第13話「黄金仮面」 登場人物 椎野美佳 高校生。声優 エリナ 黄金のファレイヌ 横田 ミレーユの部下 ミレーユ 水銀のファレイヌ プロフィール 私、椎野美佳、16才。凌雲高校一年生。ひょんなことからファ レイヌという粉末の魔女たちの争いに巻き込まれて、戦うことにな っちゃったの。ファレイヌは、普段は粉末なのに、人間に乗り移っ たり、形を変えたり、魔法まで使っちゃうのよ。一応、私にもエリ ナっていうファレイヌの味方はいるんだけど、はっきりいって無謀 よねぇ…… 1 不機嫌な朝 ある晴れた日の朝−− トントントントン−− どこからか聞こえてくる小気味良い音で椎野美佳は目を覚ました 。窓からは朝の爽やかな日差しが部屋に差し込んでいる。 美佳はしばらく布団を被ったまま、その音に耳を傾けていた。 まないたの上で、野菜を千切りにしているような音。 どこかで朝食を作っているのかしら。そういえば、お腹へったな ぁ 美佳はお腹の辺りを押さえた。 それから、しばらく美佳は寝惚けた様子で天井を見ていた。 それにしてもよく聞こえるわね。それもキッチンの方から。誰か いるのかしら。お母さんは仙台に帰ってるはずだし。まさか姉貴が 戻ってる−−わけもないしね。やっぱりお隣かしら。でも、もしか したら。そんなはずはないわ、昨日はちゃんと鍵をかけたし、誰も 部屋に入れるわけないのに ミレーユ!? 美佳は目をぱっちりと開け、ベッドから飛び起きた。 ここのところ、命を狙われているせいか、美佳は急に不安になっ た。 まさかとは思うけど、私を料理する準備をしているわけじゃあ… …… 美佳は眠気もすっかり吹っ飛び、ベッドから降りると、壁に立て 掛けてあったテニスラケットを手にした。 そして、そっとドアを開けた。 やはり音はキッチンからだ。 美佳はそろそろと足音を立てないようにして歩くと、キッチンを 覗き込んだ。 ああっ!? 美佳は心の中で思わず叫んだ。 何とフランス人形に変化したエリナが台の上に乗って、台所に向 かっていたのである。 何やってんのよ 金色の人形が台所で料理を作っているというのはどうにも気味が 悪かった。 美佳はエリナから視線をそらし、テーブルへ目をやった。そこに は何とお椀二つと皿二枚が置いてあり、皿にはおかずがのっていた 。 //あら、起きたんですのね ふいに呼び掛けられて、美佳はエリナに視線を戻した。 「なに、やってんの」 美佳は呆気に取られた様子で、聞いた。 //料理ですわ 「それはわかるけど−−」 //私だって食事くらい作れますわ エリナはニコッと笑った。//用意は出来てますから、ここへお 座りになって 「は、はい」 美佳は落ち着かない様子でテーブルについた。 エリナはお椀を手にして、鍋から味噌汁をよそって入れると、美 佳の前に置いた。そして、御飯も炊飯器からよそって、お椀に入れ た。 美佳はその光景をただ茫然と見ていた。何か不思議な気分だった 。 //さあ、どうぞ エリナも席について、言った。 「い、いだだきます」 美佳はまず味噌汁のお椀を手にした。 まだ熱いので、ふうふうと息を拭きかけてから、ゆっくりと味噌 汁をすする。 //その味噌汁、おいしいでしょう。トカゲで出汁をとったんで すのよ ぶーっっ!! エリナの言葉に美佳は思わず味噌汁を吹き出した。 //あら、冗談ですわ エリナはペロッと舌を出して、言った。 「冗談なら飲む前に言ってよ。全く」 美佳はさすがに味噌汁を飲む気にならず、テーブルに置いた。 //気になさらなくとも、ただの味噌汁ですわ 「怪しい。どうして日本人でないあんたが味噌汁、作れるの?」 //日本の知識を得ようと思って、前に律子さんの記憶をお借り したんですの。味がそっくりでしょう エリナにそういわれれば、飲まないわけにもいかず再度、味噌汁 を口にした。確かに律子の決して上手いとは言えない味噌汁の味だ った。 「すると、この料理も姉貴の記憶がベースなの?」 //ええ 「うわっ、やだ」 美佳が嫌そうな顔をする。 //そんなにまずいものなんですの、律子さんの料理。わたくし には味がわかりませんので 「まずいなんてもんじゃないわよ、姉貴の料理なんて。三日食べた ら、飽きるもの」 //律子さんにそうお伝えしておきますわ 「それは御勘弁を」 美佳は両手をテーブルについて、頭を下げた。 美佳は何のかんの言いながら、エリナの作った料理を全て平らげ た。 「はあ、ごちそうさま」 美佳は箸をテーブルに置いた。「ところで、今、ふっと思ったん だけどさ」 //何ですの? 「エリナはさ、私には強い精神力があるって前に言ってたよね」 //ええ 「けど、以前、遊園地でティシアと戦った時、はっきりいって私は 銃のひき金を引けなかったわ」 //それで 「それでってね。姉貴や由加だってあなたを撃つことは出来たのよ 。なのにどうして私は撃てないわけ」 //それは感情エネルギーと精神エネルギーとの差ですわ 「?」 //私は銃に変形した時、二種類のエネルギー弾丸を作る力を持 っています。一つは怒りや憎しみ、悲しみといった感情のエネルギ ー。もう一つは心を集中させることによって発生する精神のエネル ギーです。私の言っているのは、後者の方ですわ 「それって、どういう違いがあるの?」 //感情エネルギーは、その度合いによってパワーに落差があり 、かつ一度しか撃てませんわ。それに比べ精神エネルギーは、その 人の精神力に応じて何発でも撃てますし、またパワーを調整するこ とも出来ます 「ふむふむ。でもさ、それなら私なんかより拳法とか気の達人とか に撃たせた方がいいじゃない」 //うふふ エリナはクスッと笑った。 「何がおかしいのよ」 //美佳さんには、クレールの精神力があります。もし美佳さん がそれを利用できれば、そんな方々の比ではありませんわ 「また、クレール……クレールの精神力なんてどうやって使うのよ 」 //それは私にもわかりません 「いいかげんねぇ」 //ただ一つ面白いことをフェリカから聞いたことがあります。 幽体は他の生身の人間に乗り移り、自由に操ることは可能ですが、 それが長期に及ぶとその人間に内在する魂との間に同化現象が起こ るそうです。大抵の場合、精神力の強い幽体がその人間の魂を支配 し、同化してしまいます 「同化するとどうなるの?」 //幽体として能力を失い、以後死ぬまでその人間として生きて いくことになります 「それが私とどういう関係があるわけ?」 //わかりませんか。美佳さんはクレールに乗り移られているの にまだ美佳さんのままですわ。もしフェリカの言う同化現象が事実 なら、美佳さんの魂は、クレールの魂に打ち勝って同化したことに なりますわ 「単なる迷信じゃないの。とにかく、現実問題として私はファレイ ヌを撃つことは出来ないんだから、その辺はちゃんとサポートして よね」 美佳はそういって、席を立った。 「ああ、もうこんな時間、遅刻じゃない」 //いつも遅刻してるくせに…… エリナがぼそっと言った。 「何か言った?」 //いいえ。それより、学校へ行くんでしたら、私もお供します わ 「お供?まさか、私に人形持って、学校へ行けと−−」 //変形しますわ 「銃は駄目よ、先生に没収されるから」 //そのくらい、わかってますわ。