ファレイヌ2 第37話「悪魔の兵器」前編 登場人物 椎野美佳 声優。黄金銃ファレイヌの所有者。 魔法のヘアバンドでキティセイバーに変身。 エリナ 美佳のマネージャー。 ペトラルカ 新聞記者。青銅銃ファレイヌの所有者 メダリオンホーク あらゆるものに変形、合体可能な人間型兵器 カイル・リッガー ファレイヌを集めて、世界征服を企む男 水銀のファレイヌ、ミレーユの転生した姿 *現在の13のファレイヌの所有状況* 椎野美佳 金のファレイヌ所有 ペトラルカ 青銅、銅、コバルト、水晶のファレイヌ所有 カイル 水銀、チタン、鉄、ニッケルのファレイヌ所有 ソフィー 亜鉛のファレイヌ所有 セリン 鉛のファレイヌ所有 不明 クロムと白銀のファレイヌ プロローグ 「さてと、もう時間だわ」 ペトラルカは腕時計を見た。 「時間?」 ソフィーはペトラルカを見た。 美佳たちと早見の家で別れてから2時間後、ペトラルカとソフィ ーは、ペトラルカのリムジンにいた。 「実は今夜なのよ、カイルと会うのは」 「それ、どういうこと?」 「美佳たちには悪いけど、やっぱり一緒に戦わせるわけにはいかな いわ」 「嘘をついたの?」 「ええ」 「なぜ?」 「本当はもう美佳の前には姿を現さないつもりだったわ。でも、ゆ うきが殺されたことで、私自身の気持ちが揺らいでしまったの。ゆ うきを助けるためにやったことが、裏目に出てしまったから」 「それと美佳に会いに行ったのとどういう関係があるのよ?」 「力が欲しかったの」 「力?」 「美佳と話してると元気がわいてくるのよ。だから、彼女と会えば 、自分の揺らいだ気持ちを抑えることが出来るかも知れないって。 そう思ったの」 「それで?」 「会ってよかったわ。もう今は何の迷いもないから」 ペトラルカがすっきりとした顔で言った。 「どうして私には本当のことを?」 「あなたがこうして私につきまとってるからよ」 「そう。でも、聞いた以上は一緒について行くわよ」 「それでいいの?」 「一緒に戦おうって言ったのはあんたよ」 「あれは美佳の言葉にほだされたの。だって、すごく嬉しいこと言 ってくれるんだもの」 「私はあんたと違って、一度言ったことを変えるつもりはないわ」 「じゃあ、行くのね?」 「ええ」 「わかったわ」 ペトラルカは視線を前に向けると、車のエンジンをかけた。 1 メダリオンホーク 「ここよ」 ペトラルカは車を止めて、助手席のソフィーに言った。 ソフィーは車を降りた。 「ここは−−」 ソフィーが見たのは、大きな校舎であった。 「今年の3月で廃校になった私立高校よ。今はリッガー社の敷地に なっているわ」 ペトラルカも車を降りた。 「ここで奴と落ち合うの?」 「ここじゃないわ。でも、カイルと戦うための武器がここに置いて あるの。ついてきて」 ペトラルカは歩き出した。 ペトラルカは立入禁止の看板がかけてある校門の前に来ると、用 意していた鍵で錠を外し、敷地内に入った。 「武器ってメダリオンホークに通用する武器なんてあるの?」 ペトラルカの後ろを歩いていたソフィーが言った。 「ソフィー、あなたはメダリオンホークが何で出来ているか知って る?」 「え?」 「ボディは硬質でかつ傷を負っても自然に修復し、さらに、あらゆ るものに合体し、変形できる機械人間。こんなものが戦時中のドイ ツの科学力で実現できると思う?」 「私には科学のことはわからないわ。けど、現実にメダリオンホー クが存在する以上、実現できたと思うしかないでしょ」 「ソフィーはメダリオンホークの設計図を見たことがある?」 「ないわ」 「ないのにあれが本物のメダリオンホークだってどうしてわかるの ?」 「それは−−」 「とぼけるのはよしたら。あなたにもわかってるんでしょ。メダリ オンホークの秘密が」 「な、何のことよ」 「ふふふ」 ペトラルカは校舎の入り口の鍵を開け、中に入った。校舎内は真 っ暗で何も見えなかった。 「面白いものを見せてあげるわ」 ペトラルカは持っていた懐中電灯を点けた。 「電灯はつかないの?」 