ファレイヌ2 第29話「挑戦」中編 6 ファレイヌ・ド・キュイーヴル D警察署を出た美佳は、声の仕事先の録音スタジオ『パドック』 でエリナと落ち合った。 「今朝のテレビ、観ました?」 控え室でエリナは美佳に訊いた。 「警察に行ってたから、観てる暇なんてなかったわ」 「赤宮啓吾さんの死体が見つかったそうです」 「赤宮−−赤宮って、あの私を付け狙っていた探偵の赤宮?」 「おそらく。東京湾に水死体となって浮いているのを船員に発見さ れたそうです。死因は射殺ですって」 「そう……きっと、仲間に殺されたのね」 美佳は大きくため息を付いた。「あの時、捕まえておけば、助け られたかもしれないなぁ」 「過ぎたことを悔やんでも仕方ありませんわ。それより、鷹森とい う男のこと、何かわかりました?」 「ええ」 美佳は早見から聞いたことをエリナに話した。 「そんな恐ろしい殺し屋が美佳さんを狙ってるんですか」 エリナは美佳の話で少し表情を曇らせた。「一体、どうするんで すか」 「早見には、銃を奴に渡して、遠くへ逃げろって言われたわ」 「無責任なこと言うんですね。警察に守ってもらうわけにはいかな いんですか」 「無理ね。警察に黄金銃のこと、どう説明するのよ」 「それもそうですね」 「私は奴と一戦交えることに決めたわ。静岡の時みたいにまた狙わ れるかもしれないから、エリナも覚悟しててね」 「わたくしはいつでも覚悟は出来てますわ」 「それならいいけど。念のためにこれ、もってなさいよ」 美佳はリュックサックを下ろして、中から銅のクロス・ペンダン トを取り出した。 「これは?」 「銅のファレイヌよ」 「こんなもの、いつから持ってるんですか。確かこれは水島幸恵さ んが持っていたはずじゃ−−」 「以前、エレクトラと戦って、デーモンロッドを奪い取ったことが あったんだけど、そのデーモンロッドの骸骨の中に入っていたの」 「どうして今までそのことをわたくしに教えてくれなかったんです か」 「言うのを忘れてたのよ」 美佳はエリナに銅のクロス・ペンダントを渡した。 「でも、これ、わたくしに使えるんでしょうか」 エリナは手の上のクロス・ペンダントを見て、言った。 「私のファレイヌが使えるんだもの。同じ要領でやれば大丈夫よ」 「そうですね」 エリナは目をつむると、ペンダントを握りしめ、精神を集中した 。 すると、ペンダントがほのかに光りだし、リヴォルバーに変化し た。 「出来ましたわ」 エリナは嬉しそうに言った。 「さすが、元ファレイヌね。でも、魔法弾が撃てるのは連続で二回 だから、まさかの時以外は使っちゃ駄目よ」 「そんなこと、美佳さんに言われなくたってわかってますわ。この ファレイヌ・ド・キュイーヴル、大事に使わせてもらいますわ」 「コッパー・ファレイヌの方がかっこよくない?」 「でも、ファレイヌは一応フランス語ですわ」 「まあ、名前はどうでもいいけどね」 その時、スタッフの男性が控え室に入ってきた。 「椎野さん、そろそろスタジオに来て下さい」 「はい、すぐ行きます。それじゃあ、また後でね」 美佳はエリナに手を振って、控え室を出ていった。 7 落下 それから2時間後、美佳はアニメ番組の声の収録を終えて、スタ ジオを出た。 廊下ではエリナが待っていた。 「お疲れさま」 「どうも」 美佳は元気なく言った。 美佳は少し疲れている様子だった。 「今日は声の調子でも悪かったんですか」 「ううん、そうじゃないの。何となく胸騒ぎがしてね、収録の間、 集中できなかったのよ」 「鷹森のことですか」 「エリナの方は待っている間、何もなかった?」 「ええ」 「それならいいけど−−」 美佳は浮かない顔をして、言った。 美佳とエリナはエレベーターの方へ歩いていった。エレベーター の前には既に他の声優やスタッフが数名いた。