第41話「プレゼント」 1 ある夜のこと、風呂から上がった椎野律子は、自分部屋へ行く途 中で居間にいる妹の美佳に声をかけた。 「美佳、お風呂、空いたわよ」 「うん、わかった」 美佳は壁のカレンダーにサインペンで丸を付けながら、言った。 「何、印してんの?」 「この日付見てわかんない?」 「日付?」 律子はカレンダーの日付を見た。24日にところに丸がしてある 。「何の日かしら?」 「わからないの?クリスマスよ、クリスマス」 美佳は当然といった感じで答えた。 「クリスマスがどうかしたの?」 「ああ、やだ、やだ。彼氏のいない人は」 「な、何よぉ」 「デートに決まってるでしょ。今度のクリスマスイブ、隆司とホテ ルで過ごすの」 「ホ、ホ、ホテル!!!」 律子がすっとんきょうな声を上げた。 「なに、驚いてるのよ」 「だ、駄目よ。あんたたち、まだ高校生でしょ。姉さんは許さない からね」 「大丈夫よ、ただ二人一緒に過ごすだけなんだからぁ」 「そんなの信じられるわけないでしょ。仮にも男女が同じ宿に二人 きりになったら……」 「心配性だなあ。わかったわよ、じゃあ、隆司のアパートへ行くわ 。それならいいでしょ」 「そうね、それなら−−いいわけないでしょ、もっと悪いじゃない !!」 「じゃあ、どうすればいいのよ」 「うちへ連れてきなさいよ。そうすれば、私も安心だし」 「やあよ、それじゃあ、二人きりの夜を過ごせないじゃない」 「いいのよ、別に過ごさなくたって。とにかく、二人きりでホテル なんて駄目よ。そんなことしたら、出ていってもらうからね。さあ 、とっとと風呂に入りなさい」 律子はそういうと、鼻唄を歌いながら、自分の部屋に入っていっ た。 「くう、くやしい!姉貴め、自分がクリスマスに誰も誘ってもらえ ないものだから、私に意地悪してんだわ」 //まあ、いいじゃないですか。それより、昨日、デパートで買 ってたマフラー、隆司君へのクリスマスプレゼントなんですか? 黄金のファレイヌことエリナが尋ねた。今は、エリナは人形に変 形している。 「え、ああ、そうよ」 //夏ごろから編んでたマフラーはプレゼントしませんの? 「え……あれはもういいのよ」 美佳の口ぶりが急に重くなる。 //冬になったらあげるんだって張り切っていたじゃありません か。わたくしは手編みのマフラーをプレゼントした方が隆司君は喜 ぶと思いますけど 「そ、そうよね、エリナもやっぱりそう思う?」 //ええ 「エリナ、ちょっと来て」 美佳は自分の部屋へ行った。エリナは不思議に思いながらも美佳 の後をついていった。 「これを見てくれる」 美佳は箪笥の2番目の引き出しを開けると、そこから紙袋を取り 出した。そして、その紙袋から水色のマフラーを出した。 //マフラー、出来てるんじゃないですか 「うん、一応ね」 美佳は歯切れの悪い答え方をした。 //何か不都合でも? 「うん……これ見てくれる」 美佳はマフラーの両端を両手で持って、ぴんと広げた。 //あっ エリナは小さな声を上げた。マフラーには大きな穴があいていた 。 「そう、虫に食われたのよ」 //虫ですか 「毛糸を食う虫なんていないと思ってたのにぃ。先月、完成して、 箪笥に入れておいたんだけど、昨日、取り出してみたらこのざまよ 。ああ、ショックだわ」 美佳はバタンとベッドに寝ころんだ。 //それで新しいマフラーを買ったんですか 「そうよ。こんなもの、あげられないでしょ」 美佳は天井を見上げながら、言った。 //わたくしはそうは思いませんわ。やっぱり買った物より美佳 さんの愛情のこもったマフラーの方が 「隆司に穴空きマフラーをあげろって言うの!」 //いえ、そういうわけじゃありませんけど。