「つくわけないでしょ」 ペトラルカはそのまま近くの階段を上り、校舎の3階へ行った。 「暗闇の中、よく平気で歩けるわね」 「恐いの?」 「恐いわけないでしょ」 ソフィーが向きになる。 「この奥よ」 ペトラルカは通路の一番奥の物理室という札のある部屋の前まで 来た。 「先に入る?」 ペトラルカがからかうように言った。 「後でいいわ」 「恐がりね」 ペトラルカはくすっと笑って、物理室のドアを開けた。 そして、中に入る。ソフィーも後に続いた。 「ろうそくに火をつけるわ」 ペトラルカは机に置いてあった燭台に火をつけた。 部屋がぼんやりと明るくなる。 「こんなところに武器があるの?」 ソフィーは部屋を見回した。 「ええ。ほら、そこに」 ペトラルカは指をさした。 そこには黒い布が全体にかかった高さ2メートルほどの像が置い てある。 「これが武器?」 「最終兵器よ」 「最終兵器って、あなた、まさか」 ソフィーはペトラルカを見た。 「そうよ」 ペトラルカが像の前に歩み寄った。そして、黒い布を強く引っ張 った。 「これは−−」 ソフィーは目を見張った。 それは青いボディのメダリオンホークであった。 「メダリオンホークに対抗して私が作ったメダリオンイーグルよ」 「メダリオンイーグル……どうやってあんたがこれを?」 「私もね、メダリオンホークのことはいろいろ調べたのよ。まずマ イクの親戚にあたるCIAの高官に頼んで、メダリオンホークの設 計者ザイス・ゲッペナーの遺書のコピーを入手したわ。その遺書に はこう書いてあったわよね。『私はついに禁断の兵器の設計に成功 した。あらゆるものに合体、変形可能な機械人間メダリオンホーク だ。これは科学と魔術が融合した史上最強の兵器だ。もしこれが戦 線に投入されれば、これ一体で兵士10万人の働きをするであろう 。しかし、我が帝国の状況は連合国のために極めて最悪だ。もはや 、私の逮捕されるのも時間の問題だろう。私はヤンキーどもに辱め を受けるぐらいなら死を選ぶ。私はナチス第三帝国実現のためにこ の兵器を後継者に託す。我が同士たちよ、必ずや実現させてくれ』 とね。私は最初のこの遺書を見て、ぴんときたのは『科学と魔術の 融合』と言う言葉よ」 「……」 ソフィーは何かを言いたげだったが、黙っていた。 「CIAの資料ではザイス・ゲッペナーという男は有能な科学者で はあったけれど、同時に魔法も科学で体現できるという考えの持ち 主だったそうね。私はそこで恐らく彼はある魔法を見たか知ったか して、このメダリオンホークの設計を思いついたと思うの」 「あんたの言いたいことはわかったわ。メダリオンホークの原型が ファレイヌだったって言うんでしょ」 「原型じゃないわ。メダリオンホークはファレイヌそのものなのよ 」 「何ですって。じゃあ、これは−−」 ソフィーはメダリオンイーグルのボディに触れた。 「私も、最近までメダリオンホーク=ファレイヌだとは考えてもみ なかったわ」 「というと?」 ソフィーはペトラルカを見た。 「彼女の話を聞いたからよ。アンジェラ」 ペトラルカが隣の物理準備室に向かって、声をかけた。 物理準備室のドアが静かに開き、中から一人の女性が姿を現した 。 「元クロムのファレイヌ、アンジェラか」 ソフィーは西洋系の顔立ちをした栗色の長い髪の女性を見た。 「……」 アンジェラは二人の前に来ても、じっと黙っている。 「生きててよかったわ、ずっと捜してたのよ」 ソフィーは嬉しそうに言った。 「……」 「どうしたの、アンジェラ」 「……」 アンジェラはソフィーを見つめたまま、黙っている。 「ソフィー、残念だけど、彼女はしゃべれないのよ」 ペトラルカが言った。 「しゃべれないって?」 「カイルにひどい拷問を受けて、失語症になったの」 「なぜ?ファレイヌを渡さなかったから?」 「それもあるけど、何よりも彼女がメダリオンホークの設計図を持 っていたからよ」 「それ、どういうことよ」 「彼女はね、第2次大戦当時、ザイス・ゲッペナーの恋人だったの よ。そして、メダリオンホークの理論も彼女が提供したの」 「信じられないわ、そんなこと」 「信じる信じないの問題じゃないわ。