第33話「転校生」前編 登場人物 椎野美佳 ファレイヌの使い手。高校生 仁科和美 美佳の同級生 川島幸代 転校生 エリナ 黄金のファレイヌ ペトラルカ 青銅のファレイヌ 1 深夜の対談 バフォメット復活のために遣わされた悪魔の使徒ゼーテースとの 対決から1週間ほどたったある夜のこと、あの対決以来行方不明だ ったペトラルカがひょっこり椎野美佳の部屋を訪ねてきた。 「はい、コーヒー」 美佳は自分の部屋に入ると、持ってきたコーヒーをペトラルカの 前に置いた。部屋には美佳と人形に変形している黄金のファレイヌ 、エリナと20代の女に乗り移っている青銅のファレイヌ、ペトラ ルカがいた。 「私はコーヒーなんか頼んだ覚えないわ」 ペトラルカはつっけんどんな口調で言った。 「それは悪うございましたね。じゃあ、私が飲むからいいわよ」 美佳はその場に座り、ペトラルカの前に置いたコーヒーカップを 取ろうとすると、ペトラルカはすっとコーヒーカップを手に取った 。 「ちょっと飲まないんでしょ」 美佳がムッとして言った。 「気が変わったのよ」 ペトラルカはそういうと、コーヒーを口にした。「ちっ、まずい わね」 −−やな野郎だなぁ 美佳は内心で文句を言った。 「それで何か用なの?」 美佳は心を落ちつけて、尋ねた。 「ええ、椎野律子のことよ」 「姉貴のこと?」 「惚けないで。あなたもバフォメットのことはエリナから聞いてる でしょ」 「ああ、そのこと。聞いてるわ」 美佳はコーヒーと一緒に持ってきたポテトチップを口にしながら 言った。 「どうするつもりなの?」 「どうするって?」 逆に美佳が聞き返した。 「あなた、私を馬鹿にしてるの」 ペトラルカは目を少しつり上げて、言った。 //まあまあ、ペトラルカ、落ちついて。美佳さん、ペトラルカ は律子さんをこのままほっておけば、バフォメットに体を乗っ取ら れてしまうのではないかと心配しているんですわ エリナが穏やかな口調で言った。 「ああ、それだったら大丈夫よ」 美佳はあっさりと言った。 「大丈夫だって?」 「そう。エリナの話だと昔、バフォメットがフェリカの体を支配す るまでには7、8年かかったって言うじゃない。だったら、そう慌 てることもないでしょ」 「馬鹿言うな。おまえは律子の体をバフォメットが支配するまで待 ってるっていうのか」 「そうは言ってないわ。ただ、今の時点ではどうしようもないって ことよ。あなたにしてみれば、姉貴を殺し、姉貴の体内にあるバフ ォメットの培養石を取り出して、それを破壊すればいいなんて短絡 的なことを考えてるようだけど、事はそう簡単には運ばないと思う わ」 「どうして私の考えがわかった?」 「それぐらいわかるわ。あなたは人間の生命の大切さなんてこと、 少しも考えたことないでしょ。平気でマックスウェルさんを殺すぐ らいだから」 「何ぃ!」 ペトラルカは腰を上げた。 //ペトラルカ、落ちついて。美佳さんも私の仲間のことをあま り悪く言わないでください 「ごめん、言いすぎたわ」 美佳は特に反省する素振りもなく言った。 //ペトラルカ、わたくし、律子さんの体に入って培養石の破壊 を試みたんですけど、全く駄目でしたわ。しかも、培養石は律子さ んの心臓近くに張りついてとても取り外せません。それなら、ペト ラルカの言うように律子さんを殺して、ということも考えられます が、でも、培養石を破壊できる保証がない以上、それは危険だと思 うんです。もし培養石を取り出せば、ゼーテースも黙ってはいない でしょう。必ず取り戻しにきますわ」 「じゃあ、どうするのよ」 //いい方法が見つかるまでは今のままにしておきましょう。律 子さんはわたくしと美佳さんがいつでも監視していますから、異変 があれば、すぐに対処できます。 「こんな娘を信用していいのかしら」 ペトラルカは冷やかに美佳を見る。 //もちろんですわ 「わかった、エリナの言葉を信じるわ」 ペトラルカはそういって、コーヒーを飲み干した。「美佳、私は あんたのことは気に入らないけど、一応任せてやるわ」 「それはどうも」 //ペトラルカはこれからどうなさいますの? エリナが聞いた。 「私は仲間にソフィーから聞いた話を知らせにいくわ。いつまでも 対立なんてしてられないもの」 //それは名案ですわ 「あんたにしてはいい案だと思う」 美佳も賛同した。 「あなたに言われたくないわ」 そういうと、ペトラルカは立ち上がった。 「ちょっと待って」 美佳がペトラルカを呼び止めた。 「何か?」 ペトラルカがきりっとした目で美佳を見る。 「トランプやろう!!」 美佳がトランプを出して言った。 「あらっ」 ペトラルカがずっこけた。「あのね、こんな時にトランプなんか やってる場合じゃないでしょ」 「いいじゃない、一日ぐらい。それとも、ペトラルカってトランプ 遊び知らないんでしょ」 美佳がにやにやと笑いながら言った。 「知ってるわよ、それぐらい。いいわ、やったろうじゃない」 ペトラルカは向きになって言った。 「そうこなくっちゃ」 美佳はそういって、左目でウインクした。 //やれやれ、仲がいいのか悪いのか エリナは呆れて、何も言う気になれなかった。 2 転校生 翌朝、美佳は凌雲高校へ登校した。 「おはよう」 美佳が1年C組の教室の入ると、同級生の上田由加が挨拶した。 「おふぁよう」 美佳はあくびの混じった声で挨拶した。 「どうしたの、眠そうな顔して」 「そう見える?」 「うん、目が半開きだし、髪の毛、寝癖がついてる」 「寝癖は余計よ」 「徹夜かなんかしたの?どうせ深夜番組でも観てたんでしょ」 「ふわぁぁぁ」 美佳は一度大きなあくびをして言った。「違うわよ、トランプや ってたの」 「トランプ?」 由加が目を丸くする。 「そう。やたらと負けず嫌いな友達がいてね。おかげで7時間、ぶ っ通しよ」 「へえ、何か凄そう」 「凄そうじゃなくて、凄いの。相手は武器持ってるんだから」 「え?」 由加が驚いた顔をする。 「あ、冗談よ、冗談」 美佳はあわてて否定した。しかし、実際、昨夜のトランプ大会で は、ペトラルカが負けるたびに形相が変わり、結構ひやひやした美 佳であった。 「ところでさ、美佳、今日から転校生が来るの知ってる?」 由加が話題を変えて、言った。 「マジで?うちのクラスに入るわけ?」 「そうみたい」 「それも帰国子女よ」 突然、島村智美が二人の会話に入ってきた。 「ふうん。全然、知らなかった」 「このクラス、死人が出てるから帳尻あわせに入れたんじゃない」 「あんた、恐ろしいこというわね」 美佳と由加は冷やかに智美を見た。 その時、教室のスピーカーからチャイムが流れた。それが鳴って いる間に担任の木村教師が教室に入ってきた。それに続いて見慣れ ない学生が入ってくる。 生徒たちは慌てて自分の席に戻った。木村は連れてきた女生徒を 横に立たせ、教壇の上に立った。 生徒たちの視線は一様にその女生徒の方に注がれていた。 「起立!」 学級委員の栗原初枝が言った。生徒たちが一斉に席を立つ。 「礼!」 彼女の言葉で生徒たちが礼をし、みんな席に座った。 「ええ、ホームルームの前にお知らせがある」 木村は生徒たちの顔を左から右へゆっくりと見ていった。「−− それにしても、みんな、眠そうな顔してるな。まだ夏休み惚けが残 ってるんじゃないのか今日からはびしっといくからな。さて、出席 をとる前にみんなに話しておくことがある。今日からこのクラスに 転校生が入ることになった」 木村は左手を女生徒の方へ指し示した。「今から彼女に自己紹介 をしてもらうので、みんな、静かに聞くように。それじゃあ、君」 転校生は小さく頷いた。 その転校生は肩までのストレートヘアで、目は大きく、眉毛は比 較的濃くて、顔立ちはほっそりとした美しい娘だった。