そうですわ、今か らもう一度、編んだらいかがです。まだ、三日、ありますわ 「無理よ。裁縫の才能のない私が4か月もかかってやっと編んだマ フラーなのよ。三日じゃ無理よ」 //4か月と言っても美佳さん、結構、さぼってたじゃないです か 「うっ……そんなの私の勝手でしょ。とにかく、無理なものは無理 !」 //いいんですか、そんなこといって 「な、何よ」 //前に隆司君が入院した時、美佳さん、彼に秋に本当の誕生日 プレゼントをあげるって約束しましたでしょ。 「そ、それは−−」 //それが延びに延びてクリスマスプレゼントになったのでしょ う。そのクリスマスプレゼントが出来合いのマフラーでいいんです か 「エリナ、痛いところをつくわね」 美佳はベッドから起き上がった。 //私も手伝いますから、マフラー、作りましょう。三日も徹夜 すれば何とかなりますわ 「わ、わかった、頑張るわよ」 何かエリナにうまくのせられたなと思いつつも、承諾する美佳で あった。 2 翌日、椎野美佳は、アニメのアフレコからの帰りに北条隆司のア ルバイト先のガソリンスタンドに立ち寄った。 「何だ、美佳じゃないか」 ガソリンポンプに横付けされた車にガソリンを入れていた北条は 歩道に立っている美佳を見つけると声をかけた。 「ちょっと寄っただけなんだ」 美佳はあまり元気のない声で言った。 北条は客の車を送り出してから、美佳のところへ歩み寄った。 「どうした、何かあったのか」 「ううん、ちょっと徹夜しただけ」 美佳は笑ってごまかした。 「ふうん。ちょっと待ってろ。休憩、貰ってくるから」 北条はそういうと、ガソリンスタンドの奥の事務所の方へ走って いった。 * * * * * 「元気でやってる?」 美佳は北条と一緒に近くの喫茶店に入ると、とりとめのない話題 を振った。 「俺の方は元気さ。それより、美佳の方はどうなんだよ。仕事があ るのに徹夜なんかして。何かあったのか」 「何にもないよ。深夜テレビを見てただけ」 「仕方ないな」 「ねえ、隆司」 「ん?」 「今度のクリスマスなんだけど、プレゼント、期待してる?」 「何だよ、急に」 「うん、ちょっとね」 「美佳が夏からずっとほのめかしてきたプレゼントだろ。楽しみだ な」 「そんなに楽しみ?」 美佳が念を押すように聞いた。 「ああ」 「そう……」 美佳は肩を落とした。 「どうした?」 「え、な、何が?」 「変だぞ、今日のおまえ」 「そ、そんなことないよ。プレゼント、楽しみにしてて」 美佳はニコッと微笑んだ。しかし、内心はひどく落ち込んでいた 。 3 夜7時、律子は会社を出ると、そのまま同僚たちと一緒にカラオ ケバーへ行った。 律子はあまり飲める方ではなかったが、その夜はのっけからジョ ッキのビールを一気飲みするなどして、30分もしないうちにベロ ンベロンに酔ってしまっていた。 「ビール、もう一杯!!」 律子はウエイターに大声で注文した。 「ちょっと律子、ペース早いわよ。もう5杯目じゃない」 同僚の石田里子が心配していった。 「いいろ、いいろ、わらしは今日は飲みたい気分らの」 「何かあったの?」 「別にぃ。それより、早くビール!!」 律子は両手をばたつかせた。 「もう仕方ないわね」 石田は大きくため息を付いた。 * * * * * 「もう11時か」 居間でマフラーを編んでいた美佳は、柱の掛け時計を見上げて、 呟いた。昨夜の徹夜とエリナの協力にもかかわらずマフラーは三分 の一も出来ていない。 ピンポーン、ピンポーン その時、玄関のベルが鳴った。 「姉貴かしら」 美佳はソファから腰を上げ、居間を出ると、玄関へ行った。 「どちら様ですか」 と美佳がドア越しに言うと、 「だらいまぁ、お姉ちゃんですよぉ」 という律子のでかい声が聞こえてきた。 