ファレイヌ2 第38話「悪魔の兵器」後編 2 訪問 翌朝、ソフィーとアンジェラが早見の家を訪ねた。 ちょうど食事時であったので、二人はDKで美佳たちと話すこと になった。 「カイルを倒した?」 美佳は椀を片手に目を丸くして、言った。 「ええ。ペトラルカがやっつけたわ」 ソフィーは昨夜の出来事を全て話した。しかし、長い話のため、 話の終わる頃には食事の方もみんな済んでしまっていた。 「ペトラルカが自らメダリオンホークを作ってたなんて驚きだわ」 美佳は感心して言った。 「彼女が一人でカイルを倒すと言っていたのは根拠のないことでは なかったんですね」 「でもさ、ファレイヌでメダリオンイーグルを作っちゃったってこ とはもうあたしのファレイヌは戻ってこないの?」 愛子が不満そうに言った。 「多分ね」 「ええっ、やだなぁ。もう戦いは終わったんだから、返してほしい よぉ」 「あいっぺ、ファレイヌなんかどうするのよ。もう必要ないじゃな い」 「必要あるの。あれは昔、あたしの体だったんだもん。簡単には手 放せないよ」 「と言いつつ、命欲しさにペトラルカに預けたんでしょ」 美佳がからかうように言った。 「いじわるぅ。それとこれとは別だもん」 愛子は膨れっ面をした。 「それにしても、ペティーはどこへ行ってしまったんでしょう」 エリナがお茶を飲みながら、言った。 「メダリオンイーグルを処分に行ったんじゃない。二度と悪用され ないように」 「私もそうは思いたいんだけど、ちょっと気になることがあるんだ 」 ソフィーが真顔になった。 「何?」 「ペトラルカが飛び立つ前に『私は史上最強の兵器』って言ったん だ」 「何それ?」 「わからないわ。ぶつぶつと言っていただけだから」 「勝利の快感に浸ってるとか?」 「それならいいけどね」 ソフィーは浮かない顔をしている。 「けど、残念だなぁ、カイルが死んで」 愛子が言った。 「どうして?」 「だって、先輩とせっかく一緒に暮らせると思ったのに、一日で終 わりなんだもん」 「私は助かったわ。あんたと一緒だとギャーギャーピーピーうるさ いから」 「ああっ、ひどぅい」 愛子は美佳をぽかぽかと叩いた。 「ちょっとやめなさいよ」 美佳が頭を両手で押さえる。 「これで本当に戦いが終わったんですね」 エリナは呟いた。しかし、それが打ち消される日がすぐに来ると はこの時、彼女も考えてはいなかった。 3 それぞれの夜 ペトラルカの活躍でカイルの野望はもろくも打ち砕かれた。 カイルの死には疑心暗鬼だった美佳たちも、マイク・リッガーの 付き添いで行った病院の霊安室で、カイルの死体を見て彼の死を確 認した。 美佳にとっては戦いの真の終結ではなかったけれども、カイルの 死は長きに渡るファレイヌ戦争の終結であることに疑いはなかった 。 数日後に行われた深沢ゆうきの葬儀では、美佳たちはゆうきの冥 福と共にカイルに殺されたエミリ、ブリジッタ、ローゼの冥福も祈 った。 しかし、あの日以来、ペトラルカと二台のメダリオンホークの所 在は不明であり、ゆうきの葬儀にも姿を現すことはなかった……。 深沢ゆうきの葬儀のあったその夜、美佳は西島健夫の家を訪ねた 。 「起きてるかな」 美佳は二階を見上げた。 二階の窓はみんな電気が消えている。 「もう10時だものね」 美佳はぽつりと呟いた。 「椎野さん?」 「きゃっ」 突然、後ろで声がして、美佳は声を上げた。 「俺ですよ」 健夫が少し笑って、言った。 「え、あ、健夫君」 美佳は慌てた。 「こんな時間にどうしたんですか」 「健夫君こそ、その格好?」 美佳は健夫の着ているランニングウェアを見て、言った。 