番組収録のスタジオ は6階にあるのである。 ポーン エレベーターが到着し、扉が開いた。 降りる人は一人もいなかったので、エレベーターを待っていた人 たちはすぐに乗り込んだ。 美佳とエリナは一番最後に乗った。 そして、エリナが1階のボタンを押すと、エレベーターの扉がゆ っくりと閉まった。 元々広いエレベーターではないのでエレベーター内はかなり混雑 している。普段よくしゃべっている人でも、エレベーターの中では 大体無言になり、目のやり場もないので一様に扉の上の階数表示ラ ンプを見る。 しかし、この時はなぜか階数表示ランプがいつまでたっても6階 から動かなかった。 エリナはまわりの視線を感じて、もう一度階数表示ボタンの1階 を押すが、エレベーターは動き出さない。 「エリナ、どうしたの?」 美佳が訊いた。 「ボタンを押してるんですけど、動かないんですよ」 エリナが困った顔で言う。 「どれ」 美佳が代わりにボタンを押してみた。しかし、エレベーターは動 かない。 「警備員を呼んでみたら?」 「ええ」 エリナは警報ボタンを連続で押した。 『どうしました?』 マイクから警備員の声が聞こえた。 「エレベーターが動かないんです」 『おかしいですね。開閉ボタンは使えますか』 「ちょっと待って下さい」 エリナは<開>のボタンを押した。だが、今度は扉も開かない。 「開きません」 『わかりました。調べてみますので、そのままエレベーターのボタ ンには手を触れないでお待ちください』 警備員との通信が切れた。 「どう?」 「警備員の方が調べて下さるそうです」 「ねえ、何かあったの?」 エリナに他の人が尋ねた。 「エレベーターが故障してるみたいなんです」 エリナの答えにエレベーター内でざわめきが起こった。 「おいおい、エレベーターに閉じこめられちゃったのか。このまま 出られないなんてことないだろうな」 「そんなことになったら、次の仕事に間に合わないわ」 「まいったなぁ」 「こんな狭いところ、いつまでもいられないよ」 エレベーター内は無言の場からすっかり騒々しくなってしまった 。 「さっきまで動いていたのに、どういうことなんでしょう」 エリナは少し不安げに言った。 「さあね。まさか鷹森の奴が仕組んだってことは−−」 美佳がそう言いかけた時だった。 エレベーターの頭上で激しい爆発音が起こった。 「なに?」 乗員は一斉に頭上を見た。 その瞬間、ガクンとエレベーターが振動すると、突然エレベータ ーが落下を始めた。 「きゃああああ」 乗員の悲鳴が上がった。 美佳はとっさにファレイヌのペンダントを鏃の付いたリストバン ドに変形させた。美佳が腕に装着されたリストバンドを天井に向け ると、金色のワイヤーの付いた鏃が発射され、天井に突き刺さった 。 美佳はエリナを左手で抱き抱え、ワイヤーを巻き戻す。 次の瞬間、エレベーターが地面に激突し、立っていた乗員は床に 叩きつけられた。 美佳とエリナは間一髪、エレベーターの天井にワイヤーでぶら下 がり、無事だった。 「何てこと……」 美佳はエリナを抱えながら、地面に降りた。 「大丈夫ですか」 エリナは床に倒れている乗員たちに声をかけた。乗員たちは皆意 識はあるものの、呻くのがやっとで動くことすら出来ない。 「今の爆発音、事故じゃないわ」 美佳は呟いた。 「え?」 エリナが美佳を見る。 「鷹森よ、間違いない、あいつの仕業だわ」 美佳は怒りのこもった口調で言った。 8 意外な再会 エレベーター落下事件は幸いにして死者は出なかった。しかし、 美佳とエリナ以外の7名は大なり小なり怪我を負っていた。 美佳とエリナは1時間あまり現場での警察の事情聴取に付き合わ された。 「あなたたち、大丈夫だったの?」 現場にいた美佳たちの前に牧田奈緒美がやってきた。 奈緒美は警視庁捜査一課の警部である。 「運良くね」 美佳が答えた。 