第24話「復讐の女」 登場人物 椎野美佳 高校生 椎野律子 美佳の姉 田沢吉行 美佳の同級生 ジェシカ 謎の女 プロフィール 私、椎野美佳、16才。凌雲高校一年生。ひょんなことからファ レイヌという粉末の魔女たちの争いに巻き込まれて、戦うことにな っちゃったの。ファレイヌは、普段は粉末なのに、人間に乗り移っ たり、形を変えたり、魔法まで使っちゃうのよ。一応、私にもエリ ナっていうファレイヌの味方はいるんだけど、はっきりいって無謀 よねぇ…… 1 九月一日。日本では北海道などの一部を除けば、全国的に学校の 二学期の授業が始まる。椎野美佳の通う私立凌雲高校も例外ではな く、午後八時現在のS駅から凌雲高校までの道のりは、学生で埋ま っていた。 夏休みあけの第一日目ということもあり、学生の足取りは一様に 重そうである。 「みんな、疲れてるって感じね」 凌雲高校一年生、椎野美佳は周りの学生を見ながら、呟いた。今 朝の美佳はとても機嫌がよかった。というのも学校生活で初めて夏 休みの宿題を二学期の始まる前に仕上げたからである。無論、その 宿題を終わらせるに当たっては、黄金のファレイヌことエリナ・レ イの力が大きく寄与していたが、美佳にとっては宿題など提出さえ 出来れば誰が手伝おうとどうでもいいことなのであった。 そういうわけで美佳は気だるそうに歩いている学生とは対照的に その足取りは軽やかなのであった。 さて、凌雲高校の門の近くまで来た時、門の周辺がいつになく混 み合っていた。 「うわぁ、また税関やってるんだ」 美佳の晴れた気分に雲がかかった。 美佳の言う「税関」とは門を通る学生に対して教育指導の教師が 服装・頭髪に違反していないかをチェックすることである。凌雲高 校では特に新学期のチェックが厳しいと学生の間では評判であった 。 「素通りはないだろうな」 美佳は少々嫌な顔をしながらも、校門を通ることにした。 「そこの生徒、ちょっと来い」 案の定、美佳は校門の内側に立っている三人の教育指導の教師の 一人に呼び止められた。 「あちゃー」 美佳は覚悟していたとはいえ、ちょっとショックだった。 美佳は教育指導の教師のところへ素直に歩いていった。 「おまえは1年C組の椎野だな」 教師は美佳の顔を一目見て、そういった。 「よくわかりますね。あたしって有名人なのかな」 美佳は照れたように笑って言った。 「そうだ、遅刻、無断早退の常習者としてな」 教師は厳しい顔で言った。 「わたし、何か問題でもありますか。鞄はせんべい鞄だけど、髪は 肩まで掛からない程度のショートだし、スカートだって長すぎず、 短すぎず、普通だと思いますけど」 「その髪の色は何だ」 「え?」 美佳は目をぱちくりさせた。 「その茶色い髪は何だと言ってるんだ」 「もともとこの髪ですけど」 「ふざけるな。おまえの髪は入学した時は黒かっただろう。短期間 でこんなに茶色くなるのか」 「はい」 「そうか、あくまで惚けるんだな」 教師は向きになった。 「惚けてなんていません。調べてもらえればわかります」 「いいだろう。放課後、職員室へ来い。それまで生徒手帳は預かっ ておく」 教師はそういって、美佳から生徒手帳を取り上げた。美佳は不満 だったが、文句を言っても無駄だと思ったのでこの場は黙っていた 。 「それから、椎野、一つだけ言っておくが、おまえはいつ職員会議 にかけられてもおかしくない状況なんだぞ。学校はさぼる、態度は 悪い、成績も悪い。おまけに夏休みには警察沙汰を起こす。今後、 一つでも問題を起こしたら、退学と思え。いいな」 教師はそれだけ言うと、美佳を解放した。 「やな奴!」 美佳は心の中で教師に舌を出すと、不機嫌そうに校舎の方へ歩い ていった。 「よぉ、チャッケじゃねえか」 校舎の下駄箱で美佳は男子生徒に声を掛けられた。 「チャッケ−−」 美佳はその呼び方にカチンときた。「タキチ、その呼び方、やめ てって言ったでしょ」 「俺はタキチじゃねえ。ちゃんと田沢吉行って名前があるんだ」 その生徒も向きになって、言った。 「私だって椎野美佳って名前があるわよ」 二人はしばし睨み合った。 この二人、とにかくよく喧嘩する。とくに親しいというわけでも なく、一緒に行動するわけでもない。性格も違えば、趣味も違う。 これといった接点があるわけでもないのだが、顔を会わせると、お 互い憎まれ口を叩いている。 田沢吉行は美佳と同級生。