事実なのよ。私も実は当時、 彼と会っていたから」 ペトラルカは思い出すように言った。 ****** 1925年、ベルリン。 第1次大戦の敗北はドイツ市民の心に大きな傷跡を残したが、街 の通りは少しずつ活気を取り戻しつつあった。 しかし、経済的に言うならば、このワイマール時代はヴェルサイ ユ条約による領土の割譲と天文学的な賠償金の請求により、激しい インフレに見舞われていた。例えを出せば、バター1ポンド3兆マ ルク、靴一足20兆マルクである。 政治の一時的な安定、アメリカ資本による産業復興とは裏腹に国 民生活は疲弊し、その怒りはユダヤ人に向けられようとしていた。 アンジェラはそんなベルリンの街で弁護士事務所の受付をやって いた。 夕方、アンジェラは事務所を出ると、アパートへの道を歩きだし た。 「よお、姉ちゃん」 人通りの少ない路地に来たところでアンジェラは、粗末な衣服を 着たぼさぼさ髪の男たち5人に取り囲まれた。 「通して下さい」 アンジェラは男たちの隙間から逃げようとした。しかし、すぐに 男たちの一人に肩を掴まれ、引き戻される。 「逃げることはねえだろ」 「わたし、急いでるんです」 アンジェラは怯えた目をして、言った。 「てめえ、俺たちが失業者だと思ってバカにしてんだろ」 「そんなことはありません」 アンジェラは首を横に振った。 「おめえ、ユダヤ人のところで働いてんだろ。少し俺たちに金を貸 してくれよ」 「お金なんてありません」 「金がねえだ。俺たちに渡す金はねえってのか、ふざけんな」 男はアンジェラを突き飛ばした。 「姉ちゃん、金がねえんならよ、俺たちとつき合えよ。どうせユダ ヤ人とは毎日、やってんだろ」 男がアンジェラの頬に触れる。 「さわらないで下さい!」 アンジェラが男の手を払った。 「ほお、ユダヤ人とできて、俺たちとはできねえってわけか」 「あ、あなたたちはどうかしてます。ユダヤ人もゲルマン人も同じ ドイツ人じゃないですか」 「うるせぇ、やっちまえ」 男たちがアンジェラに襲いかかった。 「いやぁ」 アンジェラが悲鳴を上げた。 男たちはアンジェラを地面に倒し、両手を押さえる。 「二度とその上品ぶったセリフを言えねえようにしてやるぜ」 男が舌を突き出しながら、アンジェラの唇にキスをしようとした 。 「いやあ」 アンジェラが必死に顔を背ける。 パンッ!! その時、一発の銃声が轟いた。 男たちの一人が頭から血を流して、地面に崩れる。 他の男たちが銃声のした方を見た。 そこには拳銃を手にした女が立っている。 「さっさとその女性を放さないと、全員殺すわよ」 女は鋭い口調で言った。 「ま、待て。わ、わかった」 男たちはアンジェラから離れた。 「そこへ並びなさい」 女の言葉に男たちが横に並ぶ。 「全員生きてる価値はないわ」 女はそう言うやいなや、拳銃を発砲し、4人の男たちを皆殺しに した。 アンジェラはそれを呆然と見ている。 女は拳銃をホルスターにしまい、アンジェラのもとに歩み寄った 。 「お、お願い、殺さないで」 アンジェラは怯えた顔で後ずさった。 「殺しはしないわ。覚えてる?私はペトラルカよ」 「ペトラルカ……」 「あなたに会いにここまで来たのよ」 ペトラルカはアンジェラに手を差し出した。 「……」 アンジェラはペトラルカの手を借りて、立ち上がった。 「なぜ魔法を使わなかったの。あなたの魔法弾なら、あんな奴ら一 発でしょ」 「わたしは人間として生きることにしたの」 「人間として生きる?バカじゃないの。私たちは不死身なのよ」 「わかってるわ。でも、人間として生きたいの。だから、ほっとい て」 「そうはいかないわ。エリナの真の所有者を見つけたんだ。フェリ カが転生の儀式を行う前に所有者を始末しなきゃ」 「もうそんなのどうでもいいわ。あなた、一人でやって」 「アンジェラ、エリナが転生してもいいの?」 「……」 アンジェラはペトラルカの言葉を無視して歩き出した。 ペトラルカはムッとして、アンジェラの後を追う。 アンジェラは古いアパートの前で止まった。 