これならいかがですか エリナの体が粘土状になって一度丸くなると、それが今度は金色 の十字架に姿を変えた。 「ちょっと大きいなぁ」 美佳は愚痴った。首にかけるためのチェーンもついているものの 、その十字架の大きさは縦にして十センチ以上はあった。 //これ以上は無理ですわ。後は美佳さんの体内に入るしかあり ませんわね 「そんなの嫌よ」 美佳は慌てて十字架を首にかけた。「これで、私がピンチになっ たら助けてくれるのね」 //いいえ 十字架のエリナはきっぱりと否定した。 「ええっ!どうして」 美佳が不満そうに言う。 //この間、約束したでしょう。ミレーユたちと戦うって 「戦うって言ったって、私はファレイヌを撃つことが出来ないのよ 」 //銃になるだけがファレイヌではありませんわ。もし美佳さん が私の力を必要とする時には、「チェンジ」と言った後、変形して ほしいものの名前を言って下さい。可能なかぎり、私はそれに変形 しますから、美佳さんはそれで戦ってください 「たったそれだけぇ」 美佳は情けない声を上げた。 //それだけですわ。それで美佳さんがやられるようであれば、 私も見る目がなかったと諦めます 「随分、言ってくれるわね。いいわよ、あんたの力なんか当てにし ないんだから」 美佳はぷんと膨れて、自分の部屋にどたどたと入っていった。 2 ミレーユの指令 東京霞が関のK通り。 水銀のファレイヌ、ミレーユは歩道橋の上で一人、立っていた。 彼女は相変わらず金髪の鬘に、つばの広い帽子を顔を覆うように深 く被っている。 ビル街に挟まれた朝の大通りは、通勤の乗用車で賑わっていた。 どこまでも途切れることのない車の流れは、野性動物の群れの大移 動を思わせた。 一人の男が歩道橋を昇ってきた。その男は身長は一七五センチく らい。顔は顎が角張り、目が細く、唇は薄い。服装は上下白のスー ツに赤のネクタイを着用していた。 男はミレーユの方にゆっくりと歩いてきた。 「総統、遅れて申し訳ありません」 男は静かに言った。 「構わん」 ミレーユは男の方を見て、言った。「おまえも忙しい体だ。それ より、計画の方は順調か?」 「ええ。20か年計画は第二段階が既に終了しました」 「そうか。引き続き計画を進めてくれ。人員が足りなければ、いつ でも言うがいい」 「はっ」 男は敬礼する。 「ところで、横田、おまえに今日、ここへ来てもらったのはクレー ルの件で頼みがあるからだ」 「どのようなことでしょうか」 「この写真の女を殺せ」 ミレーユは横田に写真を手渡した。 「この少女は?」 横田は制服姿の少女の写真を見て、言った。 「この女の名は椎野美佳。クレールが乗り移った女だ」 「しかし、総統、確か幽体は乗り移った人間を殺しても、また別の 体へ移動してしまうのでは?」 「ふふふ、私も最初はそう思って慎重策に出たが、考えてみれば既 にこの女にクレールが乗り移ってから一年近く立っている。してみ れば、同化現象が始まり、すでに椎野美佳そのものがクレールなっ ているはずよ」 「クレールは何故にこの女に乗り移ったのでしょうか」 「さあね。私はただクレールを始末できればいい」 「承知しました。では、K部隊二十名を差し向けることに致しまし ょう」 「油断するなよ。この女には、エリナという味方がいる」 「エリナ?」 「私と同じファレイヌだ」 「総統と同じ……」 横田は驚いた顔をした。 「エリナのおかげで私の親衛隊二人がやられた」 「あの総統の親衛隊が!!」 「だが、心配には及ばぬ。二人は油断してやられただけだ。もとも と私を除くファレイヌには活動エネルギーが人間の十パーセントし かない。つまり、単独では魔法を使うどころか、素早く動くことさ えままならぬのだ。