「びっくりしたわよ、あんたたちがエレベーターの転落事故に巻き 込まれたって聞いた時は」 「事故じゃないわ、事件よ。エレベーターが落ちる前に上の方で爆 弾の爆発音がしたんだから」 「爆発って……本当なの、それ?」 「本当よ」 「でも、爆弾なんて……。エレベーターの電気回路がショートして 爆発したってことは?」 「そんな音じゃないわ。間違いなく爆弾の爆発する音よ」 「美佳がそう言うと説得力あるわね。けど、あんたたちだけよく無 事だったわね」 「ファレイヌ様々よ」 美佳はファレイヌのペンダントを見せた。 「なるほど。しかし、爆弾となると大変なことになるわよ。マスコ ミも騒ぎだすし」 「マスコミなんてどうでもいいでしょう。それより、犯人、捜す気 があるんなら、鷹森史郎って男を調べてみて」 「鷹森……聞いたことないわね」 「だったら、調べてみて。私たちは行くから」 「何よ、心配して来てあげたのに」 「私たちも忙しいの。じゃあね」 美佳はそう言うと、エリナの手を引っ張って、さっさとビルを出 てしまった。 「相変わらず、せっかちなのね」 奈緒美はふうっとため息を付いた。 「美佳さん、奈緒美さんに話さなくてよかったんですか」 ビルを出てから、エリナは美佳に言った。 「鷹森のことは話したわよ」 「名前だけじゃないですか」 「うるさいわね、それだけ話せば充分よ」 美佳は事件の後からずっと苛立っている様子だった。 道を歩く早さも普段の二倍でエリナも付いていくのがやっとであ る。 「これからどこへ行くんですか」 「黒崎邸に行くのよ」 「黒崎邸に?」 「鷹森を雇ってるのは奴でしょ。だったら、私が直接、黒崎を締め 上げて、鷹森の居場所を吐かせてやるわ」 「そんなの無茶ですよ」 「無茶は承知よ。でも、急がなきゃ、奴がまた何するかわからない じゃない」 「それはそうですけど」 美佳は鷹森に対する怒りですっかり冷静さを失っている。 「美佳さん、少し落ちついて」 エリナは立ち止まって美佳の手を逆に引っ張った。 「落ちついてなんかいられないわよ」 美佳も向きになってエリナの手を引っ張り返す。 「落ちつかなきゃ相手の思うつぼですわ」 「あんな奴、落ちつかなくたって、勝てるわよ」 「美佳さん!」 エリナは美佳の手を強引に振り払った。 美佳が後ろを振り返る。 「わたくしたちとは無関係の人を巻き添えにされて、怒る気持ちは 分かりますけど、今は落ちついて相手の出方を待ちましょうよ」 「出方なんか待ってたら、手遅れになるわ。エリナ、止めても無駄 よ。私の怒りは頂点に達してるんだから」 美佳はすっかり意地になっていた。 「ハーイ、お二人さん、町中で何を喧嘩してるネ」 その時、学生服を着た高校生ぐらいの少女が美佳たちに声をかけ てきた。 「?」 美佳とエリナはその少女を見て、不思議そうな顔をした。 「エリナ、知り合い?」 「いいえ。美佳さんの方こそ」 「私だって知らないわ」 などと顔を見合わせて話し合っているうちにその少女が二人のと ころへやってきた。 「どうしたの、変な顔して」 少女は言った。 少女はごく普通のボブカットで、若干子供っぽさの残る顔立ち、 ぱっちりとした目をしていた。髪の色は艶のある黒である。 「あなた、誰?」 美佳が尋ねた。 「ワタシは深沢ゆうき。と言ってもわからないネ。元水晶のファレ イヌ、ナタリー・ロッソ。これでわかる?」 少女は笑顔で言った。 「ナ、ナタリー。生きてたんだ……」 美佳は信じられないと言うような面もちで言った。 「嬉しい?」 「嬉しいよ。一緒に戦った仲間だもん。ずっと心配してたんだから 」 「ミカ、バフォメットを倒してくれてありがとネ。おかげで人間に なることが出来たネ」「あんた、しゃべり方。全然変わってないね 」 「そりゃあ、そうヨ。