#2・「バッタの味見」  「腹が減ったなぁ…」と、男は思った。  何しろ彼が、ここ三日の間に口にした物と言えば、 水筒の中の水だけだったのだから。  木々がうっそうと茂る深い森の中で、男は深い溜め息をついた。  彼の名はボルス、探検家であり、新大陸を探検するためにこの地を訪れ、 ジャングルの中で道に迷ってしまったのだ。  食料は3日前にそこを尽きており、もう助かる見込みはなさそうだった。  ディルトンは言った、 「はぁ…、フォアグラとキャビアとスシとフカヒレのスープとタコスを 腹いっぱい食えたらなぁ…」  彼の名はディルトン、元貿易商の探検家であり、 友人のボルスに頼まれて新大陸探検のために探検隊を組織、および資金提供をし、 ついでにむりやり頼み込んでついて来て、 共にジャングルの中に踏み込んでいったのであった。  しかし襲いくる野獣や虫、加えて病気や現地人のガイドの逃亡などもあって、 結局隊はばらばらになり、ボルスとディルトンは二人だけになってしまった。  「何を言ってるんだ!こういう時は『早く帰って、うまい飯でも食いたいなぁ』と、 こういうものだ」と、ボルスは答えた。 「君はほんとに呆れた奴だな。 こんな所にいてもまだ見えを張らずにはいられないのか!。 いいかい、地図もないし、コンパスは失くしたし、食料も食べ尽くしてしまった。 生きて帰れる可能性はゼロなんだよ!」 「まぁそう言うな、この間の村にいた原住民の話では、 この辺にはとてもでかいバッタがいるらしい。 それを取って食えば何とか命をつなげるはずだ」 「そんな虫が本当にいるのか?」ディルトンは不安げに聞く、 「だいたいどうやって捕まえる気だい?網なんて持っていないぞ?」 「銃で撃てばいいさ。射撃は嫌いじゃないんだろ?」  そんなことを話している時だった。  ふたりは何者かが近づくのを感じて振り向いた。 そしてぎょっとした、嚼をすれば何とやら…、 そこには1メートルもありそうな巨大なバッタがこちらを見ていたのだ。  ふたりはとっさに銃を構えて撃とうとした。しかし弾丸が出ない。 どうやら弾丸が入っていないらしい。  しかし弾丸を入れ替える間もなく、バッタは方向転換をして帰ってしまった。 「何と言うことだ!せっかくの食べ物を逃してしまった!。 今の内に早く弾丸を入れてしまおう。」と、ボルス。 「それにしてもあんなに大きいとは…せいぜい30センチかそこらだと思った…。 あんなのに襲われでもしたらたまったものじゃないぞ!」 と、ディルトンが言った時!、ボルスは叫んだ!、 「おや?隠れろディルトン!この音はきっと猛禽だ!しかもでかいぞ!」  バサバサバサ…、と音がして、ディルトンとボルスはそちらを見た。  その方向にいたのは何と!、蝶だった!。蝶の大群が高い所を飛んでいるのだ!  その光景にふたりは呆気にとられた。だが「何か不自然だ」と思った。  その原因に気づいたのは、蝶がもうすぐ近くに来た時だった。 「そうか!大きかったのか!」ふたりは一目散に逃げ出した!。 …動けなくなるほど走って何とか逃げきれた。しかしどうやらここまでのようだ。  あそこのやぶの中でゴソゴソしているのは恐らく……。 <>