「わたし、好きな人がいるの」 アンジェラはペトラルカの方を向いて、言った。 「恋愛なんかファレイヌには無意味だわ。どんなに愛したって、相 手の方が先に死ぬのよ」 「……」 アンジェラはアパートに入った。そして、階段を上って、2階の 奥の部屋へ行く。 「ただいま」 アンジェラは部屋に入ると、大声で言った。 「おかえり!」 隣の部屋から男の声がした。 「お友達を連れてきたの」 アンジェラはペトラルカをちらりと見て、言った。 「へえ、珍しいな。ちょっと待ってくれ、すぐに行くから」 と男の返事。 「今のが彼氏?」 「ええ。彼にはさっきのことは黙ってて」 「いいわ」 「お茶を入れるくるから、そこに座ってて」 「わかったわ」 ペトラルカは近くの椅子に座った。 しばらくして、隣の部屋から白衣を着た若い男が現れた。 「やあ、君がアンジェラの友達だね」 男はペトラルカを見て、笑顔で言った。「僕はザイスだ」 「私はペトラルカよ」 二人は握手を交わした。 「彼女が友達を連れてくるなんて初めてだよ」 ザイスは椅子に座った。「彼女は?」 「お茶を入れて来るって」 「ああ、そう」 少しして、アンジェラがDKから紅茶を入れて戻ってきた。 「どうぞ」 アンジェラはテーブルにティーカップを置いた。 「あなた、アンジェラの彼氏なんですってね」 「ペトラルカ−−」 ペトラルカの言葉にアンジェラは顔を真っ赤にした。 「ああ、そうだよ。彼女は僕の最高のパートナーだ」 「つきあって、長いの?」 「もう3年ぐらいかな。彼女とは大学の図書館で知り合ったんだ。 上品で優しくて、勉強熱心で、僕にはこの上ない女性だよ」 「どうして結婚しないの?」 「ペトラルカ、よけいなことを−−」 「いいんだよ、アンジェラ。僕も彼女とはすぐにでも結婚したいさ 。でも、お金がないんだ」 「お金がなくちゃ、結婚できないの?」 「今の僕の生活は彼女の働きで成り立っているんだ。僕としては、 彼女を養えるようになってから結婚したい」 「あなたの服装を見ると、医者か科学者みたいだけど、何の仕事を しているの?」 「僕は科学者さ。今、錬金術の研究をしている?」 「錬金術?」 ペトラルカは眉をそばめた。 「銀や銅から金を作り出す研究さ。この研究が完成したら、僕たち は一躍大金持ちになれる」 「本気で言ってるの?錬金術なんてインチキよ」 「インチキ?冗談じゃない。錬金術はロバート・フラッドやフラン シス・ベイコンも研究していた学問なんだ」 「バカらしいわね。これじゃあ、アンジェラは永久に幸せになれな いわ」 「失礼だな、君は」 「ふん。私は本当のことを言ってるのよ」 ペトラルカは強い口調で言った。 ****** 「どうしてそのことを今まで黙っていたのよ」 ソフィーが驚いた様子で聞いた。 「私だって、彼があの時のザイスだと思い出すのには時間がかかっ たのよ。以前、あなたと私と美佳でカイルを追いつめた時があった でしょ。あの時でもまだ知らなかったわ。実は、あの後、帰国して から、マイクの雇っていた探偵が彼女を見つけだしてくれたの。ア ンジェラはフランスのある修道院にいたわ。カイルに拷問され、フ ァレイヌと設計図の場所を吐かされたんだけど、カイルが設計図を 取りに行ってる隙に命からがら脱走することができたそうよ」 「そう……」 ソフィーは気の毒な目でアンジェラを見た。 「しかし、錬金術に凝っていたザイスがどうして兵器開発に取り組 んだの?」 「アンジェラの話では、自分の好きな研究をさせてやるとナチス幹 部に誘われてナチスに入党したそうよ。そこで化学兵器の担当にな ると、彼は錬金術から新しい兵器作りにのめり込むようになったの 。けど、第2次大戦でドイツの戦局が悪くなるにつれ、彼はその責 任が兵器を開発できない自分にあると思いこみ、ノイローゼになっ てしまったの。アンジェラはそんな彼を見ていられなくなって、自 分の正体を明かし、ファレイヌのことを話したのよ。そして、それ がきっかけで出来たのがメダリオンホークというわけ」 「メダリオンホークの出来たきっかけはわかったけど、どうしてア ンジェラが設計図を持っているの?