GOGO!!ハッピーエンジェル はぁい、みなさん、コンニチハです。 あたし、天界福祉事務所からきた幸福宅配天使、メアリーですの。 今日も人間界の不幸な人たちのために幸せを配りに行くんですの よ。 頑張らなくちゃ 「ええと、ココですわね」 メアリーは空からボロアパートを見つけると、手に持った写真と 見比べた。 メアリーは外見上は五才ぐらいの女の子。背中に小さな白い羽を 持ち、左手に手提げの白バック。服は白い布を頭から被っていると いう感じであった。 「汚いアパートですのね。どんな人が住んでいるのでしょ」 パタパタと羽を動かしながら、アパートの窓に近寄った。 「キヨタさん、キヨタさぁーん」 メアリーは窓を叩いた。 しかし、返事がない。 「キヨタさぁん」 メアリーはまた窓を叩いた。 おかしいですわね。ちゃんと在宅確認をしてきたですのに。 メアリーは仕方なく窓を動かしてみた。 うわわ、開きますわ。じゃあ、ちょっとだけ。 メアリーは窓を半分ほど開けた。 と、突然、 ガァー、ガァー、グォー と物凄い音が聞こえてきた。 「な、何なんですの」 メアリーは目をシロクロさせた。 見ると、部屋には男が布団の上で大の字になって、大いびきをか いて寝ていたのだった。 「まあ、寝ていらしたのね」 メアリーは窓から部屋に入ると、寝ている男の枕元に降りた。 「ネエネエ、キヨタさん、起きてくださいよ。あなたはキヨタさん でございましょ」 メアリーは男を揺り動かした。しかし、男はてんで起きようとし ない。 「ガンコですね。仕方ありません、起床バズーカをおみまいです」 メアリーはバックからバズーカ砲を取り出した。 「行きますわよ、後悔しても知りませんからネ」 メアリーは男の顔に向けて、バズーカ砲を構えた。 「ゴオ、ヨン、サン−−」 メアリーが勝手にカウントを始めていると、男がふっと目を覚ま した。 なんだ?!!!! 目の前のバズーカ砲に男は仰天した。 「−−ニィ、イチ」 「誰だ、てめえは」 男はすっくと立ち上がると、メアリーからバズーカ砲を奪い取っ た。 「ア、アノ、アタクシですね」 メアリーが苦笑して、説得しようとしたが、時すでに遅し。 「人ん家に勝手に入るんじゃねえ」 男はメアリーの手を掴んで、窓の外、上空へ投げつけると、手に したバズーカを発射した。 ドーン ヒュルヒュル ピカッ ドカーン メアリーは上空で塵となって消えた。 「−−なわけないでしょ」 メアリーは逆に砲弾をバットで打ち返した。 砲弾は真っ直ぐ男の部屋の窓へ飛び込んだ。 ドーン ヒュルヒュル ピカッ ドカーン 男の部屋は塵となって消えた。 「おまえ、俺に何か恨みでもあるのか」 清田正夫はメアリーを睨み付けていった。 「アラ、あたくし、そんなこと。キヨタさんが悪いんですのよ、起 きないから」 「おまえは人が起きないとアパートをぶっ壊すのか」 清田はすでに廃墟と化したアパートを指さして、言った。 「心配いりませんわ」 「何で」 「アタクシ、申し遅れましたけど、天界福祉事務所の幸福宅配天使、 メアリーなんです」 メアリーは名刺をさしだした。 「それで」 清田は無愛想に言った。 「今回、アナタが見事、幸福プレゼントに選ばれたんです。なんと 一回だけ願いをかなえてさしあげますのよ」 「馬鹿らしい。弁償しろ」 「アラ、弁償するのがお願いですのね。イイデスワ、では」 メアリーがバックからバトンを取り出し、魔法を掛けようとする。 「ああ、ちょっと待て」 清田はある考えが浮かんで、メアリーを止めた。 「何ですの」 メアリーは清田を見て、言った。 「おまえ、本当に俺の願いを何でもかなえてくれるのか」 「もちろんですわ、アタクシ、幸福天使ですもの」 「本当だな」 「天使はウソをつきませんわ」 「よし、決めた。願いを言うぞ」 「いいですわ」 「ようし−−」 清田は願いを言おうとしたが、いざ願いというとなかなか出てこ ない。 「早くしてください」 「待てよ、どうせなら三つにしてくれよ」 「駄目ですよ」 「何だと、人の部屋、破壊したくせに」 「うっく、それは事故ですわ」 「何が事故だよ」 「わかりました、直します。それが願い事ですのね」 メアリーがバトンを振り上げる。 