「姉貴、酔っぱらってるな」 美佳は嫌な顔をしながらも、チェーンを外して、ドアを開けた。 「美佳ちゃぁん」 その途端、酒の匂いをぷんぷんさせた律子が美佳に両手を広げて 抱きついてきた。 「くさーい、ちょっと抱きつかないでよ」 美佳は顔をしかめて、律子を引き離す。 「美佳!勉強、やっとるか!」 律子は大声を上げながら、家に上がる。 「ちょっと姉貴、靴履いたまま、家に上がらないでよ」 美佳は慌てて律子の靴を脱がした。 「お姉ちゃん、久しぶりによっぱらっちゃったぁ」 律子はふらふらと千鳥足状態になりながら、あっちこっちの壁に ぶつかっている。 「美佳、水ぅ!」 律子はそういいながら、居間の方へなだれ込んだ。そして、床に うつ伏せで大の字になった。 「もう酒弱いくせに飲むんだから」 美佳は仕方なく台所を行って、コップに水を入れてきた。 //み、美佳さん! その時、エリナが慌てた様子でDKに来た。 「どうしたの?」 //律子さんが 「姉貴がどうしたの?」 //吐いてます 「は、吐いてる!!」 美佳の顔が真っ青になった。 コップの水をテーブルに置いて、すぐに居間に駆けつけると、律 子が床に吐いている。嘔吐特有に嫌な匂いが部屋に立ち込めている 。 「もう、姉貴のバカ!」 美佳は思わず声を上げた。 「ううっ、気持ち悪い」 律子はゆっくりと起き上がった。 「ほら、早く服脱いで!!エリナ、雑巾と新聞紙持ってきてよ」 美佳は慣れたようにてきぱきと対処にあたった。律子を寝巻に着 替えさせて、律子の部屋のベッドに寝かせた後、居間の掃除をした 。 「あーあ、もう絨毯、替えなきゃ駄目ね」 床を雑巾で拭きながら、呟いた。 //でも、律子さんがあんなに酔うなんて初めて見ましたわ 「きっと会社で嫌なことでもあったんでしょ。たまに飲むのよね、 突然に」 //美佳さん、どうします 「何が?」 //マフラーですわ 「マ、マフラー?も、もしかして」 //ハイ、すっかり汚れてしまいました 「ガーン」 美佳はへなへなとその場に倒れ込んだ。 //大丈夫ですか 「駄目、立ち直れないかもしれない……」 美佳は情けない声で言った。 4 夜の公園の並木道。美佳と北条の二人が腕を組んで歩いている。 「あの、隆司」 美佳が北条の顔を見上げた。 「何だい?」 北条が優しく言った。 「プレゼント、あげるね」 「ここでかい?」 「うん。誰よりも隆司に最初に見てほしいから、この場所で」 美佳は隆司の腕を放すと、肩にかけていたバックからリボンで結 んだプレゼントの箱を取り出した。 「はい、どうぞ」 美佳はプレゼントを差し出した。 「随分大きな箱だね」 北条はプレゼントを受け取った。 「うん、その分、愛がいっぱい詰まってるの」 「ありがとう。ここで開けていい?」 「もちろんよ」 美佳はにっこり笑って、頷いた。 北条はリボンと包装紙を取り、プレゼントの箱を開けた。 「わあ、マフラーだね」 北条は嬉しそうな声を上げた。 「そう、マフラー、隆司のために編んだの」 「そうか、嬉しいよ。俺、明日から自分のバイクにつけるよ」 「え?」 美佳は驚いて、箱の中を見た。 「これは−−」 箱の中にはバイクのマフラー(消音器)が入っていた。 「ひえぇぇぇ、違う、こんなんじゃないよぉ……」 * * * * * 「ううん、隆司、違うんだよ、私があげたかったのは……」 美佳は散々寝返りをうちながら、はっと目覚めた。 「夢か−−やな夢だった」 美佳はベッドから起き上がると、大きくため息をついた。 //美佳さん、うなされてましたけど、何かあったんですか エリナが美佳に声をかけた。 「何でもないの、ちょっと悪い夢、見ただけ」 美佳はそういうと、またベッドに寝た。 