変わったのは外見だけで中身は同じだもの」 「それにしても、こんなところで会えるなんて。よく私の顔、覚え てたわね」 「ミカはかわいいから、すぐにわかったヨ」 「か、かわいい。そうかな」 美佳は照れる。 「社交辞令ネ」 「あのねぇ……まあ、でも、生きていてよかった」 「ところで、ミカの隣にいるカノジョ、もしかしてエリナ?」 「ええ、そうよ」 「やっぱりぃ。何となくエリナって感じがしたネ。久しぶり、エリ ナ」 ゆうきはエリナの前に手を差しだした。 「久しぶり」 エリナはゆうきと握手をかわした。 「私とは、してくれないの?」 美佳が不服そうに言った。 「ごめん、ごめん、忘れてたネ」 ゆうきは美佳とも握手をかわした。 「ねえ、ナタリー、そのブレザー、着てるってことは、今、高校生 ?」 美佳がふとゆうきの制服を見て、尋ねた。 「チッ、チッ、チッ。ナタリーの名前はもう捨てたネ。これからは 深沢ゆうきの名前を使って欲しいネ」 「もうすっかり日本人なのね」 「まあネ。ワタシは、今、高校1年生ネ。日本の試験はホント、難 しくて、高校入るのも大変だったネ」 「試験に限らず、学生生活だって大変でしょ」 「そうでもないネ。学生生活は楽しいヨ。今まで経験しなかったこ とばかりだから。やっぱり家族や友達といられるは最高ネ」 ゆうきは嬉しそうに言った。 「そう……ファレイヌの時は孤独だったものね……」 美佳は胸が熱くなった。 「それより、エリナ、さっきは何で喧嘩してたネ?」 「喧嘩なんかしてませんわ。ちょっとした意見に食い違いです」 「ふうん。いくら夫婦でも喧嘩はしない方がいいヨ」 「誰が夫婦よ」 美佳が向きになった。 「冗談、冗談。それじゃあ、ワタシ、友達待たせてるから、失礼す るネ。何か用があったら、ここへ連絡して」 ゆうきは手帳にさらさらと電話番号を書いて、そのページを破り 、美佳に渡した。 「グッバーイ」 ゆうきはそう言って、人混みの方へ走っていった。 美佳たちはゆうきの姿が見えなくなるまで見送っていた。 「これではっきりしましたね」 エリナが言った。 「はっきりって、何が?」 「バフォメットの死をきっかけにほとんどのファレイヌが人間に転 生したってことですわ」 「そうね。エリナを入れてペティー、ソフィー、ナタリーと4人も 確認できたんだもん。他のファレイヌもきっと人間になってるに違 いないよ」 「でも、そうなると、マリーナやミレーユも人間になってるんでし ょうか」 「ミレーユは元が人間じゃないからわからないけど、マリーナは転 生してるんじゃないかしら。私、あの二人には会いたくないわね」 「同感です」 「さてと−−あれ、そういえば、私、さっき、何しようとしてたん だっけ−−」 美佳は少し考え込んで「そうだわ。黒崎の家に行くんだった」 「だから、美佳さん、それは無茶ですって」 「わかったわよ」 「え?」 「今回だけはエリナの言う通りするわ。ゆうきと会って、怒りも収 まっちゃったし」 「よかった。うちへ帰るんですね」 「その前に何か食べに行きましょ。お腹、減っちゃった」 美佳は腹を押さえて、言った。 「お待たせ」 ゆうきはハンバーガーショップでコーヒーを飲んでいた女のもと に息を切らしてやってきた。 「どう久しぶりの再会は?」 女は顔を上げ、ゆうきを見た。 「よかったヨ」 ゆうきは女の向かいの席に座った。 「変に思われなかった?」 「大丈夫ネ。うまく偶然を装うことが出来たヨ。それより、走って きて喉が渇いちゃった、何か買ってくるネ」 ゆうきは一度席を立って、カウンターに行った。 そして、数分して、シェイクとフライドポテトを持って、戻って きた。 「ソフィーも食べていいヨ」 「こういうものは太るから遠慮するわ」 女−−ソフィーはやんわりと断った。 「スタイルより食欲だと思うんだけどナ」 ゆうきはポテトを食べた。 