背はこの世 代の女の子にしては高い方で、スカートから下の足は細かった。見 た目にはおとなしい落ち着いた雰囲気を醸し出していた。 「私は川島幸代といいます。前はイギリスの高校にいたんですけど 、両親が東京に転勤してこちらに転校することになりました。早く みなさんとお友達に慣れるよう努力しますので、よろしくお願いし ます」 幸代がお辞儀をすると、一斉に拍手が起こった。 生徒たちは皆、幸代に対し好感を持ったようだった。 「川島はまだ学校に慣れていないから、みんなも積極的に川島を助 けてやってほしい。では、座席だが−−」 こうして、今朝のホームルームは転校生の紹介で終わった。 3 写真 仁科和美は学校から自宅に戻ると、すぐに階段を駆け上がり、2 階の自分の部屋に閉じこもった。 仁科和美、16才。凌雲高校1年生。クラスは椎野美佳と同じC 組だが、美佳との付き合いはほとんどない。小柄で眼鏡をかけたぽ っちゃり顔の女の子である。 和美は部屋の内側から鍵をかけると、思いつめたように机の引き 出しを開け、何かを探し始めた。 しかし、引き出しに目当てのものはなかったため、今度は箪笥に 引き出しを一段ずつおろし、中をあさった。だが、出てくるのは下 着や洋服ばかりで目当てのものはない。 「ない、ないわ。一体、どこいっちゃったんだろう」 和美の言葉には焦りが感じられた。 和美はその後も本棚の漫画や雑誌を一冊、一冊調べたが、とうと う目当てのものは見つからなかった。 「おかしいなぁ。どこへしまったんだろう」 和美は大きく息をついた。「あーあ、こんなに散らかっちゃった 。後で片づけるの大変だよ」 和美は探し疲れて、ベッドに横になった。 その時、ふと壁の上の方に貼ったアイドルの大型ポスターが目に 留まった。 「そうだわ!」 和美は思い出したようにベッドから起き上がると、椅子を台にし て、ポスターに手を伸ばした。 「ポスターの後ろに隠しておいたのよね」 和美はポスターの右上の画鋲を外し、ポスターと重ねて刺してお いた白い横長の封筒を手にした。和美は椅子を下りると、一瞬、躊 躇うかのように間を置いてから、封筒の中身を取り出した。 それは一人の少女の写った写真であった。 和美はその写真を見ると、表情がさっと青ざめた。 「やっぱり芳江の言ったとおりだったわ。まさか、本当に彼らは… …」 和美は急に眩暈がして、ベッドに座り込んだ。写真には今日、凌 雲高校に転校してきた川島幸代が写っていたのである。 4 夕食 その夜、スカイパークマンション503号室では、律子と美佳と 奈緒美の三人がテーブルを囲んで、夕食をとっていた。 「へえ、転校生が入ってきたんだ」 奈緒美がコロッケを口にする前に言った。 「帰国子女でね、秀才でお嬢様タイプって感じね」 と美佳。 「それじゃあ、美佳とは正反対ね」 と律子。 「何が言いたいわけ?」 「頭は悪いし、運動は出来ないし、性格は悪いし−−」 「ちょっと姉貴!」 美佳はテーブルに身を乗り出した。 「冗談よ、半分、本当だけど」 「ところで、美佳」 奈緒美が美佳に言った。 「何?」 「うちの署にね、美佳と付き合いたいって人がいるんだけどね」 「ウソぉ!」 律子が声を上げた。 「おだまり」 美佳が律子を睨み付ける。「誰なの?」 「この間、柄島さんの部屋を警備に来た羽山って刑事だけど、知っ てる?」 「若い人の方?」 「そう」 「思い出したわ。ちょっとしか見なかったから、顔はあんまり覚え てないけど」 「美佳には彼氏がいるのは分かってるけど、一度、羽山さんとデー トしてくれないかな。彼、真面目だし、いきなりホテルに連れ込む なんて事はしないと思うわ」 「当たり前でしょ、そんなの。でも、もし本気で惚れられちゃった らどうするわけ?」 「そんなの絶対ない。あんたの性格知ったら、すぐに逃げ出すわよ 」 律子が大笑いして、言った。 