学校へは週に二、三度通うだけで、後 はバイクを乗り回したり、繁華街で遊び呆けたり、誰にでも喧嘩を 売ったり。教師に逆らって、乱暴したり、学校のガラスを何十枚も 叩き割ったことがある。とかく、世間では彼を不良学生といってい る。しかし、普通の不良と違い、徒党を組まず一匹狼で、弱い者に は手を出さないという硬派なところがある。ちなみに校内で彼をタ キチなどと平気であだ名で呼べるのは美佳だけである。 「おまえ、警察に捕まったんだってな」 田沢がにやっと笑った。 「それがどうしたっていうのよ」 「いや、見直してるのさ。チャッケもなんだかんだ言っても不良な んだと思って」 「私はあんたみたいにわがままと自己主張をすり替えて、突っ張っ てなんかいないわ」 「何だとぉ。俺がいつすり替えたよ」 「すりかえてるじゃない。学校の授業料は親が払ってるんでしょ、 それから食費も寝る場所も、遊ぶ金も」 「それはよぉ……」 「何から何まで自分の力で出来ないくせに、でかい口たたくんじゃ ないわよ」 「そういう、てめえはどうなんだよ」 「私は不良じゃないもん。学校や世間に逆らう気も全然ないしね」 美佳はきっぱりと言った。 「じゃあ、何で警察に捕まったんだよ」 「それをあんたに言う必要性はないでしょ」 「ちっ!」 美佳の言葉に田沢は返す言葉がなかった。 その時、女子生徒が数人、入ってくる。 「今日のパンティ、何色だぁ」 突然、田沢は女子生徒のスカートをぱっとめくった。 「きゃあ」 女子生徒が悲鳴を上げる。 「タキチ!」 美佳が睨むと、 「あばよ」 といって田沢は急いで校舎を飛び出した。 「全く、あいつったら」 美佳は大きく溜め息をついた。 2 「はい、生徒手帳だ」 職員室で美佳の担任、木村は手にした生徒手帳を美佳に返した。 「先生の方から椎野に話すという事で、寺田先生に返してもらって きた」 「すみません」 美佳は小さく頭を下げた。 「頭髪の件に関しては先生の方から言っておいたから、心配するな 。それより、椎野、お姉さんが入院していたこと、何で黙っていた んだ?」 「え、それは−−」 「椎野が警察に拘留された晩、お姉さんと話す機会があってな。そ こでいろいろ聞いたぞ。椎野はお姉さんが入院している間、一人で 生活していたそうだな」 「は、はい」 「そういうことはきちんと話しておいてくれないと、いざと言う時 、先生は椎野を弁護出来ないぞ。例えば、下校してそのまま病院へ 見舞いに行くことにしても、他人が見れば、制服のまま、街を出歩 いてるようにも見えるだろう。遅刻にしても椎野の苦労を知らなけ れば、ただの寝坊と思われて、他の先生たちの評判が悪くなるんだ 」 「はい、気をつけます」 「それから、1学期の成績だが、椎野もわかってると思うけど、2 学期はかなり気を引きしめてかからないと、危ないぞ。お姉さんも 心配させないためにも、ちゃんと勉強しろよ」 木村は強い口調で言うと、美佳の肩をぽんと叩いた。 3 「そうよ、ちゃんと勉強しなさいよ」 椎野律子は命令口調で言った。 律子は美佳の十才年上の姉である。 ここは同居先の牧田奈緒美のマンション。律子と美佳はキッチン のテーブルで夕食を取っている。 「わかってるわよ」 美佳は不機嫌に言った。 「夏休み、ほとんど勉強しなかったわね」 律子は鳥の唐揚げを箸で摘みながら、言った。 「悪かったわね」 「別にオール5を取れとは言わないけど、せめて落第だけはしない でよ。お母さんに怒られるのはあんただけじゃないんだから」 律子はそういって、鳥の唐揚げを口へ入れた。 「うるさいなぁ、今度は大丈夫よ」 美佳はご飯を口にしてから、言った。 「どうだか。それなら、来週の校内実力テスト、順位を百番、上げ なさい」 「無茶言わないでよ」 「無茶じゃないわよ、前回はビリだったんだから」 「ひどい!ビリから4番目よ」 「とにかく5科目で16点なんてことは二度とやめてね。もし順位 を百番、上げられなかったら声優の仕事をやめてもらいますからね 」 「そんなぁ。生活出来なくなる」 「だったら頑張るのね」 「頑張るわよ。全くやかましいんだから」 「私は美佳のためを思って言ってるのよ」 「ふんだ」 美佳は苛々しながら、お碗の味噌汁をぐいと飲み干した。 4 午後十一時−− 今夜も田沢は駅周辺の繁華街を一人あてもなく遊び歩いていた。 いつもならバイクで道路を走り回っているところだが、半月前に バイク同士の喧嘩で事故を起こし、バイクは大破したうえ、免許停 止処分を受けたのである。 