「あなたは子供だから、わからないのよ」 「むぅ」 ゆうきはふくれた。 「ところで、ソフィーはどうして美佳に会わなかったの?」 「私は前にあったわ」 「でも、ちゃんと話してないんでしょ」 「私はそういうのは苦手なのよ。それにもともと美佳を仲間とは思 っていないしね」 「その割には何かと気にかけてるネ」 「仲間とは思ってないけど、彼女は役に立つわ。ただそれだけよ」 「ふうん。乙女心は複雑なのネ」 「何をわけの分からないこと言ってるの。本題に入るわよ」 「うん」 「去年辺りからカイルがファレイヌ狩りを始めたことは昨日、話し たわね」 「うん」 「既にブリジッタとローゼが殺され、黒金のファレイヌとニッケル のファレイヌがカイルの手にあるわ。そして、美佳が金のファレイ ヌ、ペティーが青銅のファレイヌ、私が亜鉛のファレイヌ、あなた が水晶のファレイヌを持っているわけだから、後7つのファレイヌ のありかを見つけだす必要があるわ」 「銅のファレイヌならエリナが持ってたネ」 「本当に?」 「エリナがペンダントにして首にかけてたヨ。あれは間違いなくフ ァレイヌね」 「とすると、後6つのファレイヌのありかね」 「後の6人って言うと、マリーナ、セリン、ミレーユ、エミリ、ル クレチアに、アンジェラね」 「セリンとエミリはフォルス・ノワールの幹部だから、居場所はは っきりしてるわね」 「ミレーユはバフォメットだから、転生してるかはわからないネ」 「マリーナとルクレチアに関しては、以前ゼーテースによってメル クリッサの壺に封印されてたようだけど、私たちも以前は封じ込め られていたわけだから、まだ壺に封印されていると言うことはない わね」 「アンジェラは200年以上、会ってないから、どんな人間かも覚 えてないネ」 「私も随分彼女には会ってないわ」 「そうしてみると、エミリとセリン以外は連絡が取れないってこと ネ」 「今のところはな。だが、どうあってもカイルより早く見つけだす 必要がある」 「カイルってどんな人ネ?そんなに恐い人?」 「カイル・リッガー。あの男はアメリカの食品会社リッガー・フー ズの社長アドルフ・リッガーの一人息子よ」 「そんな人がどうしてファレイヌを狙うネ?」 「さあ。ただ一つ言えるのは、カイルはファレイヌを全て集めれば 、この世を支配できると思っているわ。そして、目的を達成するた めに奴は最終兵器まで蘇らせてしまった」 「最終兵器?」 「メダリオン・ホークよ。この世に存在するものになら何にでも合 体できる人造人間」 「合体するのが恐いの?」 「そりゃそうよ。最新の戦闘機や戦車と合体してみなさい。たちま ち、手が付けられなくなるわ」 「それよりも地球と合体した方が早いネ」 「……。とにかく、カイルの陰謀を阻止するためにも私たちが先に ファレイヌを集める必要があるわ」 「集めると言っても、どうやって?みんな、きっと渡さないと思う ネ」 「そこであなたには美佳たちから二つのファレイヌを奪って欲しい の?」 「ワタシが?」 「あなたに対して美佳やエリナは気を許してるわ。ファレイヌを持 ち出すことは不可能ではないはずよ」 「そんな。ワタシにはそんなこと出来ないネ」 「なぜ?」 「だって、友達だもの」 「友達?高々、一度、一緒に戦っただけでしょ。私たちファレイヌ の友情とどっちが大事なの?」 「ワタシはミカが大好きだヨ。ミカは相手のことを自分のことのよ うに思ってくれるもの」 「呆れたわね。ペトラルカといい、あなたといい、どうかしてるわ 」 「ソフィー、そんなこと言わないでミカと協力するネ。ミカはきっ と力になってくれるヨ」 「わかったわ」 「え?」 「金と銅のファレイヌは私が美佳から頂くわ」 「ミカと戦うの?」 「場合によってはそういうこともあるわ」 「そんなのやめるネ」 「ナタリー、時は待ってくれないわ。