ファレイヌ2 第6話 怪盗パンプキンヘッド 前編 登場人物 椎野美佳 声優。黄金銃ファレイヌの所有者 西島 刑事 西島健夫 西島の息子 エリナ 美佳のマネージャー 神崎彩香 怪盗 パンプキンヘッド 怪盗 1 登場 真夏のある午後のこと。 白昼、銀座の繁華街の通りに一体の怪物が現れた。 怪物の身長はおよそ2メートル20センチ。首の上には、人間の 頭の5、6倍はあろうかという強大なカボチャが乗っている。しか も、そのカボチャ頭には御丁寧にも丸い目と鼻と三か月を横にした ような口が妙にリアルについている。体は全体にカボチャが一つ一 つ埋め込まれている感じで、まるで肉弾人間である。背中には大型 のロケットパックを背負っていた。 路上のカボチャ男の姿に人々はそれほど関心は示さなかった。ほ とんどの人々は、この男がただの宣伝マンとしてぬいぐるみを被っ ているだけだと思い、通りがかりにちらっと見たり、くすっ笑った りする程度であった。 カボチャ男はカボチャで山積みになったカートを左手で引きずり ながら、路上を歩いていた。そして、一件の宝石店を見つけると、 足を止めた。 「ギギギ……」 カボチャ男は妙な声を上げて、再び宝石店に向かって歩き始めた 。そして、宝石店の入口の前に来た。ガラスの自動ドアが両側に開 く。 「いらっしゃいま−−!!」 客が入ってきたかと思って、挨拶をしようとした宝石店の店員は カボチャ男の姿を見た途端、あんぐりと口を開けたまま、声が出な くなった。 カボチャ男は狭い入口から強引にカートを引きずって、中に入っ てきた。 「こらっ!!何の真似だ」 店内にいた数人の警備員がすぐにカボチャ男を取り押さえにかか る。 「キギッ!」 だが、カボチャ男はそんなものはものともせず、つかみかかる警 備員を次々と殴り倒し、前に進み出る。 「警察を呼べ、警察を呼ぶんだ」 店員の一人が言った。 同時に防犯ベルが鳴り響く。 「ギギギ」 カボチャ男は宝石を陳列したガラスケースの前に来ると、片っ端 から両手を使って、たたき割り、中の宝石を次々と自分の口の中へ 入れ始めた。 「奴を捕まえろ」 勇敢な店員がカボチャ男に飛びかかる。 だが、カボチャ男はそれを見るや、突然カートの中のカボチャを 店員に向かって、手当たり次第に投げた。 「ぐあ」 飛びかかった店員はもろに顔にカボチャをくらった。店員は後ろ に倒れ、砕けたカボチャの中身で顔が黄色くなる。 カボチャ男はさらに回りにいた店員に、片っ端からカボチャを投 げつけた。 カボチャとはいえ、当たればダメージは免れない。この攻撃には 店員たちもひるみ、女店員は店の奥にまで引っ込んでしまう。 カボチャ男は店員たちを威嚇しながら、さらに宝石や貴金属を手 に取って口に入れ続ける。 それから数分後、外でパトカーのサイレンが鳴った。 カボチャ男はその音を聞くと、宝石を口に入れるのをやめ、店の カウンターでカボチャ男を見ている店員たちの方を見た。 店員たちはビクッとする。 カボチャ男は妙な笑い声をあげると、カートのカボチャを一つ手 に取り、店員たちに向かって投げつけた。 ボンッ!! 投げつけられたカボチャが店員たちの足下で爆発した。 「ゴホッ、ゴホッ」 白い煙がもうもうと上がり、店員たちが激しくむせた。 カボチャ男はその隙に正面入口から店を出た。 しかし、店の前は既に数台のパトカーと警官隊で囲まれていた。 「警察だ。おとなしくしろ!!」 パトカーのそばにいたC署刑事、西島が拡声器を手に持って言っ た。 「ギギギ……」 カボチャ男は目の前の警官隊を見回す。 