彼は根っから人と付き合うのが嫌いな人間だった。他人のために 自分の自由を犠牲にするのが不服らしい。そんな性格のため、友人 など全くいない。しかし、孤独が好きかと言うとそういうわけでも なかった。徒党を組んでいる連中を見つけると、すぐに割って入ろ うとする。それは見境がなく、不良グループに絡む時などは相手が 何人いても全員倒すまで喧嘩をやめない。また、学校に登校しては 目立った行動をして(ほとんどは暴力行為であるが)、教師や生徒 の歓心を買おうとする。 ただのわがままで寂しがり屋の少年であれば、まだ救いの道があ るが、彼の場合は喧嘩があまりに強すぎるため、質が悪い。 田沢はネオンに彩られた町並みをきょろきょろと見回しながら、 道の真ん中を決して避けることなく堂々と歩いていた。 向かいから来た相手と肩がぶつかると、きっと睨み、相手が謝っ て退くようなら無視してそのまま歩き、相手が少しでも反感の目を 持てば即座に殴り倒す。一度、殴られた相手はその強さに仕返しな どはほとんど考えない。 田沢はこの街ではボンバーマンとあだ名されるほど有名だった。 「よぉ、今日も一人か。寂しいねぇ」 田沢の前に六、七人の少年たちが立ちふさがった。いずれもTシ ャツに黒いジャンパーを着た、風体の悪い少年だった。 「黒山トリオの登場か」 田沢は不機嫌な顔で言った。 「黒山じゃねえ、ブラックマウンテンだ!」 リーダー格の一人が顔を真っ赤にして怒鳴った。リーダー格の少 年は頭をリーゼントにしていた。 「んで、何か話でもあんのか。俺はちいと機嫌が悪いんだ」 「この間はうちの舎弟をよくも痛い目に会わせてくれたな」 「舎弟?おまえらもやられなかったか」 「うるせぇ!」 リーダーの少年は声を荒らげて言った。「とにかく、今日は暴走 族ブラックマウンテンの恐ろしさを思い知らせてやる。ちょっと、 顔かしな」 「やだね」 「何だとぉ!」 またまた少年は怒鳴り、今度は勢いあまって、むせてしまった。 「高橋さん、大丈夫ですか」 他の少年が心配する。 「でいじょうぶだ。この野郎、俺たちにやられるのが怖いんだろう 」 高橋は強がった。 「今日はおまえらが負けたらバイクもらうからな」 田沢は仕方ないといった顔で言った。 「いいぜ!」 かくして少年たちと共に、田沢はネオン街の裏へ出て、人気のな い建築現場まで連れていかれた。そこには待ち構えていたかのよう にエンジン音を全開にさせているバイクの集団がいた。 暴走族の少年たちは一様に鉄パイプのようなものを手にしている 。 「多勢に無勢ってわけか」 田沢は笑った。自分が不利な状況になると、彼はいつも楽しくな る。 少年たちは田沢から離れ、暴走族側についた。 「降参するなら今のうちだぜ」 高橋は勝ち誇ったように言った。 「降参?笑わせるな。降参するのはそっちだろ」 田沢はジャンパーを脱いだ。 「よぅし、思い知らせてやる。−−てめぇら、やっちまえ!!」 高橋は闇を震撼させるほどの大声で合図した。 少年たちの駆るバイクが一斉に唸りを上げて、走り出した。バイ クの標的は真っ直ぐ田沢へ向けられていた。 「久々に熱くなれそうだ」 田沢はにやりと笑って、迫り来るバイクに身構えた。 5 午後十一時二十分−− 牧田奈緒美の居住するマンション。ここはブルーナイトという名 称のマンションで、国道沿いで、駅からも五分以内という場所に建 設されている。無論、駐車場も地下に設置されている。首都圏であ るが故に価格も馬鹿にならないほど高いが、警視正を父親に持つ奈 緒美にとってはそれほど金策面の苦労はなかった。奈緒美の部屋は 四LDKで、椎野姉妹を受け入れられるほどの充分な広さを持って いた。 さて、そのブルーナイトマンションの前の車道の脇に一台の黒い 車が止まった。その車はキャデラックだった。 「着きました」 運転手は後部座席に座っている女性に対して、振り向くわけでも なく、ただロボットのような口調で言った。 「あれが、ファレイヌを持つ女のマンションね」 後部座席の女はリアウインドからそびえ立つ建物を見上げた。夜 の闇の中でガラス戸の明かりだけが、浮かび上がるように縦横に並 んでいる。 女はバックからリモコンのようなものを取り出した。それは小型 のレーダー探知機だった。上部には円形の陰極線管(CRT)スク リーンがついており、それがいわゆる可変距離マーカー表示器にあ たる。