あなたのところにもそのうち 、カイルが来る。その時、私と美佳、どちらがあなたを守ってやる ことが出来るか、よく考えるのね」 ソフィーはゆうきをじっと見つめて、言った。 9 爆発 夕方、美佳とエリナはアパートに帰った。 「今日は全くひどい目にあったわね」 自分の部屋へ向かう3階の通路で美佳はエリナに言った。 「でも、美佳さんにしては素晴らしいとっさの判断力でしたわ。わ たくしもファレイヌを持っていましたけど、とっさにファレイヌを ワイヤーに変えるなんてこと、思いつきませんでしたもの」 「そりゃあ、経験の差よ。まあ、仮にエリナがファレイヌをワイヤ ーに変えることを思いついても、エリナの精神力では変える前にエ レベーターが落ちちゃうわね。私ならファレイヌを変形させるのに 1秒もかからないもの」 美佳は自慢げに言った。 「そうですね、頭の回転には1秒以上かかりそうですけど」 「悪かったわね」 美佳とエリナは部屋のドアの前に来た。 「鍵」 「はい」 エリナは美佳に鍵を渡した。 美佳はドアの鍵穴に鍵を差し込み、回した。 ボンッ! 次の瞬間、美佳の部屋が大爆発を起こし、ドアが吹っ飛んだ。 「み、みかさん……」 エリナは呆然として、言った。 「うぐぐ」 ドアと壁にサンドイッチにされた美佳はドアを押し倒した。 「だ、大丈夫ですか?」 「おのれぇ、鷹森のやつぅ」 美佳の肩はわなわなと震えていた。 美佳の部屋の入口からは爆発の煙がもうもうと出てきている。 「ゴホッ、ゴホッ」 美佳は激しくせき込んだ。「エリナ、入るわよ」 「美佳さん、まだ中へ入るのは危険ですわ」 エリナが止めた。 「うるさいっ!」 美佳が口を押さえて、室内に入った。 それから、数秒後、室内で再び爆発が起こった。 「美佳さん!」 エリナが爆音にびっくりして、慌てて中に入る。 居間には美佳がぽつんと立っていた。 「今の爆発……」 エリナはそこまで言いかけて、言葉を切った。 美佳は体中真っ黒になっていた。しかし、それはすすではなく、 ペンキであった。 「あんにゃろう、ペンキ爆弾まで仕掛けてたぁ……」 美佳は悔しそうに言った。 「ペンキですか……よかった、黒こげになったのかと思いましたわ 」 エリナはほっと胸をなで下ろした。 「ちっともよかない。アパートまで爆破されて、ペンキまで被せら れたのよ」 「それはそうですけど−−」 その時、部屋の電話が鳴った。 エリナが受話器をとろうとするのを、美佳が制してとる。 「もしもーし」 『俺や、鷹森や』 「あんたね、私の部屋に爆弾、仕掛けたのは?」 『そうや、おまえの真っ黒けっけな姿がよく見えるぜ』 「エレベーターもあんたなの?」 『そうや。面白かったやろ。遊園地でもそうは味わえへんで』 「一体、どういうつもりよ。銃が欲しいんなら、正々堂々と取りに 来ればいいでしょ」 『取りに来ておとなしく渡すんなら、とっくにやっとるで。そうや ろ、椎野美佳』 「気に入らないわね。プロの殺し屋なら私と勝負したらどう?」 『プロほど危険は犯さんもんや。おまえさんは鮫島を差しの勝負で 負かした。そんな女と正面切って戦いを挑むほどバカではないで』 「あっそう。けど、いくらこんなことしたって、私は脅しには屈し ないわよ。黄金銃が欲しいんなら、私を殺すのね」 『大した女や。泣きつけば、おとなしく黄金銃を受け取ってやろう と思っとったのに。これじゃあ、もう少し遊んでやらんといかんな 』 「望むところよ。次は必ず捕まえてやるわ」 『ふん、やれるもんならやってみるんやな』 鷹森からの電話が切れた。 「美佳さん」 そばで電話のやりとりを聞いていたエリナが美佳を見た。 「エリナ」 「はい?」 「次の対決で奴を絶対捕まえるわ。もうこれ以上、犠牲は増やせな いもの」 美佳は受話器を電話に戻すと、力強い口調で言った。 続く