった。 「くっ」 キティは機関砲をかわすため、一時ワゴン車の陰に隠れた。 −−早くソフィーたちがペトラルカを見つけてくれないと キティの呼吸は乱れていた。これだけ長時間の戦闘はキティにと っても初めてだった。 その時、イーグルがワゴン車に向けてミサイルを発射した。 ドゴオォォォォン!! 車が爆発し、キティは吹っ飛ばされた。 キティは道路に叩きつけられる。 そこへローターの回転音を響かせながら、イーグルがキティの前 に現れる。 「この怪物め……」 キティはよろよろと立ち上がった。 イーグルがキティに狙いを定め、ミサイルを発射した。 「今だ」 その瞬間、キティが飛んだ。 「サイコブレード!」 キティの手に光の剣が発生する。 「やあぁぁぁぁ」 キティはイーグルの頭上から剣を振り下ろした。 イーグルの体がスパッと切れた。 しかし、すぐさま、イーグルはヘリコプターから分離し、人間型 に戻った。 ヘリコプターだけが道路に落下し、爆発する。 「フオオォォォォ!!」 イーグルは雄叫びを上げ、キティに体当たりした。 「うあっ」 キティは勢いよく飛ばされ、またもビルの壁に激突する。 イーグルはすぐさま右手を鋭い剣に変えると、キティに向かって 突っ込んだ。 「ぐはっ」 次の瞬間、イーグルの鋭い剣がキティの胸に突き刺さった。 キティは目を見開く。胸から血があふれだした。 イーグルは剣を引き抜いた。キティはそのまま地面に落下した。 10 決断 「美佳……美佳……」  −−耳元で誰かの声がする。誰だろう。どこかで聞いたことのあ る声。 「美佳……美佳……」 「……」  澄み切った女性の声に美佳は目をそっと開けた。 「あっ……」  目を開けると、美佳の目にまばゆい光が入り込んできた。美佳は 目を細める。  しばらくして目が慣れてくると、そこは全体が水色の空間である ことに美佳は気づいた。  美佳はこの空間の中に浮遊していた。 「ここは……」  美佳は体を起こそうとしたが、力が全く入らなかった。 「久しぶり」  一人の少女が美佳の前に現れた。それはエメラルドの髪と瞳を持 つ少女、キティ・セイバーだった。 「あなたはキティ……それじゃあ、ここは……」 「そう、ここは私たちの意識の中よ」 「わたし、どうなったんだろう。確かメダリオンイーグルに刺され て……」 「美佳、よく聞いて。あなたはメダリオンイーグルにやられ、死ぬ 直前にあるわ」 「死ぬ……私が……」 「私があなたの前に現れたのは、あなたにお別れを言うため」 「お別れって……」 「あなたはもうすぐ死んでしまうわ」 「そんな、やだよ」 「これはあなたが選んだ運命よ」 「……私が死んだら、メダリオンイーグルはどうなるの。あなたが 倒してくれるの?」 「私とあなたでは生きる目的が違うわ」 「戦わないって言うの?」 「ええ」 「待ってよ。あなたも私も同じ心でしょ」 「今まであなたの心をずっと尊重してきたでしょ。今度は私の心が 意志を持つ番よ」 「あなたには悪いけど、断るわ」 「断る?あなたの意識はもうすぐ消えるのよ」 「それなら消える瞬間まで奴と戦うわ」 「美佳……」 「キティ、ごめんなさい。私は私の愛する人たちを守りたいの。わ がままかもしれないけど、それが私の生き方だから」 「……わかったわ」  キティはしばらく考え込んでから、答えた。 「キティ……」 「あなたの代わりに私が死んであげる」 「え?」 「そうすれば、キティの肉体は再生するわ」 「でも、そんなことしたら、あなたは……」 「仕方ないじゃない。私の頼みだもの」  キティは苦笑した。「その代わり、あなたはもう二度とこの姿に 変身できなくなるわ。あなたは椎野美佳のままでガイアールの使命 を背負うことになるの。それでもいい?」 「構わないわ」 「OK。それじゃあ、本当にお別れね」 「キティ、ごめんなさい、わたし……」 「悲しい顔しないで。同じ私なんだもの」  キティは微笑んだ。