スクリーンの周囲に方位目盛りがあり、さらにスクリーンの 上には同調指示器がついている。そして、下部には制御つまみが五 つほどあり、それぞれ垂直位置の調整や探知レンジの切替えなどの 役目を果たすものである。 そのスクリーン内の右部に赤い光が点滅している。その点滅は間 隔が速くなっている。まさにマンションの方向だった。 女がレーダーをマンションに向けると、今度は光が上部に動く。 点滅は変わらない。 「やはり間違いないわね。幽体レーダーがこれほどまでに反応した のは初めてのことだわ。あのマンションの中に絶対、奴がいる。間 違いないわ」 女は確信するように言った。 「お嬢様、どういたしますか」 運転手が淡々とした口調できいた。 「車を出して結構よ。今夜は確認だけで充分だわ」 女はそういうと、喜びを噛みしめるようにして、微笑んだ。 6 「全く……またおふくろに文句いわれちまうよ」 田沢はズボンに付いた埃や泥を払いのけると、ぼろぼろになって いる服を見て、嘆いた。 田沢の顔は痣や擦り傷だらけで、両拳は真っ赤になっていた。 「さて、帰ろ」 田沢はジャンパーを肩にかけて、鼻唄を歌いながら、建築現場を 出ていった。 建築現場は数分前とはうってかわり、もとの静寂に戻りつつあっ た。現場には人とバイクが散乱していた。ゴミを床にばらまいたよ うな感じである。十数台あったバイクは全て横倒しになり、もうタ イヤの回る音もしない。そして、少年たちもだらしなくバイクと一 緒に山積みにされて、のされている。みな大の字で、精根尽きはて たようにじっとしたまま、意識と無意識の間をさまよっている。 「た、たたたたかぁ……はしさぁん」 少年の一人が絞り出すような声を出して、バイクの下敷きになっ ている高橋のもとに這って近づいた。 「ぬわぁんだぁ」 高橋もバイクを退かす力もないまま、声だけ出した。 「あいつ、ばけものだ……」 少年は息を吐き出すようにして言った。 「じぐじょお……おぼあでろ」 高橋はそれだけいうと、口をあんぐり開けて気絶してしまった。 7 翌朝、早くから「ブルーナイト」マンションの前に一台の黒いキ ャデラックが止まっていた。 今日は後部座席には女だけではなく巨漢の男がいる。 女は男に自分の顔が映るように鏡をもたせて、それを見ながら透 き通った金色の髪を櫛でとかしていた。女はまだ二十代後半で、化 粧も比較的薄く、口紅もピンク系に近い薄い色を選んでいた。肌の 色は真っ白で、まだつやがあり、若さだけではない手入れのよさも 伺える。瞳の色は青で、どこか冷たいものを感じる。 一方の大男は黒人で、体つきが女のふたまわり以上はある。ギャ ングのような黒い背広を着ていて、顔はゴリラのような顔をしてい る。外見からしても凶暴そうで、いつ襲ってくるかわからないとい った感じであった。 「遅いわね」 女はレーダーをマンションの入口の方へ向けていた。反応は依然 として強い。 「ジム、今、何時かしら」 女は運転手にきいた。 「七時二〇分でございます」 運転手は答えた。 「そう」 入口から居住者が出勤や通学にと出てきてはいるが、反応に変化 がない。 「お嬢様、私が中へ入って調べてきましょうか」 運転手が気を利かせて、言った。 「いいわ、もう少し待ちましょう」 女は特に焦っている様子はなかった。 こうして、車内の沈黙が二十分ほど続いた。 「お嬢様、女が出てまいりました」 運転手が口を開いた。女はさっとシートから体を起こした。 自動ドアが開いて、ワンピースを着て、バッグを肩にかけた椎野 律子が入口から現れる。 「あれがファレイヌを持っている女」 女はレーダーのスクリーンを見た。しかし、反応は全く変わらな い。 「妙だな。あの女は幽体ではないのか」 女は不審に思った。 律子は車の横を全く気付かずに通り過ぎてゆく。 「あとをつけますか」 運転手が尋ねた。 「いや、反応があるまで待つ」 そういうと、女はまたシートにもたれた。 それから、十五分、レーダーには何の異変もなかった。 ピーピーピー−− 突然、レーダーからブザー音が聞こえた。女はまた体を起こし、 レーダーを見る。今度は点滅どころか、光ったままである。 「半径二十メートル以内に幽体がいるわ」 女は口もとから笑みがこぼれる。 「お嬢様、出てきました」 運転手が言った時、マンションの入口の自動ドアが開いた。 「あの娘は−−」 「椎野美佳。