ファレイヌ2 第21話「包囲網」前編 登場人物 椎野美佳 声優。黄金銃ファレイヌの所有者。 魔法のヘアバンドでキティセイバーに変身 エリナ 美佳のマネージャー 橘 警視庁特捜課刑事 早見祐二 D警察署保安課刑事 西島健夫 高校生。 北川晴香 健夫の幼なじみ プロローグ 謎の男カイルとの戦いから8日後、椎野美佳とエリナは空港まで ペトラルカを見送った。 「ここでいいわ」 ペトラルカは出札窓口の近くで美佳の持っていた残りの荷物を受 け取った。 「何か短かったなぁ」 美佳は残念そうに言った。 「1週間も一緒に暮らして、何言ってるのよ」 ペトラルカは苦笑した。 「これからどうするの?」 「とりあえず、あなたたちに危険を知らせたことだし、一度、ボス トンのアパートに帰るわ」 「自宅に戻って、狙われたりしない?」 「さあ、どうだろう。危険はないとは言えないけど、帰らないこと には仕事にならないしね。お互い生活していくのは大変よ」 「他のファレイヌのことはどうするの?」 「居場所が分かれば、知らせに行きたいけど、私がわかっているの はあんたたちで最後だから」 「ソフィーはどうなんだろう」 「そういえば、あれ以来、全然会わないわね。もしあいつがカイル を追跡しているとすれば、恐らくカイルは日本にいないのかもね」 「カイルはファレイヌが狙いなのにどうして一度、失敗したぐらい で諦めたのかしら」 「その辺はわからないわね。それ以前に奴がファレイヌの所有者の 居場所を知っていることの方が不思議よ。まあ、帰ったらカイルの ことは私なりに調べてみるわ」 「私も何かわかったら、連絡する」 「あんたの腕じゃ、大したことはわからないんじゃない」 ペトラルカは悪戯っぽく笑った。 「ああっ、バカにしたわね。いいわよ、どうせ私は戦うことしか脳 がないですよぉだ」 美佳はすねた。 「相変わらず子供だね、美佳は。さて、行くか」 ペトラルカは置いていたトランクを手に持った。 「ペトラルカ、お元気で」 これまで黙っていたエリナが言った。 「エリナ、美佳と仲良くな」 ペトラルカはウインクした。 「それじゃあ、さよなら。手紙、書くから」 美佳も名残惜しそうな顔で言った。 「じゃあな」 ペトラルカは窓口の方へ歩いていった。 二人はしばらくペトラルカの背中を見送っていた。 「私たち、いつになったら平和に暮らせるんだろうね」 美佳はぽつりと呟いた。 「わたくしは今でも充分幸せですわ」 「え?」 美佳がエリナの顔を見る。 「さあ、帰りましょう。わたくしたちも仕事ですわ」 エリナが空港の入口の方へ歩いていく。 「今でも−−幸せねぇ……」 美佳は何となくすっきりしなかった。 1 デート それから数日後の夕方−− 「母さん、ちょっと出かけてくる」 西島健夫は玄関で靴を履きながら、言った。 「出かけるって、夕飯どうするの?」 母親が台所から廊下に顔を出す。 「6時頃には帰るよ」 健夫はそう言うと、家を出ていった。 健夫は半袖のシャツにジーンズと軽装で、両手には何も持ってい なかった。 「健夫、どこ行くの?」 家から少し歩いたところで、健夫は後ろから声をかけられた。 振り向くと、向かいの家に住む幼なじみの北川晴香だった。 「何だ、おまえか」 「おまえかはないでしょ。どこ行くの?」 「ちょっと駅までな」 「だったら、ちょうどいいわ。買い物、つきあってよ」 「何で俺が?」 健夫は嫌な顔をする。 「いいじゃない、ついでなんだから」 「ちぇっ」 健夫はふてくされながらも晴香と一緒に駅への道を歩いていった 。 「夏休みに入ってから、あまり会うことなくなったね」 晴香は下を向いたまま、言った。 「そうだな」 「テニス部の練習がなければ、一緒にどっか行けるのにね」 晴香は顔を上げ、明るく言った。 「気にすんなよ、いつものことだし」 健夫は素気なく言った。 「あ、あのさ−−」 「何だよ」 「椎野さんの話とか最近でないけど−−」 「ああ、それなら、俺、椎野さんと付き合うことになったんだ」 「え?」 晴香は驚いた様子で健夫の横顔を見た。 「告白したんだ、椎野さんに」 「うそ……」 「本当さ」 「それで椎野さんは…」 「OKしてくれた」 「うそよ、そんなこと」 晴香は声を上擦らせて、言った。 