そして、その数秒後、彼女の体は空間から消 えた。  11 発見 「ここです」 アンジェラがビジネスホテルの入口の前で言った。 「ホテルにいたのか」 ソフィーたちはホテルの中に入った。 ホテルのロビーにはもう誰も人はいない。電線が切断されている ため、ホテル内は薄暗くなっている。 「こっちです」 アンジェラがポケット液晶テレビサイズのレーダーを見ながら、 走り出した。 ソフィーとマイクが後を追う。 アンジェラは階段を駆け上って、一気に13階まで来た。 そこで足を止め、呼吸を整える。 ソフィーとマイクも13階に到着した。 「大丈夫ですか」 アンジェラが呼吸を弾ませながら、聞いた。 「あんたの方こそ」 「わたしは、責任がありますから」 アンジェラはレーダーで発信器の位置を見ながら、歩いていった 。 「この部屋です」 アンジェラは通路の一番奥の部屋のドアを前にして立ち止まった 。 「ここにいるのね」 「発信器はこの先にあります」 「どいてて」 ソフィーは亜鉛銃を手にし、マイクとアンジェラをドアのそばか ら離した。 ソフィーはドアのノブに手をかけ、そっと回してみた。−−鍵が かかっている。 「よし」 ソフィーは亜鉛銃の銃口をドアのノブに向けた。そして、トリガ ーを引く。 グォーン!! 火炎弾がドアのノブに命中し、破壊された。 ソフィーはドアを蹴り開けて、中へ突入する。 「ペトラルカ!!」 ソフィーは拳銃を構えた。 ペトラルカは両手を組み、祈るような姿で窓辺に立っていた。 「邪魔者を殺せ、敵を粉砕せよ……」 ペトラルカは何かにとりつかれたようにぶつぶつと呟いていた。 「……」 ペトラルカの顔は既に生気を失ったように真っ青で、頬の肉がげ っそりとそげ落ち、目のまわりが落ちくぼんでいた。髪の毛も真っ 白になっている。 「これがペトラルカ……」 「ペトラルカはもうメダリオンの意のままに生命エネルギーを提供 する屍に過ぎません」 アンジェラが言った。 「ペトラルカ、悪く思わないでよ」 ソフィーが亜鉛銃の銃口をペトラルカに向けた。 その時だった。ペトラルカがくるっとソフィーの方へ向き、カッ と目を見開いて、睨み付けた。 「おまえは敵だな、殺す!!」 ペトラルカの鋭い声が飛んだ。 ガシャン!! 窓ガラスが割れ、メダリオンイーグルが部屋に飛び込んできた。 「ちっ」 ソフィーは亜鉛銃のトリガーを引いた。 グォーン!! だが、ペトラルカの前にイーグルが立ちはだかり、火炎弾を防い だ。イーグルには火炎弾は全く無力であった。 「殺せ、みんな殺せ、あはははははは」 ペトラルカは気味の悪い声で笑った。もうその声はペトラルカの 声ではなかった。 イーグルがソフィーたちに向かって歩き出す。 「みんな、逃げろ。ここは私が−−」 ソフィーがそう言いかけた時、これまで黙っていたマイクがソフ ィーを押しのけるように前に出てきた。 「ペトラルカ、もうやめてくれ!!」 マイクが叫んだ。 「バカ、おまえ……」 ソフィーがマイクの肩を掴んだ。 「ペトラルカ、思い出してくれ、私は君の婚約者のマイクだ」 マイクの言葉にペトラルカは急に口を閉ざし、マイクの方を見た 。 「もう人殺しなんかやめてくれ。君はそんな女性ではないはずだ。 依然、君と一緒に登山に行った時、私がきれいな花を見つけて、摘 み取ったら、君は怒ったよね。花にだって命があるんだから、自分 のエゴで摘み取るなんて許せないって」 「……」 「まだあるよ。私の姪が野鳥を捕まえて、かごに入れて飼っていた ら、君は鳥がかわいそうだって言って、逃がしたよね」 「……」 ペトラルカの表情に変化が現れた。 「君は心根は優しい女性のはずだ。君は人を殺すためにメダリオン イーグルを作ったわけじゃないはずだ。思い出してくれ。何のため に作ったのかを」 「ううっ……わたしは……」 ペトラルカが突然、頭を押さえた。 「ペトラルカ、思い出せ!!」 「思い出して」 「私たち、仲間だろ」 マイクもソフィーもアンジェラも叫んだ。 