「捨てられた女がでかい口、叩かないでよ」 美佳がムッとして言い返した。 「何ですって」 律子が真顔になった。 「ちょっとやめなさいよ」 奈緒美が慌てて止めに入った。「全くあんたたちはどうしてすぐ 喧嘩するの」 「だって、姉貴が−−」 「美佳がうらやましいんだもん」 律子が思わず本音を洩らした。 「とにかく、美佳、どうする?」 「−−そうね、じゃあ、今度の日曜日、一緒に映画でも見ようって 言っといてよ」 「本当に。助かるわ」 「その代わり、今度、ふぐ料理。連れてってよ」 「あっ、あたしも」 律子も賛同する。 「はいはい、わかったわよ」 奈緒美は、似たもの姉妹とはこいつらのことだなと思いながら、 言った。 5 水晶が光る 翌朝、和美が凌雲高校に登校すると、1年C組の教室では、昨日 転校してきた川島幸代の周りにグループが出来ていた。 幸代は自分の席に座り、同級生の女子数名と楽しげに談笑してい た。 和美は誰に挨拶するでもなく、黙って廊下側3番目の自分の席に 座った。そして、机の上に両手を枕にして、顔を埋めた。 −−あの転校生は本当に悪魔なんだろうか。 和美は目をつぶって、考え込んだ。 あれは6月5日のことだ。石野芳江が学校へ行く道で言ったあの 言葉。 「わたし、明日、死ぬかもしれないわ」 芳江は確かにあの時、そう言った。 芳江は私が高校に入ってから出来た唯一の友達だった。普段から 口下手で人に話し掛けるのにも臆病だった私は入学してから一月ぐ らい全く友達が出来ず、時々、言葉を交わすことはあっても、その 場限りだった。私はもともと漫画さえ描いていれば幸せだと思って いたから、友人が出来なくても平気だと思ってたけど、いざ孤独に なってみるとこんなに寂しいものだとは思わなかった。中学の友達 と一緒に公立の高校へ行けば良かったと何度思ったことか……。け ど、芳江はそんな私に積極的に声をかけてくれた。私の話し方が下 手でも芳江は嫌な顔一つせずに聞いてくれた。 芳江は私と同じ漫画の趣味を持っていたけど、その方向はオカル トとかホラーだった。以前、芳江の家に行った時には、芳江の部屋 にたくさんのホラー漫画や雑誌が本棚にびっしりと埋まっているの に驚かされたものだった。私は最初、芳江の趣味を知った時には危 ないオカルトマニアかと思って、少し敬遠したけれど、芳江は意外 とさっぱりとしていて、学校ではそんな話はしないし、オカルトの ことを話す時でもごく普通に話し、私に自分の趣味を押しつけるこ とはしなかった。 だから、芳江があの日、「わたし、明日、死ぬかもしれないわ」 と言った時には正直言って、どう言葉を返したらよいのかわからな かった。 ***** 「和美には悪いけど、明日、わたし、死ぬかもしれないわ」 石原芳江はもう一度、言った。 「ど、どうして」 「戦わなければならないの」 「戦うって、誰と?」 「魔王ギルスカイトよ」 「魔王?」 「和美は前世って信じる?」 「うん、まぁ……」 「わたしの前世は魔王ギルスカイトと戦ったテディア王立戦士団の 一人だったの」 「どうしてそんなことがわかるの?」 「3年ぐらい前のことかな。占師の店に行った時、あなたの前世は 国を守る戦士だったと言われたの。その時、頭の中で何かわからな い強い衝撃を受けてね。それから、毎日のように夢の中に前世の記 憶が断片的に蘇るようになったの。わたしはその夢の出来事をずっ とノートに書き記していったわ。それで3か月前にようやくわかっ たの」 芳江は一度、言葉に間を置いて「明日、魔王の封印が解けるとい う事に」 「封印が解けるとどうなるの?」 「魔王が蘇れば、再び魔物が復活するわ。そうなれば、地球はあっ という間に魔王の手に落ちるわ」 「まさか、そんな」 「信じないの」 「そういうわけじゃないけど−−」 「あなたも仲間なのよ」 「え?」 