「どうして嘘なんだよ」 健夫はややムッとした顔で聞き返した。 「それは−−」 晴香は口ごもった。 「おまえは椎野さんのこと、よく思ってないようだけど、俺は彼女 と付き合うからな。もうデートの約束だってしてるんだから」 「デート……デートってどこ行くの?」 「伊豆半島のK海岸さ」 「そ、そんな遠くに行くの?」 「遠くって静岡じゃないか」 「ふ、二人で?」 「二人っきりじゃないけど、椎野さんの仕事が終わったら、そこで 海水浴することになってんだ」 「泊まるの?」 「当たり前だろ」 「おばさんたちは許してくれたの?」 「ああ」 「いつ行くの?」 「明後日だよ。それより、どうしていちいちそんなことまで聞くん だよ」 「ごめん」 「全く!」 健夫はすっかり不機嫌になった。 しかし、この時、晴香の方は別のことに考えをめぐらしていた。 2 強奪 午後7時、兵庫県Y町の中国自動車道を一台の大型トラックが走 っていた。トラックは半導体製品を広島の工場から横浜の倉庫へ送 り届ける途中であった。 午後7時15分、トラックはいつものようにXサービスエリアに 立ち寄った。 その時、トラックの後をつけるように後ろを走っていた2台の黒 いワゴン車もサービスエリアに立ち寄った。 「飲み物でも買ってくるよ。何がいい?」 「コーヒーでいいよ」 「わかった」 トラックの助手席の男は、トラックを降り、販売機の方へ歩いて いった。 トラックには運転手一人が残った。 「ふう、暑いな」 運転手はタオルで汗を拭いた。 「すみません」 その時、トラックの外で声がした。 「ん?」 運転手は横の窓を見たが、人の姿はない。 「すみません」 再び外からの男の声。どうやら男はトラックのフロントドアのす ぐそばにいるらしい。トラックは座席の位置が普通の車に比べると 1メートルばかり高いため、ドアのそばは死角になって見えないの である。 運転手は仕方なくフロントドアの窓から顔を出し、下を見た。 そこにはサングラスをかけた男が立っていた。 シューッ!! 男は運転手を見るなり、いきなり隠し持っていたスプレーを運転 手の顔に吹き付けた。 「うわっ」 運転手は手で顔を覆いながら、窓から顔を引っ込める。 それと同時に助手席から別の男がドアを開けてトラックに乗り込 んでくると、布を巻き付けたハンマーで運転手の頭部を思いっきり 殴りつけた。運転手は最初の頭部への一撃で致命的なダメージを受 けたため、続けざまのハンマーの攻撃に対抗する暇もなく、絶命し た。 男たちは運転手が死ぬと、素早く乗ってきたワゴン車の後ろへ運 び込んだ。 そして、今度はジュースを買いに行った助手席の男が戻ってくる のを待った。 5分ほどして、助手席の男がトラックに戻ってくると、今度はト ラックに乗り込もうとした瞬間に後ろから4人がかりで助手席の男 を羽交い締めにして、口と目にガムテープを貼り、強引にワゴン車 に押し込んだ。 「よし行くぞ」 6人の強盗のうち、一人がトラックを運転して、先にサービスエ リアから発進した。そして、後から2台のワゴン車が続く。 トラックと2台のワゴン車は中国自動車道から最初のインターチ ェンジで市道に入り、5キロ離れたN町の駐車場でトラックの積み 荷をワゴン車に積み替える作業を行った。 駐車場はあらかじめ人通りが少なく、車の埋まっていない場所を 選んでいた。 作業は実に手際よく行われていた。 一人が見張りに立ち、もう一人が作業の指示、トラックの荷台に 一人が乗って、積み荷を下の者に渡し、それを残る二人が次々と受 け取って、ワゴン車に積む。 被害にあった運転手と助手席の男は両手両足を縛られ、駐車場の 隅に投げ出されていた。 「おまえら、そこまでだ」 積み替え作業を開始して5分後、駐車場に一人の男が入ってきた 。 作業をしていた男たち5人は一斉に男の方へ目を向けた。 「D署の早見だ。おまえら全員、強盗・傷害・監禁の現行犯で逮捕 だ」 早見は警察手帳を見せた。 男たちは一瞬逃げようともしたが、周りに早見一人しかいないの がわかると途端に男たちの目に殺意が灯った。 「下手な真似すると、罪が重くなるぞ」 早見は警察手帳を背広の胸ポケットにしまって、言った。 