「西島さん、奴は人質を連れていません。一気に取り押さえましょ う」 部下の刑事が西島に耳打ちした。 「いや、待て。ああいう妙なかぶりものをしてる奴だ。何を考えて いるかわからん。とにかく中にいる人質の無事を確認しないと」 「しかし、西島さん、店内から煙が出ていますよ。奴が何かやった に違いありません」 「そんなことはわかっている」 西島が苛立たしげにそう言った時だった。 「撃て!」 という鋭い声が警官隊の中から聞こえた。 「何!」 西島がはっとしてその声のした方を振り向いた時には、警官隊が 一斉にカボチャ男に向かって発砲した。 だが、カボチャ男は弾丸を平然と跳ね返す。 続いて警官たちが警棒を持って、一斉に飛びかかった。 カボチャ男は来たなと言わんばかりに身構えると、背中の背負っ ていたロケットパックのエンジンを点火した。 シュボオォォォ!! その時、ロケットエンジンの排気ガスが豪快な噴射を始めた。 警官隊に捕まる直前でカボチャ男はロケットのように一気に空に 上昇した。 「あっ」 警官隊は一斉に空を見上げる。 カボチャ男は一瞬にして宝石店から50メートルほど離れた10 階建てのビルまで飛んでいくと、ビルの裏側に消えた。 「追え、追うんだ!」 西嶺は拡声器を使うのも忘れ、かれんばかりの大声で怒鳴った。 しかし、警官隊がビルの裏側に駆けつけた時には既にカボチャ男 の姿はなく、縦50センチの正方形の白いプレートだけが残されて いた。そこには次のようなメッセージが記されていた。 警察ノ諸君 マタ 会オウ 怪盗パンプキンヘッド 2 叱責 C警察署捜査3課−− 「馬鹿者、犯人を目の前にして逃がすとはどういうことだ!」 楢崎課長は書類をデスクに叩きつけ、目の前にいる西島刑事を叱 った。 「申し訳ありません」 「全く!どういう顔して私はマスコミの前に出ればいいんだ。いい 笑いもんだよ、カボチャ男にまんまとしてやられるなんてな。これ で私の出世も終わりだよ」 課長は西島の周りを回りながら、皮肉たっぷりに言った。 「奴は必ず捕まえます」 西島は落ちついた口調で言った。 「早くそうして欲しいものだね。少しは手がかりでも見つけたのか ね」 「いいえ、今のところは。ただ−−」 「ただ、何だね」 「宝石店から周囲10キロ以内はすぐに検問をしきましたので、奴 は絶対にこの街から逃げられません」 「だが、既に事件から3時間は過ぎたというのにロケットパック一 つ見つけられないではないか」 「それは奴が付近にアジトを持っている証拠です。虱潰しに当たれ ば、絶対に見つかるはずです」 「本当だな。もし見つからなかったら、君の首一つではすまんから な!」 課長は冷ややかな口調でそう言った。 3 食卓 しかし、怪盗パンプキンヘッドの行方は警察の必死の捜査にも関 わらず、夜になっても依然不明であった。 宝石店から盗み出された450点、総額2億7千万円の宝石も、 ロケットパックも、カボチャのかぶりものも見つからなかった。 その頃、西島健夫は自宅の居間のテレビで、ソファに座りニュー ス番組を見ていた。健夫はC署の西島刑事の長男で、17歳である 。 「パンプキンヘッドか。ふざけやがって!」 健夫はリモコンでテレビのスイッチを切った。 「健夫、ご飯よ」 母親の宣子が居間に顔を出した。 「ああ」 健夫はソファから腰を上げた。 「母さん、今日、親父、遅くなるのかな」 DKに入ってから健夫は宣子に言った。 「どうして?」 炊飯器からお椀にご飯をよそいながら、宣子は言った。 「昼間の宝石店襲撃事件の犯人、まだ捕まらないんだろ」 「そうね」 「全くふざけてるぜ。