椎野律子の妹です」 運転手は静かに言った。 椎野美佳はセーラー服姿で、慌てているのか、入口を出るなり、 路上を全速力で駆け出した。 「あとをつけますか」 「頼む」 キャデラックは美佳の尾行を開始した。 「ふふふ、ついに見つけたわ。あんな少女に乗り移っていたとはね 」 女は美佳の後ろ姿を見ながら、呟いた。 8 「ああ、遅れちゃう」 椎野美佳は鞄を片手に懸命に走っていた。冷たい風が美佳の顔に いっそう吹きつけるが、寒さを感じてる余裕などない。顔が埋まっ てしまうほど白い息を吐きちらし、額に汗までかいている。 まだ美佳の通う凌雲高校への道のりは遠い。時間は八時二十五分 。 いつもの美佳なら遅刻など気にしないが、姉との約束がかかって いるとなれば必死である。昨夜から徹夜勉強で、睡眠は二時間しか とっていないにもかかわらず、美佳の走力はいっこうに衰えるとこ ろがない。 高校まで歩いて二十五分の道のりも今日は倍のペースで来ている 。 ちょうど美佳が住宅街の十字路にさしかかった時だった。 右側の脇道から一台のバイクが美佳の寸前で飛び出してきた。 美佳は避けようと思って、体をひねり、バランスを崩して、尻餅 をついた。 「危ないじゃない!!」 美佳は目の前のバイクのドライバーに文句を言った。ドライバー はヘルメットを被り、学生服を着ている。 「ぼけっとしてんな」 そういってドライバーはヘルメットを取った。 「タキチ!」 美佳は驚いた声を上げた。「私を殺す気?」 「脇目もふらず、走ってからいけねえんだよ」 「だったら、とっとと行ったら。あんたの顔なんか見たくもないわ 」 美佳は足の擦り傷を気にしながら、言った。 田沢は美佳の様子を見て、ちょっと良心が傷んだ。 「掴まれよ」 田沢は美佳に手を差し出した。 「大きなお世話よ」 美佳は拒否した。 「いいから」 田沢は強引に美佳の手を引っ張って、立たせた。 「何すんのよ」 美佳は感情的に田沢の頬を平手で打った。 一瞬、二人の間に沈黙が流れた。 「悪かったな」 田沢は美佳の顔を見ずに言った。「乗れよ。学校まで連れてくか ら」 「いいわよ。もう、すぐそこだから」 美佳も目を伏せて、言った。 「その足じゃ満足に走れねえだろう」 田沢はヘルメットを被り、「今だけでいいから素直になってくれ よ」 「わかったわ。でも、貸し借りなしだからね」 「ああ」 美佳は田沢のバイクの後ろに乗った。 田沢は黙ってバイクを走らせた。 バイクが走り去ったその十字路に二つのグループがあった。 一つは美佳を尾行していた黒いキャデラック。もう一つは田沢に 復讐しようと隙を伺っていた高橋の仲間。 「あの野郎、一匹狼とか言ってながら女がいやがったぜ」 少年の一人が言った。 「畜生、うらやましいな」 と他の少年。 「あの女、知ってるぜ。確か一年C組の椎野美佳って奴だ」 「どうする、高橋さんに知らせるか」 「そうだな、あの女を人質にすれば−−」 「よし、さっそく知らせにいくぜ」 少年たちも止めていたバイクに乗り、その場を走り去った。 少年たちはキャデラックの存在に全く気付いていなかった。 9 その日の放課後。 「今日は最悪だったわ。道では転ぶし、木村には遅刻で怒られるし ……」 美佳はぼやいた。 「でも、今日が最悪なら、明日は最高にいい日かも知れないじゃな い」 と友人の上田由加。 「だといいんだけどね。私の場合、結構、不運が続くのよね」 「何か心配事でも」 「試験のことでね」 「試験って学力試験のこと。へえ、美佳、やる気だしてんだ」 「あんた、全然、信じてないわね」 「そんなことないよ」 「顔が笑ってるわ」 由加は美佳の言葉に緩んだ頬を慌てて押さえた。 美佳は由加としゃべりながら、凌雲高校の校門を出ようとしてい た。 その時、風体の悪い五人の少年たちが美佳たちの前に立ちはだか った。少年たちはにやにやと笑っている。 「由加、帰りな」 美佳は小声で由加に促した。 「え、何なの?」 由加が戸惑う。 「いいから」 美佳が強く言うと、由加は慌ててその場を離れた。少年の一人が 追おうとしたが、 「用があるのは私でしょ」 と鋭い声で言うと、少年は追うのをやめた。 「なぜ、わかる?」 一番背の高い、がっちりとした体つきの少年、高橋が言った。 「何となくね」 美佳は高橋をにらみつけて言った。 「つきあってもらえるか」 「嫌だって言ったって、連れていくんでしょ」 「まあ、そういうこった」 高橋は美佳を見据えるように言った。 