いいか、横田。美佳だけを確実に狙え。奴がフ ァレイヌを使う前にな」 「はっ。肝に銘じておきます」 横田は再び敬礼した。 「頼んだわよ」 ミレーユはそういうと、再び通りの方に視線を戻した。 3 黄金仮面登場 午前八時十五分を過ぎると、N駅は電車が止まるたびに降りてく る学生でいっぱいになった。サラリーマンやOLの姿もちらほら見 受けられるが、ほとんど黒い学生服やセーラー服の前に埋もれてし まう。 登校時間が差し迫っているせいか、この時間に来る学生は電車を 降りると、我先にと一気に改札に群がってくる。 そんな中で椎野美佳は比較的のんびりと、学生が全て改札を抜け るのを待っていた。 「特に怪しい奴はいないわね」 椎野美佳は一度周囲を確認してから、駅の改札を出た。 その後も、美佳は駅から高校までの通学路を歩きながら、始終、 きょろきょろと周りを見やっていた。 //何を気にしてるんですの マンションを出てからずっと黙っていたエリナがテレパシーで話 し掛けた。 「敵よ、敵」 //敵? 「この間みたいにいつ襲ってくるかわからないでしょ」 //でも、そんなに気にしてたら疲れますわ 「死ぬよりましよ」 //それはそうですけど キン、コーン、カーン、コーン ちょうど、美佳が凌雲高校の門の前に着た時、恒例の授業開始を 告げる鐘が鳴った。 門は閉ざされ、門の内側には二人の教師が待ち構えていた。 「また遅刻か、椎野」 教師の一人が言った。遅刻常習者の美佳の顔はすっかり覚えられ ている。 「生徒手帳を出せ」 「先生、私、遅刻したのには訳があるんです」 美佳は門を向こう側の教師に言った。 「訳だと。頭が痛かったとか、腹の調子が悪かったなんて理由なら 通らないぞ」 「そんな理由じゃありません。実は姉が交通事故で入院してまして 、見舞いに行ってたんです。もともと姉と私は、東京で二人暮らし でしたから、姉が入院した今、面倒を見てあげられるのは、私しか いないんです」 美佳は切実な目をして、教師に訴えた。 「わかった、わかった。入ってよろしい」 そう言われると、教師も反論できない。仕方なく、門の扉を少し 開け、美佳を入れた。 「先生、ありがとう」 「今度から気をつけろよ」 「はぁい」 美佳はそういって、校舎の方へ走っていった。 「おはようございます」 美佳は教室の戸を開け、挨拶した。 しかし、教室では既に生徒が全員着席し、担任の教師がホームル ームを始めていた。 「コラッ!椎野、また遅刻か。廊下に立ってろ」 担任教師の木村が怒鳴った。 「はーい」 ほとんど言い訳をいう暇もなく、美佳は廊下に立たされることに なった。 //いつもこんな調子なんですの 「そうそう」 美佳は頷いた。 //美佳さんも大変ですね。同情しますわ 「優しいお言葉、ありがと」 美佳が鞄を床に置くと、教室側の壁を背にして立った。 //どのくらい立たされますの? 「まあ、ホームルームが終わるまでね。前の相川先生の時はこの位 の遅刻なら何も言わなかったのに、木村に変わってから厳しくてさ 。木村が来る前に席についてないだけでも廊下に立たされるのよ」 と美佳は小声で言った。 //こんな時に敵が来たら、困りますね 「恐ろしいこと言わないでよね」 美佳は真顔で言った。 「ざけんなぁ!!」 その時、突然、男の怒声が廊下を駆け巡った。と同時に一年E組 の窓ガラスが砕け散り、破片が廊下に飛び散った。 //何なんですの 「また、暴力が始まったわ」 美佳は特に驚いた様子もなく言った。