「うああああっ」 ペトラルカは苦しんだ。 その時、彼女の胸のメダリオンが輝いた。 「ペトラルカ」 マイクたちがペトラルカに駆け寄った。 しかし、それを妨害するようにイーグルがマイクたちを突き飛ば した。 「殺してやる」 突然、イーグルがしゃべりだした。 「なにっ!!!」 ソフィーたちは驚いた。 イーグルはペトラルカの肩を左手で掴むと、彼女の胸に埋め込ま れたメダリオンを右手で鷲掴みにして取り出した。そして、自分の 胸に装着した。 「ああっ!!」 ペトラルカは声を上げ、その場に崩れる。 「ペトラルカの中に優しい心が芽生え始めたから、邪悪な心が行き 場を失って、メダリオンの中に意思を作り出してしまったんです」 アンジェラが言った。 「殺す、全員殺す」 イーグルがソフィーたちに襲いかかった。 「くそぉ」 ソフィーが亜鉛銃を連射するが、イーグルにはまるで効果がない 。 「フオオオォォォォ!!!」 イーグルが右手を剣に変え、振り上げた。 「誰かぁ助けて!!」 アンジェラが声を上げた。 「やあぁぁぁ!!」 その時、キティが窓から飛び込み、光の剣を背中からイーグルに 突き刺した。 「美佳!」 「うりゃあああ」 キティはイーグルの背中を突き刺したまま、イーグルを持ち上げ 、窓の外へぶん投げた。 「美佳、無事だったのか」 「……」 「おまえ、ヘアバンド、どうしたんだ」 キティの頭にはヘアバンドがなかった。 「……」 キティはちらっと寂しげにソフィーを見たが、身を翻し、イーグ ルを追って、外に出た。 12 メダリオンイーグルの最後 「メダリオンイーグル、おまえを自然の中へ浄化してやるわ」 キティは地面に降り立つと、再び右手に光の剣を発生させた。 「フオオオォォォォ!!!」 イーグルが右手の剣を振り上げて、キティに向かってくる。 「サイコ・キャプチャー」 キティは光の剣で地面に魔法陣を描いた。 キティが魔法陣の後ろに立ち、構える。 イーグルがキティに飛びかからんと、魔法陣の中へ飛び込んだ。 その瞬間、イーグルの体が動かなくなった。 「サイコ・ピュレヒケーション!」 キティの持つ光の剣の色が紫に変わった。 「くらえっ!!」 キティは剣をイーグルに向かって斜めに振り下ろした。 イーグルの体に切れ目が入る。 イーグルの細胞が再び修復へ動こうとするが、イーグルの体の切 れ目からものすごい風が起こり、イーグルの体を吸い込んだ。 「フオオオオォォォォ!!!」 イーグルは悲鳴にも似た声を上げだが、抵抗する間もなく一瞬に してその切れ目の中へ吸い込まれてしまった。 そして、イーグルが消えると同時にその切れ目も消えてしまった 。 「ふうっ」 キティは剣を消し、息をついた。 キティはテレポートして、ホテルのソフィーたちのいる部屋へ戻 った。 「敵は倒したわ」 キティが静かに言った。 部屋ではマイクがペトラルカを抱きしめ、嗚咽していた。 「死んだの?」 キティの問いかけにソフィーは静かにうなずいた。 「私に見せてみて」 キティはペトラルカのそばに近寄った。 「もしペトラルカに少しでも生きる力があれば、私の力で治せるか もしれない」 キティはミイラのようにやせこけたペトラルカの額に手を当てた 。 そして、精神を集中する。 キティの手がほのかな光を発した。 ソフィー、マイク、アンジェラはその様子をじっと見守っていた 。 それから数分後。 「ねえ、見て。ペトラルカの顔色が−−」 アンジェラが言った。 「本当だ」 ペトラルカの顔色が次第によくなり、くぼんでいた頬や目のまわ りもふっくらとしてきた。そして、白かった髪の色まで栗色に近く なっていく。 「ペトラルカの手が温かくなった」 ペトラルカの手を握っていたマイクが驚いた声で言った。 「脈も戻ってる。生き返ったんだわ」 ソフィーも喜びの声を上げた。 「これでいいわね」 キティはペトラルカの額から手を離した。 「美佳、ありがとう。