5 クリスマスイブ−− 美佳と北条は夜までの時間をつぶすため、バイクで郊外の川原へ 遊びに出かけた。そこでは子供たちが石を川に投げたりして、遊ん でいる。 「たまにはこうやって散歩するのもいいね」 「そうだな」 バイクから下りて、北条と美佳は川沿いの歩道をのんびりと歩い ていた。 「これで子供でもいたら、夫婦って感じね」 美佳は北条の肩に身を寄せた。 「いつかそうなるといいな」 「隆司」 美佳は北条を見つめる。 「いつかだよ、いつか」 北条が照れくさそうに言った。 美佳は北条と歩きながら、プレゼントのことを考えていた。 結局、プレゼントに最初に作った穴空きマフラーを持ってきちゃ ったけど、これでよかったのかな。けど、出来合いの物を上げたら 、隆司に嘘付くことになっちゃうし、でも、穴空きマフラーだって プレゼントとしては最低だわ。あーあ、姉貴の奴がマフラーを台無 しにしなければ、新しいマフラーが編めてたかもしれないのに!ど うしようかな。正直に本当のこと話そうかな 「ねえ、隆司」 美佳は思い切って北条に声をかけた。 「ん?」 「あの、プレゼントなんだけど」 その時、向こうから小学生くらいの子供が血相を代えて、走って きた。 「何だろう」 「え?」 子供は美佳たちの前で走るのを止めると、一度呼吸を整えてから 喋り出した。 「お兄ちゃん、助けて!シュンちゃんが溺れてるの」 「シュンちゃん?」 「ねえ、早く助けて。シュンちゃん、死んじゃうよ」 子供は北条の手を引っ張った。 「隆司」 美佳が北条を見る。 「そうだな、行こう」 北条と美佳は子供のあとをついて、走り出した。 三百メートルほど行くと、数人の子供たちが集まっているのが 見えた。 「ほら、あそこ、シュンちゃんが」 子供たちの一人が川の方を指さした。すると、川の真ん中辺りで 子供が両手をばたばたさせながらかろうじて顔だけを出して、溺れ ている。川はいつもより水かさがあり、流れが速かった。 「昨日の雨で川が増水してるんだな。ようし」 北条は上着を脱いで歩道から川原に下りると、走って川に入って いった。 「君達、すぐに救急車を呼んできて」 「うん」 美佳が指示すると、子供たちが散らばって、方々の道を駆けてい く。 美佳も北条に続いて、歩道から坂を伝って川原に下りた。 北条はもう川の真ん中近くまで来ていて、溺れている子供との距 離は1メートルくらいだった。しかし、水かさは北条の胸の辺りま であった。 「隆司、頑張って!」 美佳は大声で言った。 「よし、捕まえた」 北条は思い切って手を伸ばし、子供を抱き抱えた。 「やった」 美佳が飛び上がって、喜ぶ。 だが、その瞬間、北条と子供の姿が水の中に消えた。 「隆司!」 美佳が叫ぶ。 だが、すぐに北条と子供の顔が水の上に現れた。しかし、二人は 立っていられる状況ではなく、水に流されていた。 「隆司、大丈夫?」 美佳が大声で呼びかける。 「駄目だ、川の流れが早過ぎる」 北条は左手に子供を抱え、懸命に川岸に向かって泳いだが、流さ れるばかりで一向に岸に近づかなかった。 美佳は何度も北条の名を呼びながら事の推移を見守っていたが、 そのうち北条の方も溺れそうになってきているのが見て、分かった 。 「どうしたらいいの。そうだわ、マフラーよ」 美佳はバックから水色のマフラーを取り出すと、一方の先端で川 原の小石をくるんだ。そして、川に数メートル入り、マフラーの一 方をしっかり握り、石をくるんだ方のマフラーを北条に向かって投 げた。マフラーが一端が石の勢いで真っ直ぐ伸びるが、150セン チ程度のマフラーの長さでは北条のところまではとても届かなかっ た。そうしてる間にも北条たちはどんどん下降へ流されていく。 