「私ね、試験勉強で忙しいの」 「?」 「だから、あんたらに付き合ってる暇はないのよ」 美佳は高橋の股間を蹴り上げた。 「うっ」 高橋は股間を押さえて、うずくまった。すかさず、美佳が高橋の 足を払って、倒すと、少年たちのもとから逃げ出した。 そして、素早く校門を抜け、路上に出て、左を曲がった途端、何 か大きな壁にぶつかって、尻餅を付いた。 「な、何?」 美佳は目をシロクロさせた。美佳の前には黒人の大男が立ってい た。 男は美佳のセーラー服の衿を左手で掴んで、美佳を自分の顔の前 まで持ち上げた。 「何すんのよ」 美佳が苦しそうに言った。 「ううぅぅぅ」 男は唸り声のようなものを発すると、腕を大きく引いて右拳で美 佳を殴り付けた。美佳は吹っ飛ばされた。 「あ、あ、ああ……」 美佳は目が回るような感覚を覚えた。そして、ふらふらと足取り で二、三歩、下がると、どさっと後ろへ倒れた。 少年たちが美佳を追って、校門を出てくる。 「どうなってんだ?」 少年たちは倒れている美佳と黒人の大男を見て、唖然としていた 。 「あなたたち、復讐がしたいんでしょ」 大男の後ろから金髪の女が現れた。 「誰なんだ、あんたら」 高橋が言った。 「名乗るほどの者じゃないわ。ただの協力者よ」 女は色っぽくウインクして、にっこりと微笑んだ。 10 「うっ……」 美佳は意識を回復した。 視界が次第にはっきりしてくる。 そこは倉庫のようであった。内部は広く、薄暗く、かびくさい。 ところどころに大きな箱が積み重ねられている。 「どうやら起きたみたいだな」 少年の一人が言った。 −−そうだ、私は大男に殴られて…… 美佳は記憶を取り戻した。 美佳は座った状態で、鉄骨の柱にロープで腕ごと縛られていた。 かなりきつく、少し動くだけでロープが肉に食い込んでくる。口に はさるぐつわがはめられ、しゃべれない。 倉庫内には学校で美佳を取り囲んだ少年たちがいた。ほかに金髪 の女と大男がいる。 「協力してくれてありがとよ」 高橋が言った。 「そのかわり、あなたたちの用が済んだら、私に協力してもらうわ よ」 「いいとも。何でもいってくれ」 「高橋さん、美佳が起きましたぜ」 少年が高橋に知らせた。 女はその言葉を聞いて、ゆっくりと美佳の方へ歩いてきた。 そして、美佳の側にしゃがんで、話し掛けた。 「さっきはごめんなさい。ジャクソンは限度を知らないから。痛か ったでしょ」 女は美佳のさるぐつわを外した。美佳の頬にはまだ殴られた痕が くっきり残っている。 「ふふふ、ほんとに久し振りね、クレール。私はあなたたちを捜し 出すために十五年の歳月を費やした。思えば、長かったわ」 クレールって。あの人、どうしてその名前を 「あなたにわかる?愛する父をあなたの兄に奪われた私の気持ちが 。わからないでしょうね、所詮、あなたは幽体ですものね」 女の話し方には感情がこもっていた。 「何のことだか、わかりません」 美佳は小さな声で言った。 「わからない!」 突然、女はヒステリックな声を上げた。「わからないですって。 父を、私の父を殺しておきながら。ふふふ、見てなさい。これから 、あなたに私の苦しみを味あわせてやるわ」 それだけ言い放つと女は美佳のもとから立ち去った。 「高橋さん、田沢を連れてきました」 外から倉庫の入口の戸を叩く音と声がした。 「入れ!」 高橋が大声で指示すると、中の少年が入口のドアを開ける。 外の少年が田沢を連れて、入ってきた。 「どういうつもりだ」 田沢は怒鳴った。 「こっちを見てみな」 高橋が鉄骨に縛られている美佳の方を指差した。 「チャ、チャッケ……」 田沢は驚いた。 「どうだ」 高橋が胸を張って、勝ち誇ったように言った。 「どういうつもりだ」 田沢は厳しい顔になった。 「あの子を助けたかったら、言うとおりにしな」 「あいつは俺とは関係ねえ」 「とぼけるな、恋人だってのはわかってるんだ。さあ、おとなしく しろ」 少年の一人が田沢に手錠を嵌めようとした。しかし、田沢は少年 を殴り飛ばす。 「ひぇぇ、高橋さん」 殴られた少年は顎を押さえて、高橋に泣きつく。 「女の命がどうなってもいいのか」 高橋がいうと、仲間の少年が美佳の喉もとにナイフを突きつける 。 「くっ!」 田沢は舌打ちした。 −−そういうことだったのか 美佳はようやく事の次第を理解した。 「どうして私があんな奴の恋人なのよ」 美佳は急に腹が立ち、文句を言った。 「何だと!