あなたのおかげだ」 マイクは涙でいっぱいになった目でキティを見た。 「これで結婚できるね」 キティが微笑んだ。 「はい」 マイクは感激のこもった返事をした。 「う、ううん」 ペトラルカが目を覚ました。「あれ、ここは?」 「ペトラルカ」 マイクは再びペトラルカを抱きしめた。 「マイク、どうしたの。苦しいわ」 ペトラルカは怒った。 「よかった、本当によかった」 しかし、マイクの方はペトラルカが何を言っても離さない。 キティは立ち上がった。 「美佳」 ソフィーが言った。 「ん?」 「あなたのヘアバンド−−」 「ああ、そのことね」 キティは寂しげに微笑んだ。「実はね、死んじゃったの」 「え?」 「もう一人の私が」 「もう一人の私?」 「実はさっきの戦いで、私、イーグルに腹を刺されて死ぬところだ ったの。でも、それをもう一人の私が身代わりになってくれたんだ」 「身代わりって?」 「うまく言えないけど、キティセイバーは死んでしまったって事」  キティがそう言った時、キティの姿が美佳の姿に戻った。 「これで二度とキティセイバーに変身できないわ」  美佳は静かに言った。「だから、もうヘアバンドも必要ないの」  美佳は輝きを失った魔法のヘアバンドをソフィーに見せた。 「この先、どうするんだ?」 「さあ、全然考えてないわ。今はただもう一人の私の冥福を祈りた いだけ」 美佳はそう言うと、そっと目をつむった。 13 エピローグ 一台の車が警官隊の構えるバリケードの前にやってきた。 その車から、ソフィー、アンジェラ、マイク、そして、最後にペ トラルカが降りた。 「みんな!!」 バリケードで待っていた愛子が飛び出した。 続いてエリナ、早見、そして、健夫と晴香が出てくる。 「みんな、無事だったんですね。よかった」 エリナが涙ぐむ。 「メダリオンイーグルを倒したのか?」 早見が聞いた。 「ええ。奴はもう二度と現れないわ」 ソフィーが答えた。 「私のせいで迷惑かけてごめんなさい」 ペトラルカが謝った。 「ペトラルカのせいではありませんわ」 エリナがペトラルカの肩に手を置いて、優しく言った。 「あれ、先輩はどこ?」 愛子がキョロキョロと見回した。 「そういえば、いないな」 早見は車の方を見たが、車にはもう誰も乗っていない。 美佳のことを話題にすると、ソフィーたち4人の表情が重くなっ た。 「ソフィー、美佳さんはどこにいるんですの?」 「え、それは−−」 ソフィーが口ごもる。 「美佳さんに何かあったんですか?」 エリナの顔に不安が走る。 「−−」 「私が言うわ」 ペトラルカが言った。「みんな、よく聞いて。美佳はもう……」 「!!!」 ペトラルカの言葉にエリナたちは愕然となった。 「まさか、美佳さんに何かあったんですか?」 エリナが顔をひきつらせ、ペトラルカに詰め寄る。 「……美佳は……死んだわ」 「嘘です、そんなこと!!」 エリナが大声を上げた。「美佳さんが死ぬわけありません。何か の間違いです。ペトラルカ、嘘でしょ、嘘だと言って」 「本当よ」 「ペティー」 エリナがペトラルカの両肩を掴んだ。その手は震えている。 「本当なのか」 早見も信じられないと言った顔で聞いた。 「美佳はイーグルを道連れにして死んだの」 ペトラルカが静かに言った。 「嘘だ!」 健夫も思わず声を荒げた。 「健夫……」 「椎野さんは強いんだ。死ぬわけないじゃないか。何でそんな嘘言 うんだよ」 「ペトラルカ、美佳さんが死んだというなら、死体があるんでしょ 。それを見せて下さい」 「いいわ」 「……」 ペトラルカがはっきり返答したので、エリナは当惑した。 ペトラルカは車の後ろに回ると、トランクを開けた。 「どうぞ」 エリナたちが一斉にトランクに駆け寄る。 「はっ!!!」 エリナは口を手で覆った。 トランクには美佳の死体があった。彼女は安らかに目をつむって いる。胸のあたりは血で真っ赤に染まっていた。 「うわああああーーん」 愛子が泣き出した。 