「わぁ、待て。悪かった」 清田は引き止めた。 「判ればいいんですのよ」 メアリーは偉そうなことを言った。 「全くケチだな」 清田は腕を組んで考え込んだ。 さあて、どうするかな。こいつのいうことは、はったりかどうか わからねえが、変な羽つけて飛んでる以上、普通のガキじゃねえこ とは確かだ。ここは一つ、真剣に考えてみよう。 清田が呑気に考えている間にも、崩れさったアパートの前では野 次馬が集まり、その中で警察や救急隊員が活動に当たっている。 「早くしてください。こう見えても、天使は忙しいんですのよ」 メアリーは時計を見ながら、催促した。 「決めた」 そういって、清田が腕を組むのをやめた。 「願い事は何ですの」 メアリーがメモ帳と天使の羽のペンを取り出す。 「金だ」 「お金ですか、わかりました」 メアリーがコクンとうなづいた。 やけに簡単に納得するな 「おい、ガキ」 「ガキではありません。メアリーですわ」 「金って何だかわかってんだろうな。お寺の鐘でも、工事現場の鉄 クズでもないぞ」 「アタクシ、バカではありませんことよ。お店で買い物ができるお 金でしょう」 「そうだ。しかも、硬貨じゃないぞ、福沢諭吉の一万札を最低でも 一万枚以上だ」 「いろいろうるさいですわね。それで、いいてすか」 「いや、まだだ。それからな、札は全て使い古しだ。出す時はちゃ んとトランクに入れてくれよ。それから−−」 「まだ、あるんですの」 「それだけでいい。とにかく、頼んだぞ」 「わっかりました。この場で出していいんですのね」 「いや、ここじゃまずい。他へ行こう」 そうして、清田はメアリーを人けのないビルの裏まで連れてきた。 「さあ、頼む」 清田は期待を込めて、言った。 「はぁいの」 メアリーはバトンを振り上げ、呪文を唱えた。 「ロデイマンマチイ、ツサンエンマチイノチキユワザクフ」 メアリーが地面にえいっとバトンの先を向けると、稲妻のような 光線が出て、どーんと煙が上がった。 「おお」 清田は感嘆の声を上げた。 煙が引くと、そこには三つの鉄製のトランクがあった。 清田は海に飛び込むようにそのトランクにぱっと飛びついた。 そして、子供のように目を輝かせながら、トランクを開けた。 「うおおおお」 清田はさっきよりも一層高い声を上げた。 トランクの中には見事、ぎっしりと詰まった一万円札があったの である。 「これでいいですね」 メアリーがどうだとばかりに自慢げに言った。 「ああ、最高だよ」 清田は札束を手にして、まだ信じられないといった様子で言った。 「御満足してくれて、嬉しいですわ。アタクシも天使の仕事が出来 て満足ですのよ。事務所の同僚がいつも言うんです。オマエはいつ もドジばかりやって、人を不幸にしてるって。そんなことないです わよね」 「ああ、最高の天使だよ」 清田はすっかり札束に心酔している。 「マァ、イヤですわ。アタクシ、困ってしまいます。どうしようか しら。キャア、はずかしい」 メアリーは一人で照れている。 プルル、プルルーー その時、メアリのヘアバンドが点滅した。 「ああら、呼び出しですの。じゃあ、キヨタサン、アタクシ、失礼 しますの」 「ああ」 清田はまるでメアリーのことなど眼中にない。 「それでは、サヨナラですの」 メアリーはパタパタと羽を動かして、空へ飛んでいった。 地上ではまだ清田が札を眺めていた。 それから数日後。 天界福祉事務所では−− 「ふええ、失敗でしたのぉ」 メアリーは結果報告書を読んで、驚きの声を上げた。 「そうだ。おまえは見事に失敗した」 課長天使は銀縁の眼鏡のレンズを拭きながら、言った。 「何でですの、キヨタさんはあんなに喜んでたんですのよ」 メアリーはそんなそんなとばかりに体を左右に振った。 「彼はおまえからもらったお金をほとんど使わずに、ごみ箱へ捨て てしまったそうだ」 課長天使は眼鏡をかけた。 「どしてですの」 「おまえは使い古しの一万円札をどこから出した?」 「それはもちろん決まってますわ。他の人の持っているお金から全 て吸い上げましたわ」 「バカモン!!!」 課長天使は机をドンと叩いた。 「ひええ」 メアリーは萎縮する。 