それはこっちのセリフだ。人質を取ったというから、誰 かと思えば……」 「ふざけんじゃないわよ。あんたのせいで、私は捕らえられてるの よ。今度の試験、点数悪かったら、どうしてくれんのよ」 「そんなこと知るか。俺は帰るからな」 「待ちなさいよ、そうしたら、私はどうなるのよ」 「一生、そこにいろ」 「ひどぉい、この人でなし!」 少年たちは田沢と美佳の会話は茫然として聞いていた。 「じゃかぁしい」 高橋は頭を横に振って、怒鳴った。「おとなしくしねぇと、ほん とに美佳を殺すぞ」 「やってみろ!」 田沢は強い口調で言った。 「うっ」 高橋は口ごもった。 「もしチャッケに少しでも傷を付けたら、おまえら、全員、ただじ ゃおかねえぞ」 田沢はどすの利いた声に少年たちは震え上がった。 「どうしましょう、高橋さん」 少年の一人が情けない声で高橋に尋ねた。 「く、くそぉ」 高橋は正面きっては田沢にかなわないだけに、どうしようもなか った。 「大した自信ね」 女が口を挟んだ。 「何だ、てめえは」 「ふふふ、田沢君といったわね。ジャクソンと戦ってみます?」 女が言うと、大男が一歩、前に出た。 ジャクソンは歯ぎしりをさせながら、獣のような目で田沢を見て いる。 「よし、来い!」 田沢が言った。 「ジャクソン、相手をしてあげなさい」 女の言葉と同時に、ジャクソンが狂暴な声を発して、田沢に向か っていく。その動きはまさにゴリラそのものだった。 田沢は身構える。真正面から突っ込んでくるジャクソン。 「どりゃああ」 田沢はジャクソンが飛びかかってくると、素早く身を沈めて、ジ ャクソンの体をそのまま勢いを利用して、投げ飛ばした。 ジャクソンは地に激しく叩きつけられる。さらに間を置かず、田 沢はジャクソンの腹や胸を何度となく蹴った。 「ぐわぁぁ」 ジャクソンは悲鳴なのか何なのかよくわからない声を上げた。 田沢はジャクソンが動かなくなるまで蹴りを続けた。そして、つ いに動きが止まる。 「どうだ」 田沢は女の方を向いて、息を弾ませて言った。 「強いのね」 女は顔色一つ変えなかった。 「当たり前だ」 「でも、まだまだね」 女は腰のホルスターから拳銃を抜いた。そして、田沢に銃口を向 け、スライドを引く。そのまま激鉄が自動的に後退する。 「汚ねぇぞ」 「あなたが甘いのよ」 女は引き金を引いた。スライドががくんと後ろへ下がり、空薬莢 が外へ弾き出される。 弾丸は田沢の腹部に命中した。 「い、いてぇ」 田沢は体を折り曲げて、その場に倒れ込む。 「生かしてはおかないわ」 女は銃口を下げて、うずくまる田沢に合わせた。 「やめて!」 美佳が叫んだ。「殺すこと、ないでしょ」 「そういわれると、ますますやめられないわ。あなたが苦しむなら 、彼にはゆっくりと死んでもらいましょう」 女は引き金を引いた。スライドが下がり、空薬莢が飛び出す。 弾丸は田沢の右腕に命中した。 「やめてぇ」 美佳は懸命に声を上げた。 「ふふふ、もっと叫ぶがいい。もっと苦しめ」 女は大きな声で笑った。 少年たちはその光景を見て、次第に怖くなっていた。 「さあ、復讐がしたいんでしょ。君たち、やりなさい」 女がいったが、少年たちの反応は鈍かった。 「俺たち、もういいよ」 高橋がみんなの代弁をするように言った。 「やりなさい」 女が拳銃を少年たちへ向けた。 「お嬢様、連れてまいりました」 その時、倉庫の入口から声がした。 「あ、姉貴!」 美佳が血相を変えて、言った。 入口にはキャデラックの運転手と椎野律子がいた。 「美佳!」 律子も美佳の縛られている姿を見て、声を上げる。 「いったいどうして?」 美佳は女の方を見た。 「私が呼んだのよ。妹の命を助けたかったら、おとなしく来るよう にってね」 「美佳、大丈夫?」 律子は運転手の傍を離れて、美佳の方へ走り寄った。 だが、女はすぐさま、律子の足下に拳銃を発砲する。律子は思わ ず足を止めた。 「動くな」 女は命令口調で言った。 「姉貴には手を出さないで。殺すんなら、私を殺しなさいよ」 「おだまり、クレール。あなたに命令する権限はないわ」 「私はクレールじゃない。椎野美佳よ」 「とぼけても無駄よ。私にはこのレーダーがあるのよ」 女は左手に持っていたレーダーを美佳に見せた。スクリーンには 小さな赤い光が激しく点灯している。「この光は半径二十メートル 以内に幽体反応があると、点灯するの。見てご覧なさい、この光の 反応を。