マンガを読んでいた男は、誰かに揺さぶられているような気がして、目が覚めた。 「気がつきましたか、村川龍二さん」  吉川が、強く、確かにそういった時。マンガを読んでいた男は、呆然として・・・  む、ら、か、わ、り、ゆ、う、じ。  この言葉の意味を考えているフリをしていたが・・・ 「なぜ、私の名を・・・」  そう、がっくりして、呟いた。 「この黒服男に聞いたんですよ。この男は山内組というヤクザの一員で、金を貸しては、証文をこっそり書き換えて、高い金をふんだくっていたんだ。今回も、十万円の、「十」のうえに線を一本入れて、「千」にして、1000万円要求してたんだとさ」  吉川はそういって、ヤクザの腕に、手錠をかけた。 「あなたは、その1000万円という、ウソの金を返せず、返さないと殺すって、脅迫されて、逃げてきた。その途中で頭を打って、少し前の事を忘れる、健忘症(けんきしょう)になってしまったんです。あなたが、同じマンガで何度も笑っているのを見て分かったんですよ。  でも、名前を忘れたのは、ウソでしょう?  健忘症では、昔知ったことは忘れないんですから」 「・・・そのとおりだ」  村川は、元気なく言った。 「まあ、今回はヤクザの方が悪いですが、あなたが借金をすぐに返さなかったことがその原因だったんですからね。そこ、よく覚えておいてくださいよ」  そう言って吉川は、ヤクザを連行していった。