パンプキンヘッドなんて!」 テーブルについた健夫は腹立たしげに言った。 「どうしたの?いつもは警察なんて嫌いだって言ってるのに」 宣子はクスッと笑って、言った。 「警察も嫌いだけど、ああいう愉快犯はもっと嫌いなんだよ」 健夫はご飯を食べながら、言った。 その時、廊下の方で電話が鳴った。 「健夫、電話に出て」 「何だよ、俺、今、食ってるんだぜ」 「健夫の方が近いでしょ」 「ちぇっ」 健夫は椀と箸をテーブルに置いて、席を立った。そして、DKを 出て、すぐのところにある電話台の電話の受話器を取った。 「はい、西島ですけど」 健夫は少々ぶっきらぼうに言った。 「あっ、健夫。わたし、晴香」 と若い女性の声。 「何だ、おまえか。何の用だよ」 健夫は渋い顔をした。 電話してきた女性は北川晴香と言い、健夫とは幼なじみで、同じ 高校に通う同級生であった。 「そんな言い方ないでしょ。心配して電話してあげたのに」 晴香は文句を言った。 「心配って何の心配だよ」 「昼間の事件のことよ。あれっておじさんの管轄でしょ」 「ああ。でも、俺には関係ねえよ」 「関係ないって、あんたのお父さんじゃない」 「うるせえな。そんなことぐらいでいちいち電話してくるな、この お節介女。用がそれだけなら、切るからな」 健夫はそう言うと、強引に電話を切った。 「全く……」 健夫は大きくため息をついた。 「誰からだったの?」 DKに戻ってきた健夫に宣子が尋ねた。 「晴香からだよ。親父のこと心配して電話かけてきやがった。あい つと親父、できてんじゃないのか」 健夫はテーブルにつくと、皮肉たっぷりに言った。 「また、すぐそう言うこという。あんたの悪い癖よ」 「ふん、どうせ俺はひねくれた人間だよ」 健夫はそう言うと、それきり食事に専念した。 4 誘い さらに同じ頃、パンプキンヘッドの宝石店襲撃の報道を聞いて、 怒りを覚える一人の女がいた。 「あー、くやしい!」 女はテレビの画面に向かってリモコンを投げつけた。 「ちょっとテレビが壊れたらどうすんのよ!」 折り畳みテーブルで食事をしていた椎野美佳は、思わずムッとし て言った。 「あんたは悔しくないの。このカボチャ頭を見て」 女は宝石店から出てきたパンプキンヘッドを映しているテレビ画 面を指差した。 「悔しくないわよ、別に」 美佳は椀を持ってご飯を口にかき込みながら、言った。 「わたくしも美佳さんに同じです」 美佳と一緒に食事をしていたエリナが答えた。 「冷たいわね。それでも友達なの?」 女−−神崎彩香はふくれた顔をして言った。 「テレビにリモコンをぶつけるような友達は持った覚えないけどね 」 美佳は彩香の方を見向きもせずに言った。 「あっそう、わたしだって、都合のいい時だけ金をたかる女なんか 友達だと思ってないわ」 彩香は皮肉っぽく言った。 ムッ! これには美佳もカチンときた。 「それって私のこと言ってるわけ」 美佳は彩香の方を向いて、言った。 「さあ、別に美佳だなんて言ってないけど。でも、あんたなら心当 たりがありそうね」 「彩香!」 美佳は箸をテーブルに置いて、立ち上がった。 「何よ」 彩香も立ち上がる。 美佳と彩香は睨み合った。 「ちょっと二人ともやめてください。こんなところで喧嘩されたら 、大家さんに追い出されてしまいますわ」 エリナが二人の仲裁に入る。 「喧嘩なんかしないわよ、こんな奴となんか」 美佳はそう言うと、そっぽを向いてまたテーブルの前に座った。 「わたしだって同じよ」 彩香もそっぽを向いて、テレビの前に座った。 −−やれやれ エリナは吐息をついた。 