ザイスの遺書には後継者に託す と書かれていたのよ」 「あれは嘘の遺書なの」 「嘘の遺書?」 「ザイスはメダリオンホークの危険性を感じ取っていたから、設計 はしたものの、製作はしなかったわ。そして、戦後、連合軍が自分 の研究を狙ってくると思い、アンジェラに設計図を預ける一方で、 わざと狂信的な文面の遺書を書いて、アンジェラに追求が及ばない ようにしたの。最もザイスが自殺した後、人間のアンジェラも自殺 したんだけどね」 「……」 アンジェラはじっと俯いている。 「これで大体わかったわ。後はファレイヌからどうやってメダリオ ンホークが出来るのかを教えて欲しいわね」 「作り方は教えられないわ。アンジェラとの約束だから。ただ簡単 に言えば、四つのファレイヌからメダリオンホークのコアであるメ ダリオンを作り、そのメダリオンによってメダリオンホークを制御 するのよ」 「どういうこと?」 「つまり、メダリオンがホークという物体を形成させているのよ。 わかる?」 「もう少しうまく説明して欲しいわ?」 「そうね、要はメダリオンが破壊されれば、ここにいるメダリオン ホークは形を失って、ただの金属に戻るのよ」 「金属を遠隔操作で自由を操ってるってこと?」 「早い話がそう言うこと」 「と言うことは、ペトラルカはこのメダリオンイーグルを作るのに 4つのファレイヌを使ったの?」 「ええ。私の青銅、エリナの持っていた銅、ナタリーの持っていた 水晶、愛子の持っていたコバルトのファレイヌを使わせてもらった わ」 「ちょっと待って」 ソフィーが急に思い出したように言った。「もしかして、カイル がファレイヌを集めているのはメダリオンホークを作るためってこ と?」 「多分ね。奴はもう人間になってしまったんだし、ファレイヌを普 通に集めたところでバフォメットにはもう戻れないわ」 「ファレイヌは全部で13あるから、作ろうと思えば後一体メダリ オンホークが作れるわね」 「こっちは美佳とあなたとマリーナを入れても3丁。あちらは2丁 持ってるわ。現時点では両方とも作るのは無理ね」 「マリーナもここにいるの?」 「彼女とは連絡が取れるところにいるわ」 「メダリオンイーグルか」 ソフィーはメダリオンイーグルを見つめた。「ねえ、これを私に 使わせてくれない?」 「駄目よ。使わせるってことはメダリオンイーグルの秘密を教える ことになるわ」 「ケチね」 「ケチで結構。とにかく、戦力的には五分と五分よ。後は運次第ね 」 「……」 アンジェラはペトラルカを見た。 「どうかした?」 ペトラルカの問いかけにアンジェラはペトラルカの手を取り、手 のひらに字を書いた。「何かが来る?」 「……」 アンジェラはうなずいた。 「まさかカイルが?」 「静かに」 ペトラルカは指を口に当てた。 物理室が静かになる。 廊下から微かな足音が聞こえてくる。 その音は物理室に近づいている。 ソフィーはファレイヌのペンダントをリヴォルバーに変え、臨戦 態勢に入る。 「アンジェラ、奥へ行ってなさい」 ペトラルカは言った。 アンジェラは部屋の奥へ行き、机の陰に隠れた。 ペトラルカは近くにあった鉄の棒を手にし、ドアの横の壁に背中 をつけた。 靴音が物理室の前で止まった。 ドアのノブが右に回る。 ペトラルカとソフィーは息を飲んだ。 ドアが静かに開く。 「やあっ!!」 ペトラルカが何者かが部屋に入ると同時に鉄の棒を振り下ろしに かかった。 「!!!」 だが、中に入ってきた人物を見て、ペトラルカはその鉄棒をその 人影の頭に当たる直前で止めた。 「美佳−−」 「び、びっくりした、脅かさないでよ」 美佳は鉄棒を目の前にして、顔をひきつらせていた。 「それはこっちのセリフよ。なぜここへ来たの?」 ペトラルカは鉄の棒を降ろした。 「ちょっと気になることがあったから」 「気になること?」 「ペトラルカはカイルと落ち合う時間と場所を教えてくれなかった でしょ」 「それは後で連絡するって言ったでしょ」 「それはそうなんだけど、あのまま別れちゃったら、もう会えない んじゃないかって気がして。