「もう少し川に入らなきゃ」 //駄目ですわ、そんなことすれば美佳さんまで溺れてしまいま す と美佳の十字架のペンダントとしてかかっているエリナが言った 。 「じゃあ、どうすればいいのよ」 美佳は今にも泣き出しそうな様子で言った。 //わたくしがワイヤーになりますわ 「そっか。チェーンジ ワイヤー!」 美佳が叫ぶと、金色の十字架が変化し、リングとなって美佳の右 手首に装着された。 「エリナ、頼んだわよ」 美佳は右手をどんどん離れていく北条たちに向けた。 グォーン 右手首のリングから矢じりをつけたワイヤーが発射された。金色 の矢じりはぐうーんと飛んで、水の中に落ちた。そして、既に海中 の中に沈んでいた北条と子供の体にぐるぐるに巻きついた。 //今ですわ 「ようし」 美佳は川から出ると、どんと足を地に付けた。「さあ、巻き戻し て」 するとワイヤーがぐんぐんとリングに吸収され、二人を引っ張っ ていく。美佳は逆に引っ張られないようにと地面に必死にはいつく ばっていた。 数秒後、ようやく浅瀬に二人の姿が現れた。 「もういいわ」 美佳の言葉で二人に巻きついたワイヤーが解け、そのまま、する するっとリングに吸収された。 「隆司!」 美佳はすぐに二人の側に駆け寄った。二人は気を失ったように動 かない。 美佳は何とか二人を川原まで背負ってくると、そこに寝かせた。 「ねえ、しっかりして」 美佳は北条と子供の頬を叩いた。 「うう、ごほ、ごほっ」 北条の方が意識が戻ったのか、急に咳き込み始めた。 「隆司!」 喜びの余り美佳が抱きついた。 「み、美佳……た、助かったのか。子供は」 「それが動かないの」 美佳は北条の隣で寝ている子供を見て、心配そうに言った。 北条はすぐに起き上がって子供の脈を取った。 「どうやら、ゴホッ、脈はあるみたいだ。よし、人工呼吸だ、美佳 」 「私、出来ないよ」 「俺じゃ呼吸が乱れてて駄目だ。やり方を教えるから、頼む」 「でも、隆司以外の人とキスするなんて」 「何、くだらないこと言ってんだ。早くやれ!」 「うん」 美佳は小さく頷いて、北条の指示どおり子供に人工呼吸を施した 。 しかし、結局、美佳の人工呼吸はあてにならず、その後、すぐに 駆けつけた救急隊員による正式な人工呼吸によって子供は辛うじて 呼吸を回復したのであった。 6 「美佳、済まなかったな。せっかくのクリスマスイブだったのに」 病院へ向かう救急車の中で、北条は美佳に謝った。 あの後、北条自身は大丈夫だと言ったが、救急隊員に聞き入れて もらえず、北条は強引に救急車の担架に乗せられてしまったのであ る。 「いいよ、また来年があるもん」 美佳はベッドで寝ている北条に優しく微笑みかけた。 「情けないな、溺れるなんて」 北条は苦笑した。 「そんなことないよ。隆司が頑張ったから、あの子は助かったんだ よ」 「そうかな」 「そうよ」 「でも、どうやって助かったのか。何かが巻きついたような気がし たのは覚えてるんだけど」 「さあ、どうしてだろ」 美佳はとぼけた。 「あの川原に水に濡れたマフラーがあったけど、あれ」 北条は美佳を見た。 「あ、あれは関係ないよ。うん、全然」 美佳は慌てて首を横に振った。 「そっか、あれ、プレゼントだったんだな。俺を助けるためにあの マフラーで」 「ち、違うの。あのマフラーは……」 「美佳」 北条は美佳の手を握った。 「隆司……」 「ありがとう。最高のクリスマスプレゼントだよ」 北条が静かに言った。 「な、何よ、そんなこと言われると、涙が出ちゃうじゃない。あの マフラーはどうせ穴空きマフラーだったんだから」 美佳はそういいながら、涙を手でぬぐっていた。しかし、今の美 佳の心の中は嬉しさでいっぱいだった。