ここで簡単に人物紹介をしておこう。 椎野美佳、20歳。職業、声優。精神弾を発射できる黄金銃ファ レイヌの所有者であると同時に、魔法のヘアバンドでキティセイバ ーに変身する自然神ガイアールの使徒でもある。 続いてエリナ・レイ、年齢不詳。職業は美佳のマネージャー。3 年前までファレイヌだったが、バフォメットの魔法が解けたことに より、人間に転生したのである。 そして、神崎彩香、22歳。怪盗シルフィーと名乗る女盗賊であ る。美佳とは4年前の昇竜の瓶事件の際に知り合った。 「でも、彩香さん、どうしてパンプキンヘッドに宝石店を襲われた ことが悔しいんですか」 食事を終えたエリナが彩香に尋ねた。 「わたしの狙っていた獲物が盗まれたのよ」 彩香はエリナの方を向いて、言った。 「狙っていた獲物?」 「そう、あの宝石店にはね、『姉妹の誓い』というペアのダイヤの 片割れがあったの。20カラットのダイヤよ」 「『姉妹の誓い』?」 「17世紀のオーストリアにフィルスナー家という財閥がいてね、 その15代当主、ビレット・フィルスナーが娘の双子の姉妹の、1 5歳の誕生日に贈った指輪がその『姉妹の誓い』と呼ばれたダイヤ なの」 「どうしてそれが日本に?」 「フィルスナー家も今では落ちぶれて、私財を売らないと生活して いけないのよ。家宝の『姉妹の誓い』も例外ではなく今年の3月に オークションにかけられて、それで日本のある資産家が落札したっ てわけ。襲われた宝石店はその資産家からダイヤを預かっていたの よ」 「なるほど」 エリナは頷いた。 「でも、犯人は店に展示されているものだけを盗んだんでしょ。『 姉妹の誓い』のような貴重なダイヤなら、金庫に閉まって置くんじ ゃない?」 今まで黙っていた美佳が口を開いた。 「本当ならそうなんだけど、見事に盗まれたのよ。つまり、こうい うこと。店に押し入ったパンプキンヘッドは囮で、奴が店で暴れて いる間に店の裏から侵入して、店の奧の金庫からダイヤを盗んだも う一人の泥棒がいるってわけ」 「つまり、パンプキンヘッドの仲間ってことね」 「そういうこと」 「けど、そんなこと、テレビの報道で言ってた?」 「これは警察と宝石店の一部の者しか知らない情報よ。時価1億円 のダイヤが盗まれたとあっては、もっとマスコミが騒ぎだすでしょ 」 「そっか。だとすると、パンプキンヘッドは最初からその宝石を狙 ってたのね」 美佳はお茶を口にしてから、言った。 「多分ね。全くわたしの獲物を横取りするなんてとんでもない奴だ わ」 彩香は拳を固めた。 「それでどうするの、彩香は?」 「もちろん、取り返すわ」 「取り返すって何かあてでもあるの?」 「奴が盗んだのはまだ『姉妹の誓い』の片方だけよ。次は必ずもう 片方を狙ってくる。それを今度はわたしが先に盗んで、奴と取引す るの。いい考えでしょ」 「もう片方の心当たりはあるの?」 「あるわ。どう、美佳、手伝わない?」 「わ、私?私は駄目よ、盗みなんて」 美佳は首を横に振った。 「報酬は折半でもいいわよ」 「せ、折半ってことは、五千万?」 美佳は唾を飲み込んで、言った。 「美佳さん!」 エリナが注意するような視線を送る。 「だ、駄目、私、悪いことは出来ないわ」 美佳は少々動揺しながらも断った。 「頭固いのね。でも、ものは考えようよ。わたしが盗まなくたって 、どうせパンプキンヘッドが盗むのよ、それを黙って見過ごすわけ ?」 「別に私は正義の味方じゃないもん」 「ふふ、じゃあ、勝手にするのね。少しは期待してたんだけど」 彩香は立ち上がった。そして、窓を開け、ベランダの方へ出てい く。 