「ああ、走ってきたんですよ」 「ジョギングやってるの?」 「体、鍛えてるんですよ。早く椎野さんを守れるような男になりた いから」 「健夫君……」 美佳は胸を押さえた。 「まだ始めてから日にちも立ってないけど、俺、頑張るから。カイ ルとの戦いには間に合わなかったけど、今度何かあった時には俺に も手伝わせて下さい」 健夫は白い息を吐きながら、明るく言った。 「どうして私なんかのためにそんなこと言うの?」 美佳は健夫を潤んだ目で見つめた。 「どうしてって、椎野さんが好きだから。それだけじゃ駄目ですか 」 「ううん、そんなことないけど、私なんかチビだし胸ないし、ルッ クスだって大したことないし、性格だって短気でわがままだよ。頭 だって悪いし。いいとこなんかないじゃない」 「俺は今、椎野さんが言ったところはみんな好きだよ」 「……」 「俺、こんなに人のこと好きって言えるのは初めてなんだ」 「私も健夫君のこと、好き」 美佳は言った。 「ほ、ほんとうに?」 健夫は急に顔が赤くなった。 「うん」 美佳は微笑んだ。 「何か暑くなってきましたね」 「少しつきあってくれる?」 「今ですか?」 「ええ」 「わかりました。すぐ着替えて来るんで、ここで待ってて下さい」 健夫は慌てて家に入った。 美佳はその間、夜空を見上げていた。 「お待たせしました」 健夫はスタジアム・ジャンパーにジーンズ姿で家から現れた。 「じゃあ、行こう」 美佳は健夫の腕に手を絡め、引っ張るようにして歩いた。 「どこへ行くんですか?」 「いいところ」 美佳はそれだけ言うと、後は何も言わずに歩いていた。 それから、10分後、美佳と健夫は駅前通りに来た。 「ここよ」 美佳は上を見て言った。 「え?ここは−−」 健夫の顔がこわばった。 美佳たちが立っていたのはホテルの前だったのである。 「ホテルって、椎野さん?」 健夫は動揺していた。 美佳は何も答えず、ホテルに入っていく。 「ちょ、ちょっと」 健夫は立ち止まっているわけにも行かず、美佳の後を慌てて追い かけた。 美佳はフロントで手続きをしている。 「やばいよ。こんなところに入るなんて」 美佳は健夫の言葉を無視して、フロントに料金を払い、鍵を受け 取った。 「聞いてるんですか?こんなところに入るなんて、一体−−」 美佳は黙ってエレベーターに乗った。健夫もついていく。 「どうしちゃったんですか」 エレベーターを降りたところで健夫は美佳の肩を掴んで、引き留 めた。 美佳はしばらくうつむいていたが、突然健夫に抱きついた。 「椎野さん……」 健夫が驚いて、美佳の肩に触れると、彼女の肩が震えていた。 「わたし、怖いの……」 美佳のかすれた声が聞こえた。 「え?」 「じっとしてると不安で、恐くて、自分がわからなくなっちゃうの 」 「何かあったんですか」 「お願い、今夜だけでいいから、一緒にいて。今夜だけでいいから 」 美佳の言葉に健夫はしばらく考え込み、やがて優しく言った。 「わかったよ」 「健夫君」 美佳が顔を上げ、健夫を見つめる。 「俺で力になれるんなら、何でもするよ」 美佳と健夫はホテルの一室に入った。 「健夫君と二人きりなんて、浅野邸以来ね」 美佳はベッドに座って、言った。 部屋はラブホテルのような怪しい部屋ではなく、ごく普通の部屋 である。 「健夫君、外、見ようよ」 美佳はベランダに出た。外には街の灯りの点在する美しい夜景が 広がっている。 健夫もベランダに出た。 「少し冷たいね」 美佳は夜風を受けながら、言った。 健夫は黙って、ジャンパーを美佳の肩に掛けた。 「ありがとう」 美佳は健夫に寄り添った。 