あなたに近づけば、近づくほど、点灯が早くなる」 女は一歩、一歩美佳に歩み寄った。 「わあぁぁぁ」 少年たちが突然、入口へ向けて、駆け出した。この緊張感に耐え られなくなったのだろう。 「臆病者めが」 女は入口から逃げ出す少年たちを冷やかな目で見つめた。 その時、律子が再び足を進めた。 「動くな、といったはずよ」 女は律子に銃口を向けた。 律子は構わず美佳のもとへ歩み寄る。 「馬鹿が……」 女は引き金を引いた。弾丸が律子の腕を撃ち抜く。 「姉貴!!」 美佳は叫ぶと共に体を大きくひねった。 「ぐううっっ」 ジャクソンがようやく意識を取り戻し、むっくりと起き上がった 。律子は左腕を押さえながら、なおも美佳の方へ歩み寄る。 「ジャクソン、あの女をやるのよ」 女は命令した。 「姉貴、来ないで。来たら、殺されちゃう」 美佳は泣きそうな声で言った。 こんな時にエリナがいれば−−うちに置いてきちゃったからなぁ 律子の背後よりジャクソンが襲いかかる。 ピーピーピー−− その時だった。レーダーにもう一つ、赤い光が点滅した。 「なに……新たな幽体が。まさか……」 女がレーダーの表示に目を見張った瞬間、 パンッ、パンッ−− 銃声が倉庫の奥から起こった。同時にジャクソンが脇腹を押さえ て、その場に膝まづいた。 「があぁぁ」 ジャクソンは悲鳴を上げて、律子のすぐ後ろで、倒れた。 「フェリカね」 女は倉庫の奥へ向けて、拳銃の引き金を引いた。スライドが連続 運動を繰り返し、二つの薬莢が外へ飛び出す。 弾丸は奥の闇の中へ消えた。カーンという金属音が二つ。 「ジェシカ、遊びは終わりだ」 闇の中から男が姿を現した。右手には銃を握っている。 「現れたわね、とうとう」 「あの姉妹は君の復讐とは関係ない」 「隠しても無駄よ。このレーダーはあらゆる幽体を探知するの。間 違いはないわ」 「クレールはここにはいない」 「あくまでも恍ける気ね。だったら、この女を殺して、クレールを 焙り出してやるわ」 ジェシカは拳銃を美佳へ向けた。律子が慌てて美佳を庇うように 、覆い被さる。 「あなたに妹は殺させないわ」 律子はジェシカを睨んだ。 「その女は妹の姿をしていても、中身は別の人間のものよ」 「美佳は私の妹。あなたなんかにわかってたまるもんですか」 「この女……」 ジェシカの引き金にかかる指が強くなった。 フェリカはジェシカに向けて、銃を構えた。 ジェシカはしばらく律子を見つめていた。引き金を引く指が寸前 のところで、小刻みに震えている。 「ち、ちきしょう」 ジェシカはやり切れなくなって拳銃をフェリカの方へ向けた。フ ェリカの持つ銃が火を吹いた。とたんにジェシカの拳銃が弾き飛ば された。 「ちきしょう、ちきしょう……」 ジェシカは手を押さえながら、何度も悔しそうに同じ言葉を呟い た。 「お嬢様、帰りましょう」 運転手が心配してジェシカのもとへ駆けつける。 「十五年前、僕はファレイヌの真の所有者だった君の父上を他のフ ァレイヌから守ろうとした。だが、僕が駆けつけた時には一足違い で殺されていた」 「信じられないわ、そんなこと」 ジェシカは語気を荒くして言った。 「さあ、いきましょう」 運転手はジェシカを宥めて、入口の方へ連れていった。 「フェリカ」 入口のところで、ジェシカが振り向いた。「復讐はやめないから ね」 ジェシカはジャクソンを担いだ運転手と共に倉庫を出て行った。 後には気絶してる田沢、美佳と律子、フェリカが残った。 「フェリカさん、ありがとう」 律子は立ち上がって、礼を言った。 「大丈夫?」 「ええ、このくらい、かすり傷よ」 律子は笑顔で言った。 「姉貴、ロープ、ほどいて」 美佳が苦しそうに言った。 「そうだったわね」 「僕がやる」 フェリカはナイフで美佳のロープを切った。ロープがゆるまり、 簡単に外れる。 「ねえ、フェリカさん、聞きたいことがあるの」 美佳はフェリカに心に決めていたように尋ねた。 「ジェシカの言ったことか?」 「ええ」 「気にするな。あの女は復讐に心を奪われ過ぎてるだけだ」 「でも−−」 「それより、なぜファレイヌを使わなかった?」 「うちに置いてきたのよ」 美佳は目を伏せて言った。 「そうか」 「ごめんなさい」 「謝ることはない。それより、あの女には充分、気をつけることだ 」 フェリカはそういうと、倉庫を出ていった。 それからしばらくして倉庫の外では救急車のサイレンが聞こえて きた。 「復讐の女」終わり