「ちょっと、彩香、帰るんなら玄関から帰りなさいよ−−」 「そうだわ、もし気が変わったら、ここへ来て」 彩香は美佳にカードを投げた。 「じゃあね」 彩香はそういうと、そのままベランダの柱に結んだロープを伝っ て下へ降りていった。「相変わらずだなぁ、彩香は」 美佳は窓を閉めて、呟いた。 「美佳さん、そんなことよりどうするんですの?」 エリナが聞いた。 「どうするって?」 「美佳さんのことですから、またよけいなことに首を突っ込むんじ ゃないかと思いまして」 「わかんないよ。少し考えてみる」 美佳はカードを見つめながら、少し自信のない口調で言った。 5 怪盗、現る 翌朝、健夫はいつものように高校へ行くため、家を出た。 結局、昨夜は西島は帰ってこなかった。 「ほんと、頼りにならねえよな、警察は」 健夫は呟いた。 健夫は今朝の朝刊に書かれた記事を読んで、すっかり不機嫌にな っていた。新聞報道はどれも警察のずさんな対応を指摘するコメン トばかりを載せていた。健夫自身は別に警察を擁護する気はないが 、これだけマスコミから批判されていると、父を刑事に持つ健夫と しては何となく自分がバカにされたみたいで不愉快になるのであっ た。 「健夫!」 健夫がぶつぶつ言いながら歩いている時、誰かが後ろから声をか けた。 健夫はちらっと後ろを見る。お下げ髪の制服を着た女子高生がい た。 「何だ、晴香か」 「何だはないでしょ」 晴香は少し走って、健夫の横に並んだ。 「まだ犯人、捕まらないみたいね」 晴香は歩きながら、健夫の顔を見て、言った。 「警察がウスノロだからだよ、おまえだってそう思ってんだろ」 健夫はふてくされたように言った。 「そんなこと思ってないよ。新聞とかテレビはひどいこと言ってる けど、今に警察がきっと捕まえてくれるわよ」 晴香は笑顔で言った。 「おまえの励ましなんか聞きたくねえよ、それより、さっさと先行 けよ。それでなくたっておまえと一緒に歩いてると、他の奴にから かわれるんだから」 「いいじゃない、からかわれたって。別に悪いことしてるわけじゃ ないし」 「うるせえな、俺は今日は機嫌が悪いんだ、一人にしてくれ」 「でも−−」 晴香は不満そうな顔をする。 「よぉ、おふたりさん、熱いね」 「西島、いちゃいちゃしてる暇があったら、早くカボチャ男を捕ま えろよな」 後ろから数人の同級生の男子が走ってきて、二人をからかうよう にして、通り過ぎた。 「何よ、あんたたち!」 晴香はムッとして、声を上げた。 「いいよ、別に」 「え!?」 「何言われたって、しょうがねえだろ」 「悔しくないの?」 「悔しくないわけないだろ!」 晴香の言葉に思わず健夫は声を荒げた。 「そ、そうだよね」 晴香はシュンとなった。 「犯人の逮捕は親父の問題だ。俺らがどうこうできる問題じゃない んだよ」 健夫はやり場のない怒りを抑えながら、言った。 「あ、あのさ、健夫−−」 晴香は顔を上げ、何かを言いかけた時だった。 「きゃあ!!」 どこからか女性の悲鳴が聞こえた。 健夫と晴香は顔を見合わせた。 「悲鳴だわ」 「ああ、行ってみよう」 二人は走って、悲鳴のした方へ向かった。 声は、二人の歩いているところから2、30メートル先の駐車場 から聞こえた。 二人が駐車場に駆けつけた時、二人は目の前の光景を見て、愕然 とした。 昨夜テレビで見たカボチャの大男が、一人の制服を着た少女の手 を掴んで立っているのである。 そして、カボチャ男のそばには先程、健夫をからかった二人の同 級生が体を横にして倒れていた。 「お願い、助けて!」 