「健夫君」 「何ですか?」 「晴香さんのこと、好き?」 「いきなり何言うんですか?」 「嫌いなの?」 「好きだけど、それは椎野さんの好きとは違います。あいつとはた だの幼なじみっていうだけですよ」 「でも、うらやましい」 「どうして?」 「晴香さんにはあいつって言って、私には椎野さんだもの」 「それは椎野さんが年上だから」 「美佳って呼んで」 「え?」 「私、晴香さんに負けたくない。健夫君を取られたくないの」 美佳は健夫の腕を掴んだ。 「取られるも何も俺は晴香のことなんて何とも思ってないよ」 「だったら、抱いてくれる?」 「椎野さん……」 「私、健夫君にだったら全てをあげてもいい。あなたのことが好き なの」 美佳は健夫に抱きついた。 「椎野さん」 健夫は美佳の柔らかい唇にそっとキスをした。 美佳は抵抗せず、目をつむる。 少しして二人は唇を離し、見つめ合った。 「うふふ、おかしいね、私と健夫君がキスするなんて」 美佳はくすっと笑った。 「そんなことないよ」 「そうかな」 「そうだよ」 「だったら、もう一度、してくれる」 「もちろん」 二人は再びキスを交わした。 ベランダには冷たい風が吹きつけていたが、今の二人は全く関係 がなかった。 同じ頃、エリナと早見は自宅の居間で一緒にビールを飲んでいた 。 「今頃、どうしてますかね、美佳さんは」 ビールのせいで少し頬を赤くしているエリナが言った。 「美佳のことだから、一晩中彼を飲み屋に連れ回してるんじゃない か」 「わたくしはそうは思いませんわ。美佳さんってああ見えても、女 の子っぽいところがあるんですよ。きっと今頃は公園のベンチに座 って、二人きりで夜空を見ながら話してると思いますわ」 エリナはビールをぐいと飲み干した。 「美佳のそんな姿、想像できないな」 早見はソファにもたれながら、苦笑した。 「でも、これでわたくしと美佳さんが変な関係でないってことはわ かりましたでしょう?」 エリナはコップにビールを注ぎながら、言った。 「そのことなら、俺が悪かったよ。勘弁してくれ」 「いいえ、そんな簡単には許しません」 エリナは急に声を上げた。勢いでまたビールを一気に飲む。 「参ったな」 早見は頭をかいた。 「明日になったら、こうやって早見さんと話すこともなくなってし まうんですね」 エリナは大きく息をついた。 「おいおい、ただ引っ越すだけだろ」 「早見さんはわたくしの気持ち、何にもわかってないんです」 エリナは酒が入っているせいか、だんだん態度が大きくなってい る。 「へ?」 「わらくしだって、男の人を好きになることがあるんれすよ」 エリナの言葉が変になってきた。 「それはわかってるよ」 「わひゃってません!」 エリナが突然、早見の前に詰め寄った。 「早見しゃんは女より男の方が好きれすか」 「俺は女の方だよ」 「じゃあ、わらくひのことは女らと思ってないんですね。らから、 嫌ってるんれしょう」 エリナが泣き出した。どうやら、かなり酔いが回っているようだ。 「嫌ってなんかいないよ。君はきれいだし、優しいし、料理だって うまいし」 「じゃあ、好きれすか」 エリナがさらに早見に詰め寄る。エリナの目はもうすわっていた 。 「あ、ああ」 「らったら、ディズニーランドに連れてってくらさい」 「ディ、ディズニーランド?ああ、連れてってやるよ」 「約束れすよ、連れてってくれなかったら、死んじゃいまふから」 「わかった、わかった。もう結構飲んだし、今日はもう寝た方がい い」 「寝る?」 エリナの顔つきが変わった。 「早見ひゃん」 エリナが怒鳴った。 「あ、ああ」 「寝るって早見ひゃんと一緒に寝るってことれすか?」 