しかし、男たちに早見の言葉は届かなかった。 男たちはワゴン車に隠していた鉄パイプを手にすると、一斉に襲 いかかった。 グォーン!グォーン! その時、早見の背後から光の弾丸が次々と飛んできた。 光弾は光の軌道を描きながら、男たちの肩や腹に命中する。 ドサッ!! 一瞬にして、早見に襲いかかった男たちは地面に転がった。 「いてえ、いてぇよ」 男たちは地面を転がりながら、呻いた。 「バカな奴等だ」 早見は男たちの持っていた凶器を取り上げ、トラックの荷台に投 げ込んだ。 「もう出てきていいぜ」 「何、かっこつけてんのよ」 駐車場の車の陰から黄金銃を手にした椎野美佳が現れた。「見張 りもこいつらも全部、私がやったんじゃない」 「そう言うなって」 早見は男たちの手に二人一組で手錠をはめた。 美佳は駐車場の隅に放置された被害者たちのところへ歩み寄った 。 一人は気を失っているだけだが、もう一人は顔中血で染まり、絶 命していた。美佳はそっと被害者の頬に触れ、辛そうに目をつぶっ た。 「被害者の一人が死んでるわ」 美佳は早見の方を向いて、言った。 早見はそれを聞いて、美佳の方へ歩いていく。 「襲われる過程で殺されたんだな」 「早見、この強盗団は人は殺さないって言わなかったけ?」 美佳は立ち上がった。 「これまでのケースでは死傷者は出ていない」 「被害に遭う前に奴等を捕まえれば、助かったかもしれないのに」 「それじゃあ、奴等は逮捕できない。せいぜい強盗未遂、銃刀法違 反が関の山だ」 「汚いやり口ね。事件を起こさせてから逮捕する。それでも刑事? 」 「これが俺のやり方さ。さあ、行くぞ」 そう言って、早見はワゴン車に乗り込もうとした。 「行くってどこへ?」 「話さなかったか?取引場所さ。こいつらは半導体製品を盗んで、 港で待ってるロシアのマフィアに売りつけようとしてたのさ」 「半導体ってそんなに高価なの?」 「日本では安くても、ない国では高価なのさ。まあ、美佳に話した ところで、理解できないだろうが」 「どうせ、私はバカですよ」 「ぐだぐだ言ってないで、車に早く乗れ」 早見はもうワゴン車に乗って、エンジンをかけようとしている。 美佳は渋い顔をしながら、助手席に乗り込んだ。 「応援、呼ばなくていいの?」 「応援なら、おまえがいるじゃないか」 「マフィア相手に私たち、二人で乗り込むわけ?」 「俺は誰よりもおまえの腕を買ってるんだ」 早見はそう言うと、車を発進させた。 「……」 その言葉に美佳は黙り込んでしまった。 3 朝 翌朝−−椎野美佳のアパート 「美佳さん、朝食出来ましたよ、起きて下さい」 相変わらず枕を抱きしめて寝ている美佳の体をエリナは揺すった 。 「もうちょっと、寝かせてよ。帰ってきたの(夜中の)3時なんだ から」 美佳は枕に顔を埋めたまま、眠そうに言った。 「駄目ですよ。一日の生活は規則正しくしないと、体を壊してしま いますわ」 「壊してもいい、わたしは寝る」 美佳はごろんとエリナに背を向けた。 「仕方ないですね」 エリナはステレオに繋いだヘッドホンを美佳の耳にはめた。そし て、音量を問答無用でハイレベルにした。 「ぎゃあっ!!!」 美佳は飛び上がって起きると、ヘッドホンをぶん投げた。 「エリナ、私を殺す気!」 美佳は目をむいて、エリナに怒鳴った。 「そのくらいでは死にませんわ」 「ショック死するかもしれないでしょ」 「でも、生きてるじゃないですか。さあ、食事にしましょ」 エリナは食卓の前に座った。 −−エリナの奴、昨日、私が黙って出てったもんだから、その仕 返しで…… 美佳はまだガンガンと耳鳴りする耳を押さえながら、食卓につい た。今朝の朝食はエリナが豚カツで、美佳が目玉焼きと差を付けら れていた。 「『潰し屋早見、マフィアを一掃。ハイテク製品、密輸を阻止』。 今朝の新聞は一面、トップですわ」 エリナが美佳に新聞を見せた。 「あいつはマスコミが好きなのよ。手柄を立てると、警察を呼ぶよ り先にマスコミを呼ぶんだから」 美佳は味噌汁を飲んでから、言った。 「昨日、早見さんと出かけてたのはこのためなんですか」 「そうよ」 美佳は素気なく言った。 「じゃあ、このマフィアは早見さんと美佳さんの二人で逮捕したん ですか」 「やっつけたのは全部私。