悪いとは思ったんだけど、バイクで尾 行したのよ」 「それにしちゃ、遅かったわね」 「ははは、それがさ、途中でペトラルカの車を見失っちゃって。あ ちこち探し回って、やっとこの学校の門の前で車を見つけたのよ」 「全く脅かしやがって」 ソフィーはホッと息をついた。 「どうして物理室にいるってわかったの?」 「校舎の窓から明かりが漏れてたのよ。それより、こんなところで 何をやってるの?」 美佳が室内を見回す。 「あれ、これは−−」 美佳はメダリオンイーグルを見て、近寄ろうとした。 「待ちなさい」 ペトラルカは美佳の前に鉄の棒を出して、止めた。 「何?」 「ファレイヌを見せて」 「え?」 「あなたが美佳なら黄金のファレイヌを持ってるでしょ」 「いいわよ」 美佳は服の中からペンダントを出そうとした。「あれ、ない。ど こにいっちゃったんだろ」 美佳は服やジーンズのポケットをあちこち探した。「おかしいわ ……」 「……」 ペトラルカがじっと美佳を見る。 「な、なに、私を疑ってるの?」 「ソフィー、美佳に銃を向けてて。彼女のところに電話をかけてみ るわ」 ペトラルカはブルゾンのポケットから携帯電話を取り出し、早見 の家の電話番号を押した。 『はい、早見ですけど』 少ししてエリナの声が電話口から聞こえた。 「ペトラルカよ」 『どうしたんですか』 「そこに美佳、いる?」 『ちょっと待って下さい』 それから、1分後。 『美佳だけど。ペトラルカ、どうしたの、さっき別れたばかりなの に』 「もういいわ、おやすみ」 『何よ、おやすみって−−』 ペトラルカは電話を切った。 「美佳は家にいたわよ」 「……」 ペトラルカの目の前にいる美佳は黙り込んだ。 「聞かなくてもわかるけど、あなたの正体を教えてもらいましょう か」 「ふふふ」 美佳は後ずさった。「おまえらがそんなに疑り深いとはな。意外 だったよ」 「貴様はカイルだな!」 ソフィーが銃を構えた。 「だとしたら、どうする?」 「殺す」 ソフィーはトリガーを引いた。 グォーン!! ソフィーの銃が放った火炎弾が美佳に命中する。 美佳の体が一瞬にして燃え上がった。 「あなたも下がってて。ここからは私がやるわ」 ペトラルカは鉄の棒を捨てて、ソフィーに言った。 「こいつはゆうきの仇だ。私がやる」 「ふふふ、おまえらまとめて、相手にしてやるよ」 炎の中で美佳の体が全身黒くなり、続いて体が変形した。 そして、次の瞬間には炎が消え、メダリオンホークとなった。 「メダリオンイーグル メタモルフォーズ アーマー!」 ペトラルカが叫んだ。 その声に反応して、今まで銅像のように動かなかったメダリオン イーグルが両手両足、胴、頭部の6体に分離し、ペトラルカの体に 装着される。 「やはり貴様もメダリオンホークを−−」 メダリオンホークの目の部分がシャッターのように上に上がり、 中からカイルの顔が現れた。 「相変わらず汚い真似ばかりするわね、あなたは」 メダリオンアーマーを身にまとったペトラルカが言った。 「ふん、戦いとは勝てばいいのだ」 「なぜゆうきを殺したの?」 「貴様の居場所を探すためさ。ゆうきを殺せば、おまえのことだか ら責任を感じて美佳たちの前に必ず姿を現すと思ったからな」 「くっ、そんなことのためにゆうきを。そんなことしなくたって、 今夜、会えただろうが」 メダリオンイーグルがメダリオンホークに殴りかかった。 「ぐおっ」 ホークは吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる。 「貴様、人間の分際でこの俺を殴ったなぁ」 ホークは怒りに燃え、反撃に出た。 メダリオンアーマーを身にまとった両者の殴り合いが展開される 。 「こんなんじゃ、私の出番どこじゃないわ」 ソフィーは二人の激しい戦いに愕然とした。 物理室は激しく揺れながら、ぼろぼろと天井が崩れている。 「アンジェラ、行くよ」 ソフィーはアンジェラの手を引っ張って、物理室を出た。 