エリナが早見を睨み付けて、言った。 「そんなこと誰も言ってないだろ」 「わらくひはいいれす、おやふみなひゃい」 エリナは早見に抱きついて、眠ってしまった。 「おい、本当に寝たのか?」 早見は声をかけたが、エリナはすうすうと寝息を立てて本当に寝 てしまっていた。 さらに同じ頃、三野愛子は家族でカラオケボックスに行っていた 。 そこで愛子は家族にマイクを握らせず、一人で3時間も熱唱して いた。 「姉ちゃん、歌いすぎだよ」 中学2年生の弟、良平が言った。 「うるさぁーい、今日のあたしはロンリネスなの」 愛子がマイクを片手に言った。 「何がロンリネスだよ。たちの悪い酔っぱらいみたいな顔しちゃて さ」 「あんですって、良平、かわいいお姉ちゃんに何てこと言うのよぉ 」 愛子が良平の頭をマイクで叩いた。 「やったなぁ」 良平がジュースを愛子の顔にかけた。 「やったわねえ」 「へーんだ」 狭い室内で愛子と良平の追いかけっこが始まった。 「こら、やめなさい。愛子、良平」 母親が叱ったが、二人の喧嘩が収まった時には、室内はめちゃめ ちゃであった。 4 朝帰り 午前5時、美佳は早見の家に戻ってきた。 空気が冷たく、空は白みがかっていた。 「朝帰りはまずったかな」 美佳は周りに見られないようにそろそろと玄関のドアの前に来た 。 そして、ジーンズのポケットから鍵を取り出す。 「どうかみんな寝てますように」 美佳は鍵穴に鍵を入れた。 「美佳」 突然、後ろから声がした。 「いっ!」 美佳はびくっと震えた。 振り向くと、そこにはソフィーが立っていた。 「驚かさないでよ。私、昨日も同じ目に遭ってるんだから」 「あんたのガードが甘いのよ。簡単に相手に後ろを取られるようじ ゃ、いつ殺されてもおかしくないわね」 「今は生きてるんだから、いいの。それより、こんな朝早く、何か 用?」 美佳は不機嫌に言った。 「おまえこそ、朝帰りか?」 ソフィーはニヤッと笑って、言った。 「あ、あたしはちょっとジョギングよ」 美佳は顔を真っ赤にして、言った。 「ジョギングに行ってた奴が何でこそこそと家に入るんだよ」 「そりゃあ、みんなを起こしちゃ悪いかなと思って」 「ふうん、後でエリナに聞いてやろ」 「いじわるね。さっさと用件、言いなさいよ」 「ペトラルカのことだ」 「ペトラルカ……居場所、わかったの?」 「居場所どころか、次に彼女が現れた時、大変なことになるわ」 「大変なこと?」 「ここでおまえにだけ話してもしょうがない。私のホテルへエリナ と愛子を連れて来てくれ」 「いいけど、それなら電話ですればいいのに、どうして家へ来たの ?」 「電話番号を知らないからよ」 「あっ、そうなの。昨日、一緒にゆうきの葬式へ行ったんだから、 その時に聞いてくれればよかったのに」 「本当ならおまえとはあの場で永遠にお別れだったのよ」 「随分な言い方ね。いいわ、ホテルの住所、教えて」 「ああ」 ソフィーはメモを美佳に渡した。 「すぐに来なさい。朝食なんか食べてないでね」 「わかったわよ、いちいちむかつくわね」 ソフィーは早見の家から少し離れたところにある赤いスポーツカ ーに乗り込んだ。 「くうっ、性格も嫌味だけど、車も嫌味ね」 美佳は走り去る車を見て、べーと舌を出した。 5 メダリオンの秘密 それから、二時間後、美佳とエリナ、そして愛子がソフィーの宿 泊するホテルの一室に集まった。 部屋には既にソフィーとアンジェラが待っていた。 「遅いわ、なにもたもたしてたの」 ソフィーが腕時計を見て、言った。 「エリナが二日酔いでなかなか起きなかったの」 「ゆうきの葬式の日に酒飲んで、浮かれてたわけか?」 