あいつは警察手帳、出すだけだったわ」 「それは大変でしたね」 「大変どころじゃないわ。港の倉庫にいたマフィア連中と撃ち合い になって、一歩間違えば死ぬとこだったわ」 「でも、新聞には美佳さんのことは全然−−」 「私が名前を出せるわけないでしょ」 「それもそうですね」 エリナは新聞記事を読んだ。 「あの、美佳さん」 「何?」 「どうして美佳さんはいつも早見さんの手伝いをするんですか。奈 緒美さんの依頼の時は断ることが多いのに」 「あいつとはギブアンドテイクの関係なの」 「といいますと?」 「カイルのことを調べてもらってるの。あいつ、裏の世界に顔が利 くから」 「それで何かわかりました?」 「まだ頼んだばかりでわかるわけないでしょ。昨日の仕事は報酬の 前倒し」 「また騙されてるんじゃないですか。美佳さん、馬鹿正直ですから 」 「うるさいわね、まだ成果がないかどうかはわからないでしょう。 エリナ、くだらない質問はいいから、早くご飯食べちゃいなよ」 美佳は不機嫌に言って、それきり早見の話題を打ち切った。 4 険悪 同じ頃、D警察署では、マフィア摘発に関する早見の管轄を無視 した単独行動が大問題として持ち上がっていた。早見の属する保安 二課の課長は署長室に呼び出され、警視庁から来た幹部を相手に朝 から事情説明をさせられていた。また、保安2課内も早見の帰りを 待つ警視庁の捜査員に居座られ、重苦しい緊張感が漂っていた。 そんな折り、早見が覆面車でD署に戻ってきた。 「早見さん、大変なことになってますよ」 入口に出迎えた後輩の刑事が早見に耳打ちした。 「わかってる。警視庁のエリートどもが抗議に来てるんだろ」 早見は特別慌てた様子もなく、堂々と保安2課に入っていった。 「みなさん、おはよう」 早見は挨拶した。しかし、警視庁の捜査員たちの目は冷ややかだ った。 「早見、すぐに署長室へ行け」 先輩刑事が言った。 「わかりました」 早見は自分の机に鞄を置いて、部屋を出ようとした。 「ちょっと、待て」 警視庁の刑事が早見を呼び止めた。この男は麻薬捜査課の橘繁と いい、早見とは捜査方針の違いで何かにつけ対立していた。 「悪いが、話なら後にしてくれ」 「何だと、きさま、一体どういうつもりだ!」 橘は向きになって、早見につかみかかった。 「どういうつもりとは?」 「なぜ一人でマフィアを摘発した!きさまは警察をなんだと思って るんだ!」 「全て逮捕したんだから、いいじゃないですか」 「何だと」 「警察は、犯罪者を逮捕するのが仕事だ。別に逮捕する過程などど うでもいいでしょう。一人で捕まえようが、大勢で捕まえようが、 逮捕は逮捕。やれどこの管轄だとか、どこの課の仕事だとかを気に してたら、犯罪者の逮捕は出来ませんよ」 「ふざけるな。早見、自惚れるのもいいかげんにしろよ。警察はお まえ一人で成り立ってるわけじゃないんだ。日本各地の警官が−− 」 橘がそこまで言いかけたところで、早見が橘の口を押さえた。 「そんな一般論は聞きたくありませんよ。俺は俺のやり方でこれか らもやる。他の奴には何も言わせやしない」 早見はそう言うと、さっと橘に背を向けて、部屋を出ていった。 5 会議 東京のある男の邸宅では、暴力団やマフィアの幹部が集まり、秘 密会議が行われていた。 広い客間に長方形のテーブルを挟んで、長い辺の両側に四人ずつ 向かい合うように座り、短い辺に首領らしい男がでんと構えて座っ ている。 男たちはみな組長や幹部クラスで、どの男たちにもそれらしい風 格があった。 「昨日、また取引を早見に潰されたそうだな」 首領が八人を鋭い眼光で睨み付けて、言った。「向こうのボスが 俺のところに文句の電話をよこした。日本のマフィアは警官一人振 り切れない能なしだってな」 「申し訳ありません」 八人のうちの一人が首領に頭を下げた。その男は背広を着た40 代後半の口髭を生やした男だった。肌の色は浅黒く、顔立ちは顎が 角張っていて、彫りが深く、厚い唇、切れ長の目をしている。 「片山、昨日の仕事はおまえか。いいか、表の世界だろうと裏の世 界だろうと、信用が大事だ。信用に答えられねえ奴は消えてもらう 」 首領が合図すると、首領の後ろに従えた部下が片山の背後に回る 。 