「これを見て」 芳江は首にかけた水晶のペンダントを見せた。 「いい、ようく見てて」 芳江が和美にペンダントを近づけると、突然ペンダントの透明色 が青に変わった。 「う、うそぉ」 「このペンダントはわたしの仲間に近づくと、青く光り、敵に近づ くと赤く光るの。今まで黙っていたけどわたしが和美に近づいたの も、和美がわたしの仲間だったからよ」 「仲間って私も戦士なの」 「そうよ。ただ、あなたは前世の記憶を取り戻してくれなかったけ どね」 「最初から言ってくれればよかったのに」 「言ったら、和美はわたしを変な奴だと思って嫌ったでしょう」 「そんな−−他に仲間はいないの?」 「いろいろ捜してみたけど、駄目だったわ」 「それじゃあ、絶望じゃない」 「そんなことはないわ。魔王は封印が解けたとしても動き出すには たくさんの人間のエネルギーがいるわ。だから、すぐには大きな動 きは見せないと思う。ただ−−」 「ただ?」 「手下を使って、人間のエネルギー集めをするのと平行して、転生 したテディアの人間の抹殺を企むと思うわ、わたしたちが前世の記 憶に目覚める前にね」 「そんなの嫌よ」 「そうなる前にわたしが何とかしてみせるわ。既に敵の何人かの正 体はわかっているわ」 芳江はそういうと、鞄からさらに写真を取り出し、和美に渡した 。 「これが敵?」 「そうよ。持ってていいわ。それと−−」 芳江はペンダントを首から外し、私に渡した。「これもあなたに あげる」 「でも、このペンダントは−−」 「もしわたしが死んだら、仲間を捜してくれる人がいなくなっちゃ うでしょ」 「死ぬだなんて−−ねえ、警察に知らせたら」 「信じてくれないわ。それより、もう校門の前よ。この話はまた後 にしましょう」 ***** でも、結局、芳江は私にあの話を最後までしてくれなかった。芳 江はその後、教室で突然、吉原さんを刺し、教室の窓から飛び下り て自殺したからだ。原因は分からない。芳江の言っていた魔王の仕 業なのか、それとも気が触れたのか。ただ、私が気になったのは芳 江が死んだのが「明日」ではなく「今日」だったということだ。そ れから、私はあの日の芳江の言葉を忘れてはいなかったけれど、あ まり気にとめていなかった。芳江の単なる妄想だと思っていたから 。でも、今、この教室にいる転校生は紛れもなく芳江のくれた写真 と同じ人間だ。果たして彼女は…… 和美は机から顔を上げた。そして、おもむろに鞄から水晶のペン ダントを取り出した。 −−試してみよう。もし何でもなければそれにこしたことはない んだから。 和美はペンダントを握りしめ、ゆっくりと席を立った。そして、 クラスメイトと話している幸代の席へ近づいていった。 −−怖がることはないわ。どうせ芳江の妄想よ 和美はそう自分に言い聞かせながら、足を一歩、一歩踏み出す。 −−どうか水晶が光りませんように 和美と幸代との距離が1メートルほど近寄った。その時だった。 突然、和美の背後で「わっ!!」という大きな声がしたかと思うと 、誰かが和美の両肩を後ろからぎゅっと掴んだ。 「きゃああ!」 和美はびっくりして飛び上がり、悲鳴を上げた。その拍子に手に 持っていたペンダントも放り投げてしまった。 「あっ」 和美は思わず叫んだ。 水晶のペンダントは放物線を描いて、川島幸代の机の上に落ちた 。 「悪い、悪い、まさかそんなに驚くとは思わなくて」 島村智美は和美に笑いながら、謝った。だが、和美の視線は真っ 直ぐ机の方に注がれていた。 机の上の水晶は赤い光を放出した。 和美は慌てて水晶のペンダントを机の上から奪い取った。その時 、ちらりと見た幸代の表情に和美は恐怖を覚えた。 「今の何、和美?」 智美が尋ねた。 だが、和美には智美の言葉など耳に入らず、ペンダントを握りし めて、教室を飛び出した。 −−間違いない、本当だったんだわ 和美は廊下を走りながら、心の中で呟いた。 続く