「E組に入った本西って不 良がいてね、そいつが気に入らないことがあると、先生は殴るわ、 窓は壊すわで大変なんだから」 //よく退学になりませんね 「あいつの親が暴力団だから、学校の連中もびびって手が出せない のよ」 //びびる? 「怖がるってこと」 その後も一年E組の教室では生徒たちの騒ぎ声やガタガタという 物音が頻繁に聞こえてくる。 「椎野」 教室から木村教師が出てきて、美佳を呼んだ。「危ないから教室 に入れ」 「先生、何とかしてください」 「わかった。とにかく、君は教室に入ってなさい」 木村はそういうと、一年E組の教室の方へ歩いてゆく。 //あのまま、ほっておいていいんですの 美佳が教室に入ろうとすると、エリナが言った。 「私にどうしろって言うのよ。本西は小学校の頃から空手やってて 、強いんだから」 //いい機会ですわ、その不良を倒しましょう 「冗談じゃないわ。もし顔でも傷つけられて、お嫁に行けなくなっ たらどうするのよ」 そんなことを言っていると、一年E組の戸がガラッと開き、廊下 に担任の教師らしい男が投げ出された。そして、追うように大柄の 学生が出てくる。 「あれが本西よ」 美佳が言った。 本西は髪を赤く染めたぼさぼさ頭で、目の鋭い体格のがっちりし た男だった。 「も、本西、や、やめるんだ……」 すでに顔に殴られた後のある教師が、手を前に出して諭すように 本西に言った。 「やめろだぁ。最初にちょっかいだしたのは、てめえの方だぜ」 本西がじりじりと詰め寄る。 「それは君が机に足を投げ出していたから……」 「机に足を投げ出してどこが悪いんだ、えっ!校則の何処にもそん なことは書いてねえだろうが」 本西は手にした竹刀で床を強く叩いた。 「なあ、先生、謝れよ。土下座してなぁ」 本村は教師の襟首をぐいと掴んで、引き上げた。 「も、本西!」 これまで黙ってみていた木村教師が声を出した。 「てめえは関係ねえ。ひっこんでろ」 本西がドスのきいた声で言うと、木村もその後の声が小さくなっ てしまう。 「気に入らないことがあるんなら、先生が聞いてやる。だから、安 西先生を放しなさい」 「へえ、先生がこいつのかわりに謝るってのか。いいだろう、こっ ちへ来い!」 本西は再び竹刀で床を叩き割った。 木村はやや表情を引きつらせながらも、ゆっくりと本西に近づく 。既にどこの教室も生徒たちが窓から顔を出し、事の様子を伺って いる。 //このままでは危ないですわ 「こんなに人が見てたんじゃ、何も出来ないじゃない」 //それなら、いい考えがありますわ。どこか人目のつかないと ころに行きましょう 「何だかわかんないけど、わかったわ」 美佳はこっそりと教室を離れた。 その間に木村は本西の前まで来た。 「さあ、安西先生を……」 「いいぜ」 本西はそういうと、安西教師から手を放した。と同時に竹刀で木 村の腹を強く突いた。 「うっ」 木村が腰を折る。すかさず本西は竹刀を振り上げ、木村の背中に 叩き込んだ。 「ぐっ」 木村は廊下に転がった。 「だらしねえなぁ」 本西は大声で笑った。「そこで見ている先公たち、何、黙ってみ てんだよ、おめえらの仲間が倒れてんだぜ」 しかし、普段の本西を知っているだけに、他の教師はすっかり及 び腰になっている。 「本西、わかった。先生が謝る。だから、これ以上、乱暴はやめろ 」 安西が絞り出すような声で言った。 「それなら、床に頭をついて謝れ」 本西の言葉に安西は唇をぎゅっと結びながら、廊下に手をつき、 腹ばいになった。 「本西君、私が−−」 「先生、そんな奴に謝る必要はないわ」 その時、女の鋭い声が飛んだ。 「何だと!」 本西が声の方を見ると、そこには一人のセーラー服を着た少女が 立っていた。