カボチャ男に腕を捕まれた女子生徒は、二人に助けを求めた。 「おい、その子を放せ」 健夫はカボチャ男に飛びかかった。 「ギギ」 だが、カボチャ男は向かってくる健夫に対して、もう一方の手で 強烈なパンチを浴びせた。 「ぐわぁ」 健夫はあっという間に地面にのされた。 「畜生!」 強烈なパンチを喰らい、くらくらとしながらも健夫は立ち上がろ うとした。だが、そこへカボチャ男の蹴りが健夫の腹に深く食い込 んだ。 「うぐっ……」 健夫は血を吐く。 「健夫!」 晴香の顔が真っ青になった。 「だ、誰か、来て!!」 晴香は叫んだ。しかし、まわりには人がいない。 −−ど、どうしよう 晴香が慌てている間にも、カボチャ男は暴れる女子生徒を強引に 両手で抱え込み、何かをしようとしている。 「こうなったら−−」 晴香は一か八かカボチャ男に向かっていった。 「放しなさい!」 晴香はカボチャ男の手を掴み、女子生徒を解放しようとするが、 彼女の力はあまりにも無力であった。 カボチャ男が手を払っただけで、晴香は倒されてしまった。 「オトナシクシナイト 死ヌゾ」 カボチャ男は不気味な目で女子生徒を睨み付けた。 これには女子生徒もおとなしくなってしまう。 カボチャ男は背中のロケットパックのジェットエンジンを点火し た。 ジェットノズルから排気ガスが噴射される。 −−彼女を助けなきゃ 晴香は今にもカボチャ男が飛び上がろうとする瞬間、女子生徒の 両足を掴んだ。 すると、カボチャ男が飛び立った時、いったんは女子生徒も浮い たものの、すぐにカボチャ男の腕からするりと抜け、カボチャ男だ けが上空へ飛んでいき、姿を消した。女子生徒はその勢いで地面に しりもちをついた。 「よかった」 女子生徒の両足を掴んでいた晴香は顔を上げて、言った。 「あ、ありがとう、私、何ていったらいいか」 「いいのよ、そんなことより、大丈夫?」 晴香は体を起こした。 「はい、私の方は」 「全くひどい目にあったぜ」 健夫は腹を押さえながらやっと起きあがった。 「健夫、大丈夫?」 晴香は健夫の方に歩み寄る。 「すごい力だ。あいつは怪盗なんかじゃない、強盗だよ」 健夫は血の混じった唾を吐いて、言った。 「どうも助かりました」 女子生徒は健夫の前に来て、礼を言う。 「俺は全然役に立たなかったよ」 健夫は苦笑して「それより、自己紹介しなくちゃね。俺は西島健 夫。隣の気の強い女は北川晴香。君は?」 「私は浅野舞子っていいます。私、2年A組なんですけど、そのバ ッジを見ると、私と同じ学年みたいですね」 舞子は健夫の制服のバッジを見て、言った。健夫の通う高校は学 年により、バッジの色が違うのである。 「俺はD組、こいつも同じだよ」 「こいつとは何よ」 晴香は文句を言った。 「晴香、救急車、呼んできてくれないか。倒れてるあいつらを何と かしてやらないと」 健夫は倒れている二人の男子学生を見て、言った。 「わかった」 晴香は駐車場を急いで、出ていく。 「私も何か手伝いましょうか」 舞子が言った。 「その前に君に聞きたいことがある。パンプキンヘッドは何で君を 狙ったんだ?」 「わかりません。道を歩いていたら、いきなり現れて、私を駐車場 へ引きずりこんだんです」 「心当たりは何にもない?」 「いえ、特に。−−あっ、そういえば、あの人、妙なことを言って ました。おまえはブツと交換する大事な人質だって」 「人質?どういうことだろう」 健夫は考え込んだ。 しかし、その答えを得るのに長くはかからなかった。なぜなら、 その夜にもパンプキンヘッドは次なる行動を起こしたからである。 つづく