「ま、待って下さい。早見には恐ろしく腕の立つパートナーがつい てるんで」 片山は慌てた様子で言った。 「腕の立つパートナーだと」 「部下の話では、早見は立っていただけで、仲間をやったのはパー トナーの方だと」 「誰だ、そいつは。早見の同僚か」 「いいえ、そいつは女です」 「女だと。おまえの部下はたった一人の女にやられたのか」 「へ、へえ」 片山は頼りなげに言った。 「とんだ醜態だな。がっかりしたぞ、片山。もう少しましな言い訳 をすると思ったがな」 首領の部下が片山の後頭部に銃口を突きつける。 「まっ、待って下さい。誰か外にいる赤宮を呼んできてくれ」 片山はひどく慌てた様子で言った。 「今更、みっともないぞ」 「お待ち下さい。すぐにその女の恐ろしさを証明してみせます」 「恐ろしさか−−ふん、いいだろう、そいつを呼んでこい」 首領は部下に赤宮という男を呼びに行かせた。 数分して、首領の部下に連れられ、客間に一人の男が入ってきた 。銀縁の眼鏡をかけたインテリ風の男、赤宮啓吾である。 「こいつがその女の恐ろしさを証明するのか」 首領はバカにしたような目で赤宮を見た。 「私は赤宮と言います、よろしく」 赤宮は落ち着き払った様子で、首領の部下に名刺を渡した。部下 は首領のもとへ名刺を持っていく。 「赤宮啓吾、私立探偵か。早速、証明してもらおうか」 「この映像を見てもらえればわかりますよ」 赤宮はビデオテープをスーツの懐から取り出した。 「よかろう、ビデオの準備をしろ。その代わり、つまらん映像なら おまえの命もないぞ」 「構いませんよ」 赤宮は自信ありげに言った。 首領の指令で、ビデオ機器、ビデオプロジェクター、スクリーン が用意された。 「やってもらおうか」 「はい」 赤宮は手慣れた手つきでビデオテープをビデオにセットし、プロ ジェクターを通して白いスクリーンにビデオ映像を再生した。 「照明を消して下さい」 赤宮の指示で室内が薄暗くなる。 「これは神社で関東轟組の組員が女を襲った時の映像です」 赤宮の説明と同時に神社の映像が映った。 何かの光が次々と組員を打ち倒していく様子が映し出されている 。 「この光は何じゃ」 首領が尋ねた。 「女の銃より発射された弾丸です」 「女はどこにいるんだ?」 「この映像では女は木の上にいるので映っていません。しかし、組 員は倒れていく様子を見れば、明らかでしょう」 「あれが片島の部下や取引相手の連中をやった弾丸なのか」 「そうです」 「だが、あの光は蛍の光のように動き回ってるじゃないか」 「女の持つ銃は弾丸の弾道をカーブさせたり、威力を変えたり出来 るんです」 「バカを言うな、そんなことが出来るものか」 「それがあの銃では出来るんです。しかも命中率は静止物体なら恐 らく何メートル離れていようと100パーセントかと」 赤宮はビデオの停止ボタンを押して、言った。同時に部下が照明 をつけ、室内が明るくなった。 「信じられんな。その女とは何者なんだ」 「この女です」 赤宮は写真を見せた。 「若い女だな」 「まだ二十歳です。名前は椎野美佳、職業は声優。4年ほど前に両 親と姉が変死を遂げているという以外は格別普通の経歴の女です。 裏の世界の人間でこの女のことを知る人間はいません」 「そんな女がどうして早見のパートナーをやってるんだ?」 「わかりませんな。何かにつけ謎の多い女です」 赤宮は静かに言った。 「おまえはこの女と会ったことはあるのか」 「あります。一度、痛い目に遭いました」 「ほぉ」 首領は関心を深めた様子だった。 「首領……」 片山が不安げに言った。 「おまえの処刑は待ってやろう。それより、その女の銃を見てみた い。もしおまえの言うような銃が存在するのなら、銃器産業を独占 できるほどの大きな収穫だ。赤宮、その銃を手に入れろ」 「私一人では荷が重すぎます。出来れば、有能な部下を数人貸して いただきたいと思います」 「いいだろう、好きなだけ連れて行け」 「それから、銃を手に入れた暁には−−」 「ふふ、銃を手に入れれば、何でもかなえてやる」 「ありがとうございます。この赤宮、必ず銃を手に入れてみせます 」 赤宮は目を輝かせて、言った。 続く