彼女の顔には三か月型の目と口を持つ金色の仮面をつ け、胸に金の十字架を下げていた。 「てめえは何者だ」 「私は正義の味方、黄金仮面よ」 「正義の味方だぁ。おもしれえ、その仮面、ひんむいてやるぜ」 本西が竹刀で肩を叩きながら、ゆっくりと少女の方へ近づく。 「後悔するわよ」 ちょっと怯んだように少女が言った。 「後悔するのは、てめえの方だ」 本西がにやっと笑う。 「やばいなぁ、エリナ、本当に大丈夫なの」 少女は十字架を手にして、呟いた。 //自信を持って、精神を集中させることですわ。 「ようし。チェーンジ ソード」 少女が叫ぶと、十字架がきらりと光り、粉に変化して、少女の手 に集結した。そして、次の瞬間、少女の手には一本の長剣があった 。 「な、何だ」 本西はぎょっとした。 「さあ、かかってらっしゃい」 少女は胸を叩いた。 「ざけんなょ」 本西は竹刀を両手でしっかり持ち、飛び掛かった。 「どりゃあ」 本西は竹刀を上から振り下ろす。 「やあぁぁ」 少女の方は逆に下から剣を振り上げた。 パシッ!! 竹刀と黄金の剣がぶつかり合った。 その瞬間、竹刀がスパッと切れ、その先が宙を飛んだ。 「あんたの負けよ。チェーンジ リヴォルバー!」 今度は少女の手にしていた剣がリヴォルバーに変化した。 「ま、待ってくれ」 本西は残った竹刀を投げ捨て、後ずさった。 「言い訳はなしよ」 少女は本西をぐっと睨み付け、リヴォルバーのひき金を引いた。 「う、うわぁぁ」 本西が恐怖に顔を引きつらす。 グォーン!! 銃口より光の弾丸が発射された。弾丸は本西の腹に食い込むよう に突き刺さり、消滅した。 「ゴホッ、ゴホッ」 本西は腹を押さえ、激しく噎せた。 「もう悪さはしないわね」 「もうしないよぉ……」 「先生にも謝るのよ」 「わ、わかった……」 「この次、会う時は地獄行きと思いなさい」 少女がそういうと、本西は血相を変えて、慌ててその場を逃げ出 した。 「やったね」 少女はガッツポーズを取った。とたんに周りの生徒たちから拍手 がわき起こる。 「さぁて、逃げなきゃ」 少女は窓を開けた。「チェーンジ ワイヤー」 今度は銃がワイヤーに変化し、少女がそのワイヤーの一端を持っ て、えいと投げると、ぐーんとワイヤーが伸びて、十メートル先の 隣の校舎の屋上のフェンスに巻きついた。 「では、みなさん、さようなら」 少女は窓に足をかけ、外へ飛び下りた。そして、ターザンばりに 隣の校舎へと乗り移る。 生徒たちは一斉に窓へ駆け寄った。 「かっこいい」 「誰なのかしら」 「ファンになっちゃおうかな」 生徒たちは一同に歓喜の声を上げ、廊下は賑やかになった。 そんな中で上田由加は別の意味で喜んでいた。 「あの銃、きっとファレイヌだわ。だとすると、あの黄金仮面の正 体は−−」 その時、椎野美佳がこそこそと教室に戻ってきた。 「美佳」 由加はしめたとばかりにそっと後ろから近づいて、美佳に声をか けた。 「あっ、由加」 美佳はちょっと慌てた顔をする。 「うふふ」 由加は美佳を見て、くすっと笑う。 「えへへ」 美佳の方も照れ臭そうに笑った。 「やっぱりね」 「みんなには内緒よ」 「いいわ、口止め料は焼きそばパンってところでどう?」 「手厳しいなぁ」 美佳が頭を抱える。 「ねえねえ、見た、今の」 智美が二人に話し掛けてくる。「かっこよかったわねぇ」 「ほんと、かったよかったね」 由加も賛同する。 「あはは、それほどでもないけど」 美佳は頭をかいた。 「誰もあんたのことなんか言ってないでしょ。変なの」 と智美に言われても、さっきまで自分が黄金仮面になりきってい たことを思い出すと、どうにも照れてしまう美佳であった。 「黄金仮面」終わり