それにつられて晴香も涙ぐむ。 「美佳さん……」 エリナは美佳の頬に触れた。 「死んだなんて嘘ですよね。起きて下さい、起きて」 エリナは美佳の体を揺すった。 「美佳さん、何で黙ってるんですか。からかうなんてひどいですよ 」 エリナは激しく美佳の体を揺すった。 「やめるんだ」 早見がエリナの両腕を抱えて、美佳から引き離した。 「離して。美佳さん、美佳さん!」 エリナが泣きわめいた。 「エリナ!!」 ペトラルカがエリナの頬をひっぱたいた。 エリナが目を大きく開いて、ペトラルカを見る。 「もう美佳は死んだのよ」 ペトラルカは強い口調で言った。 その言葉にエリナは力を失い、座り込んだ。 「死に際に美佳からみんなへのメッセージを預かったわ。それを伝 えるわね」 ペトラルカは少し間をおいて、話した。「まず、愛子」 「はい……」 愛子はまだ鼻をぐすぐす言わせながら、返事をした。 「『私は一流の声優になれなかったけど、愛子はそれを目指して私 の分も頑張ってね』って」 「せんぱーい」 愛子はそれを聞いて、また泣き出した。 「それから、健夫君だったわね」 「はい」 「『思い出の夜をありがとう。私は健夫君との思い出は絶対忘れな いよ。でも、これからは私に縛られないで、早く新しい恋を見つけ てね』ってメッセージよ」 「……」 健夫は黙り込んだ。 「それから、晴香さん」 ペトラルカは晴香を見た。 「はい」 「『健夫君のことよろしくお願いします』って」 「椎野さんがそんなことを……」 晴香は胸を押さえた。 「早見さん」 「ああ」 「『エリナのこと、お願いします。早見さんならきっとエリナの心 を包み込んであげられると思う』って」 「……わかった」 早見が俯いて、言った。 「最後にエリナ」 ペトラルカは座り込んでいるエリナの背中に手を置いた。「『あ なたは私の最高の友達だった。今までいろいろ迷惑もかけたりした けど、私、本当にエリナが大好きだったの。ずっとずっと一緒にい られたらよかったのにね……』」 ペトラルカはそこまで言ったところで、自分自身が涙ぐんでしま った。 「美佳さーん!!」 エリナはペトラルカに抱きつき、泣きじゃくった。 「エリナ、ありがとう、あたしのために泣いてくれて」  その時、エリナの背後で声がした。 「え?」  エリナははっとして、ペトラルカから離れ、後ろを振り向いた。 「ごめーん、驚いたぁ?」  車のトランクの上にピースサインをした美佳が立っている。 「み、みかさん……」  エリナは呆然とした様子で美佳を見つめていた。いや、エリナだ けではない。早見も健夫も晴香も愛子も同じであった。 「ちょっとしたジョーク。暗い雰囲気を和らげようと思ってね。い やあ、みんな真剣だから、参った、参った」  美佳は笑いながら、頭をかいた。 「美佳さんっ!!」  エリナの拳が怒りに震えた。 「美佳、おまえっ!!」  早見もムカッとした顔になる。 「椎野さん!」 「先輩!」  エリナたちがじりじりと美佳の周りを囲んだ。 「じょ、冗談だって、言ってるでしょ。あ、あのね、ペトラルカが やろうって言ったのよ」 「私は知らないわよ。美佳に頼まれただけだから」  ペトラルカは惚けた。 「私も知ーらない」  ソフィーもペトラルカに続いた。 「ああ、ずるーい。みんな、落ち着いて。話し合いましょう」  美佳はエリナたちをなだめようとしたが、時既に遅し。全員がト ランクの上の美佳に飛びかかった。 「悪かったわよぉ。日本を救ったんだから、勘弁してっ!!」  美佳は車から飛び降り、逃げ出した。 「待てっ、コラッ!!」 「美佳さん、逃がしませんわ」  エリナや早見たちが美佳を追いかける。 「全くさっきまで命をかけて戦っていた人間には思えないわね」  ソフィーが苦笑した。 「美佳らしくていいんじゃない」  ペトラルカが言った。  赤い夕焼けの空の下、廃墟と化した町の中で追いかけっこが続い ていた。 「メダリオンイーグル」終わり