「天使ともあろうものが、他人からお金を取るとは何事だ」 「でも、カチョウサマ、一人の人を幸福にするためには、多少の犠 牲も必要だと言いますわ」 「誰がそんなこと言った?」 「さあ?きっと孔子か聖徳太子か何かが−−」 「そんなことはいっとらん」 課長天使はメアリーの言葉を一蹴した。「とにかく、彼は回りに 人間が急に貧乏になったのを見て、自分だけ金を持ってることに、 しかもその金が回りの人間から吸い上げたものと知って、良心の呵 責に耐えかね、やりきれなくなったんだ」 「難しくて、アタクシにはわかりませんですけど」 「要するに、謝りに行ってこい」 「なぜですの、アタクシはちゃんと願いを叶えて差し上げましたの よ」 「いんや、おまえの説明不足が原因だ」 「うっく、そんな、ヒドイですわ。メアリーちゃん、何も悪いこと、 してないのに」 メアリーは爪を噛む。 「うるさい、とっとと行かんか」 課長天使をメアリーの襟首を掴むと、大きく振りかぶって、窓の 外へ投げ飛ばした。 「ヒョエエエーー」 メアリーは天空の彼方へ消えていった。 「いた、いた」 メアリーは空から公園のベンチでぼんやりと座っている清田を見 つけると、静かに下へ降りた。 「キヨタさん」 メアリーは清田の隣に座って、声を掛けた。 「ああ、おまえか……」 清田はメアリーを見て、笑った。その表情はどこか冴えなかった。 「元気ないですのね」 「そんなことねえよ」 「アパート、引っ越してしまわれたんですのね」 「壊れたアパートには住めないからな」 清田は空を見上げながら、言った。 「今日はいい天気ですのね」 「そうだな」 メアリーは話題を振るが、ちっとも乗ってこない。 「お金、どうしたましたの」 「ああ、あれか。折角、おまえにだしてもらったんだけど、使えな かったよ」 清田は寂しそうな顔でいった。 「何でですの?」 「あの後さ、町中で、金が消えたって大騒ぎになったんだ。その後、 店じまいや夜逃げする連中が増えて、大変だったんだ。その一方で 俺はたんまりと金を持っている。使おうと思えば、使えたけど、金 を使うたびに他の人間が苦しい思いをしていると思うとね。それに 警察がいる来るか恐くてたまらない毎日だった」 清田は苦笑した。 「アタクシが悪いんですのね」 「そうじゃねえよ。確かにアパートはぶっ壊されたけど、一時的に でも大金を手に入れる夢を味あわせてくれたんだ。充分だよ」 「けど、今は不幸なのでございますのでしょう」 メアリーは清田の顔をじっと見た。 「そうでもないさ。金っていうのはやっぱり働いて手に入れるもの だって言うのがよくわかったからね。不当に手に入れた金は必ず誰 かを不幸にする。それが分かっただけでも幸せだよ」 「それでは困ります。そうだ、もう一度、お金を出しますわ。新し いお金なら、大丈夫ですわ」 メアリーはバトンを取り出す。 「もういいよ」 清田は首を横に振った。 「何でですの?」 メアリーにはよくわからなかった。 「もういいんだったら」 「だったら、別の願いをーー」 「その気持ちだけで充分だよ」 清田はメアリーの頭を撫でた。 「いいえ、かなえます」 メアリーはぽんと飛んで、ベンチから降りた。 「ロデヨカネ」 メアリーは呪文を唱え、バトンをえいっと地面に振り下ろした。 ビビビッと稲妻の光線が出て、煙が上がる。 そして、すうっと煙が消えるとーー 「ん?」 清田はじっとそれを見た。 地面の上には靴の半分ほどの大きさの小さなお寺の鐘があった。 ふと見ると、もうメアリーの姿はなかった。 清田がその小さな鐘を拾い上げようとすると、そばに手紙があっ た。清田はその場にしゃがんで、手紙を開いた。 キヨタさん、ごめんなさい。アタクシは何をしていいのかわから ないけど、その魔法のおカネを差し上げます。どぞ、受け取ってく ださいませ。 メアリー 清田は鐘を手に取り、親指で軽く叩いた。 ゴオオーン 不思議なことに手にもったままで、その鐘はお寺の鐘のように響 きわたった。 「ありがとよ、幸福天使さん」 清田はニコッと微笑んで、その鐘をジャンパーのポケットに入れ ると、公園を後にした。 空はいつのまにか真っ赤な夕焼けになっていた。 終わり