「浮かれたなんて、逆です」 エリナが向きになって否定した。 「かわいそー、ソフィーって嫌みな解釈しかできないんだね」 愛子が言った。 「あたしもあいっぺに賛成!」 「美佳、今朝のこと、ばらすわよ」 「はんたーい!」 美佳は寝返る。 「朝からそんなくだらない話をしてる場合じゃないわ。さあ、そこ らへんに座って」 ソフィーが子供をせかすように美佳たちを椅子やベッドに座らせ た。 「いいホテル、泊まってるわね。CIAって儲かるの?」 美佳が部屋を見回して、言った。 「シャラップ!あんたたちは全く雑談が多いわね」 「それがこのお話の売りだもん」 「やかましい。話を進めるわよ」 ソフィーは一度咳払いをしてから、話し始めた。「昨日、ゆうき の葬式の後、アンジェラがペトラルカのことで大事な話をしてくれ たの」 「アンジェラ、ペトラルカの行方知ってるの?」 美佳の問いかけにアンジェラはただ美佳を見つめ返す。 「それは私が話すわ。まず始めに言っておきたいのは、メダリオン ホークはまだ生きているってことよ」 「生きているって、ホークを操っていたカイルは死んだじゃない」 「ペトラルカが生きてるわ」 「ペトラルカがそんなことするわけないじゃない」 「ところが、そういう可能性があるのよ」 「?」 「アンジェラの話では、メダリオンホークはメダリオンが作り出し た金属物体なの。だから、メダリオンさえ破壊すれば、メダリオン ホークは実体を失うわ」 「うん、それで」 「しかし、メダリオンが破壊されなければ、奴は生き続ける。目的 達成のために」 「言ってることがわかんないわ。単刀直入に言ってよ」 「あ、あ、あたし……話します」 突然、アンジェラがしゃべりだした。 「アンジェラは黙ってて。私が話すから」 「いいじゃない、アンジェラにしゃべらせてあげなよ。今までしゃ べれなかったんでしょ」 「少し……ぎこちないですけど、聞いてくれますか?」 アンジェラは震えた声で言った。 「ええ」 美佳たちがうなずく。 「ザイスの発明したメダリオンホークにおけるメダリオンは、メダ リオンホークという実体の形成を促す意思と通常操作のための意思 をホークに伝える役目を果たします。ですから、メダリオンを使う 者には二つの意思が要求されます」 「実体の形成の意思というのは?」 「メダリオンホークを使いたい場合、ホークという実体を形成する ための目的がいるんです。ホークを使う目的がなければ、メダリオ ンを持っていてもホークは実体にはなりません。それはわかります か?」 「こういうこと?相手を殺すための武器がほしいと思わない限り、 メダリオンを持っていてもホークが生まれることはないと」 「そうです。実体形成のための意思はメダリオンを作り出した段階 で操作者が注入します。そして、その後、操作者の胸部にメダリオ ンを張り付けるんです。一度張り付いたメダリオンは2通りの方法 以外では取れることはありません」 「その方法は?」 「一つは操作者がメダリオンに吹き込んだ目的を諦めた場合、もう 一つは操作者が亡くなった場合です」 「目的を達成した場合というのはないの?」 「目的を達成した場合には次の目的を探します」 「え?」 美佳は戸惑った。「次の目的って、目的がない場合どうするの? 」 「見つけます」 「ちょっと待って。カイルの場合はどうなの?彼はメダリオンをペ トラルカに渡したんでしょ」 「彼は目的遂行を諦めたので、メダリオンが外れたんだと思います 」 アンジェラがゆっくりとした口調で言った。 「彼がその後、死んだのはどうして?」 「代償です」 「代償?」 