「やあっ」 イーグルがホークに蹴りを食らわすと、ホークは窓を突き破って 外へ吹っ飛ばされた。イーグルはすぐにそれを追って、外へ出る。 「今まで殺された仲間たちの恨み、晴らしてやるわ」 イーグルは空中でホークの腕を掴むと、地面に向けて思いっきり 投げ降ろした。 「うおおおっ」 ホークはその勢いで地面に激突する。 そこをイーグルはすかさず空中からホークの体にニードロップを 落とす。 「ぐおっ」 ホークは呻いた。 「驚いたわ。同じメダリオンホークだからパワーは互角のはずなの に、ペトラルカの方がカイルを圧倒してる」 校舎から外へ出たソフィーは二人の戦いを見て、思わず呟いた。 「……」 アンジェラはソフィーの腕を掴んだまま、戦いを見つめている。 「なぜだ」 ホークはよろよろと立ち上がった。 「考える暇はないわよ」 イーグルはホークが立ち上がったところを回し蹴りで再び倒した 。 「ぐっ」 「さあ、かかってきたら。世界を征服したいんでしょ」 「くそぉ」 ホークは起き上がった。 しかし、そこへイーグルの蹴りがホークの腹に炸裂する。 「うがぁ」 ホークの中のカイルは血を吐いた。 「だらしないわね」 「こんなバカな。パワーは同じなのに」 カイルは動揺した。 「どうやら勝てそうね」 ソフィーが言った。 「……」 しかし、アンジェラの顔は不安に満ちていた。 アンジェラはソフィーの腕を引っ張った。 「どうしたの?」 「……」 アンジェラはソフィーの手のひらに字を書いた。 「戦いをやめさせて?心配しなくても、もうすぐ戦いは終わるわ」 「……」 アンジェラは首を横に振った。 「何よ」 アンジェラはソフィーの手のひらに再び字を書いた。 「これ以上の戦いは危険……どういうこと?」 ソフィーにはアンジェラの考えが理解できなかった。 「とあっーー」 イーグルはホークにアッパーカットを食らわせた。 ホークは空に舞い上がると、後は荷物にように地面に落ちる。 既にホークには反撃する力はなかった。 イーグルがホークに歩み寄る。 「ま、待て。俺の負けだ」 ホークが右手を前に出した。 「だったら、アーマーを外しなさい」 「わかった。リムーブ アーマー」 カイルの声でメダリオンアーマーがカイルから外れ、少し離れた ところでアーマーが合体し、メダリオンホークになる。 「メダリオンを出して」 「わかった……」 カイルは服の中に手を入れ、黒いメダリオンを出した。 イーグルはメダリオンをカイルの手から受け取る。 「こんなものがあるから」 イーグルはメダリオンは握りつぶした。 すると、メダリオンホークが突然、砂のように崩れ始め、金属粉 の山になった。 「ペトラルカ」 ソフィーとアンジェラがイーグルのもとに駆けつけた。 「やったわね。これで全てが終わったわ」 イーグルの中のペトラルカがぽつりと呟いた。 「これでやっと私たちもファレイヌの呪縛から解放されるわね」 ソフィーも息をついた。 「!!!」 アンジェラが慌てたようにソフィーの背中を叩いた。 「どうしたの?」 アンジェラはカイルの方を必死に指さしている。 「これは−−」 ソフィーは目を見張った。 カイルは精気を吸い取られたように骨と皮だけのミイラになって いたのだ。 「どうなってるんだ」 ソフィーはカイルの顔をのぞき込んだ。 既にカイルには息がなかった。 「哀れだな」 ソフィーは立ち上がった。「さあ、ペトラルカ、美佳のところへ 戻ろうぜ。カイルが死んだことを知らせてやらないとな」 「……」 ペトラルカは黙り込んでいる。 「何、黙ってんの?もうアーマーを外したら?」 「……ううっ、頭の中で何かの声が聞こえる」 「え?」 「……私は史上最強の兵器……目の前の敵を倒す……ああ、駄目よ 」 「ペトラルカ、どうしたの?」 「ウイング!」 ペトラルカの声でメダリオンイーグルの背中から翼が飛び出した 。 「ちょっとどうしたのよ」 「……」 イーグルが空を飛んだ。 イーグルの姿はすぐに空の闇の中に消えてしまう。 「ペトラルカの奴、どうしたのかしら?」 不思議に思うソフィーをよそにアンジェラの顔は青ざめていた。 続く