「悪魔と契約を交わす場合、自分の魂を捧げる代わりに自分の望み を叶えてもらうことがあります。メダリオンホークの場合も、ホー クを使う代わりに命を捧げるんです」 「どうしてそうなるの?」 「それはメダリオンホークがファレイヌという悪魔の金属で作られ た兵器だからです」 「ペトラルカはそれを知ってたの?」 「……はい、知っていました。でも、もし自分がカイルとの戦いに 勝てば、少なくともカイルのファレイヌ狩りは阻止できると言って いました」 「何てことを……」 美佳は頭を抱えた。 「ねえねえ、でもさ、ソフィーの話だとカイルとペトラルカの戦い はペトラルカの圧勝だったんでしょ。どうしてそんな差が出たの? 新品と中古品の違い?」 愛子が素朴に尋ねた。 「それは目的の違いでしょう。ペトラルカはカイルの打倒という単 純な目的だったが、カイルは恐らく世界征服を目的にしていた。一 つの戦いのウエイトを考えれば、ペトラルカの方が遥かに上だった ってことよ」 ソフィーが言った。 「アンジェラ、さっき、目的を達成したら次の目的を探すって言っ てたけど、もし見つけるとしたらどんな目的になるのかしら?」 「メダリオンホークは武器ですから、倒すべき敵を捜します」 「その敵とは?」 「わかりません。それはペトラルカの考え次第です」 「と言うことはペトラルカは死ぬまで敵を捜し続けるのね」 「はい」 アンジェラは静かに答えた。 「ペトラルカはカイルを倒した後のことについて何も言ってなかっ たんですか?」 エリナが尋ねた。 「それは−−マリーナが……」 アンジェラは口ごもった。 「マリーナがどうしたの?」 「……」 アンジェラはまた口を閉ざしてしまった。 「これは大事なことなのよ。黙ってないで教えて」 「……」 アンジェラは美佳が何を言っても、もう口を開こうとはしなかっ た。 「どうして彼女、黙ってるの?」 美佳はソフィーを見た。 「わからないわ。私にも教えてくれなかったから」 「そう」 「これから、どうします?」 エリナが聞いた。 「彼女を捜し出すしかないでしょう」 「捜しだして、どうするんだ?殺すのか」 「そんなこと、見つけてから考えるわよ」 美佳は苛立たしげに言った。 エピローグ メダリオンイーグルは周囲を山に囲まれた広い高原に降り立った 。 ススキが折れ曲がるほどの突風が高原全体に吹き付けている。 空は灰色の雲に覆われていた。 「待っていたわ」 メダリオンイーグルの前に一人の女が姿を現した。 金髪で緑色の瞳を持つ細身の女であった。体には黒いローブをま とっている。 「マリーナ……私を…早く……」 イーグルの中のペトラルカが言った。 「いいわ」 マリーナは懐から白銀銃を取り出した。「四次元弾を食らったら 、二度とこの世界には戻れないわよ」 「いいから……早く…意識が」 「いくわよ」 マリーナは白銀銃の銃口をイーグルに向けた。そして、トリガー を引こうとした。 「うっ」 その瞬間、マリーナは目を見開いて、その場にうずくまった。 マリーナの腹から背中へ青い槍のようなものが突き刺さっていた 。 マリーナの背中からはどくどくと血が吹き出している。 「くっ」 マリーナは決死の思いで、白銀銃をイーグルへ向ける。 しかし、その時、イーグルはマリーナの目の前にいた。 バシュッ! イーグルの手刀がマリーナの首をはねた。 マリーナの首が数十メートル飛んで、草むらに落ちる。 イーグルは青い槍をマリーナの体から引き抜くと、自分の背中に 納めた。 「次の敵だ。次の敵を捜すのよ」 イーグルはうわごとのように呟くと、再び空へ飛び立った。 「悪魔の兵器」終わり